1話…年越しは温泉旅館で
高校1年の冬休み。
白煙の揺れる泉の中で、男の子はひとり風を浴びていた。柔らかい湯の感触が彼を極楽気分に導いている。
「…ふぁあー、あったかいなぁ」
その最高な気分はそのままに、水風呂と交互に入る。そんなことをしているうちに時間は溶けていく。温泉特有の柔らかい感触を堪能するが、そんな極楽気分も、時間が経てば地獄のように居辛く感じた。
「…あったかかったぁ」
まだ温泉旅館に来て、少ししか経っていないと思ったのに、気づけば1時間と夕方になっていた。
今日は12月31日の大晦日だ。今日は温泉旅館で年を越すことになった。
県立北湧泉高校1年生のロア。彼は湯上がりに飲み物を飲もうと、ゆっくりと歩き出す。
その時だった。
『やっほぉー!!』
吹き抜けの2階フロアから、女の子が顔を出して騒いでいた。
「…あ、」
ロアは手を振ってあげる。すると女の子は以外にも彼に食いついた。
面白い女の子だな、ロアが木製の階段を上がると、女の子はガラスの柵にもたれかかっていた。
「…やぁ」
女の子は楽しそうに、こちらへと手を振ってきた。
「や、やぁ…」
ロアはいきなり距離感の近い彼女に、少し驚きつつも手を振り返した。
「ここら辺のお人?」
「う、うん。ここから少し近いよ」
「…そうなんだ。私ね、ここら辺の地形がよく分からないんだ」
「…よく分からないって、君は旅行に来たんでしょ?」
「うん。そうだけど…」
女の子はどこか浮かない顔をしていた。それにしても彼女はなんだか可愛い、と思う。落ち着きがない性格と違って、大人のような顔立ちをしていた。
「君、名前なに?」
すると女の子に尋ねられた。
「…こ、小羽ロアだよ」
「へー。私は月城焔だよ」
「あ…つきしろほむらさん」
すると焔は苦笑する。
「なんでさん付けなの?ちゃん付けでいいよ」
「じ、じゃあ…焔ちゃん」
「それでヨシ!」
女の子はそう言って、彼に馴れ馴れしく手を置いた。絶対学校でモテるし人気あるだろ、思わずロアは突っ込みそうになったが、頑張って抑え切った。
「…あの…焔ちゃん、彼氏いるの?」
「いないよ、気になっちゃった?」
「う、うん。凄く明るい子だなぁって」
ロアは正直に言い返した。
「…私?明るいよ!ずっとこれからも明るくいたいなぁ」
「ずっと?どういうこと?」
その時だった。
『ほむらぁー、戻っておいで』
「あ、はーい!」
焔の母親に呼ばれ、彼女は手を振って笑う。
「じゃあ、ロアくんも旅行楽しんで」
そう言って、焔は階段を滑り落ちていった。
その日の夜。
「あー、年越しそば美味しいかった〜」
ホテルの客室はコテージで、ロアたちは年を越すのを待っていた。
「…ふぅう」
客室外のテラスで、ロアがテラスからの夜景を撮っていた時だった。
「…あっ!夕方のロアくんだ!」
「ほ、焔ちゃん」
どうやら焔たちとは隣の部屋のようだった。
「…夜景、綺麗だよね」
すると焔はうっとりとした様子でそう言った。
「うん」
ロアはコクリと頷いた。
木々の先には点々とした色鮮やかな光の粒が点在している。まるで真っ暗な闇に宝石を突っ込んだかのようだった。
「ロアくん、良いお年を」
「えっ?うん!焔ちゃんも…良いお年を」
焔は短く束ねた髪をなびかせると、
「お風呂入ってくるね」
と言って消えてしまった。
(…焔ちゃんともっと仲良くなりたいな)
思わずロアは頬を赤らめて、そう思ってしまった。
3学期の始業式――。
「ロア!おはよ」
「羽咲、おはよ」
羽咲はロアの幼馴染だ。文系の成績に関しては右に出る者はいない。
「…なぁ、今日な、転校生が来るらしいぜ」
「へ、へぇ…。知らなかったー」
「ついさっき聞いたから、ロアが知るわけないがな」
「…転校生かぁ」
転校生はこの北湧泉高校では、全く珍しいことではない。しかし同じクラスとなるとかなり気になってしまう。
「…はーい、ホームルームはじめるよ〜」
担任の安田茉莉花が言うと、あっという間に騒がしい教室は静かになる。
「…とその前に転校生がいます。女の子です。仲良くしてくださいね」
すると男子たちが騒がしくなる。それも茉莉花に手を叩かれて沈められたが。
「どうぞ」
するとドアがゆっくりと開いた。
「…」
「お、かわいい」
「やばっ!どこの子?」
その美少女に思わず、黄色い声が湧き出た。
(う、嘘でしょおぉ……)
しかし…ロアはその人物を知っていた。
「ほ、焔ちゃん…」
その人物。それは……
「…月城焔です。よろしくお願いしまーす!!」
ロアと旅行先で知り合った…月城焔だった。
何と、制服に身を包んだ可愛らしい彼女。その愛らしい顔にロアは胸を大きく膨らませたのだった―――。




