悪魔と少年
皆さん初めまして。
ようこそ『遙か遠くの物語』へ。
私はこの物語の案内人の鈴音と申します。
この物語では、遙か遠く、様々な国で語り継がれてきた童話・民話をお話しています。
さて、今回は悪魔と孤独な少年の物語です。
★━━━━━━━━━★
俺の家は割と裕福だった。
ヨーロッパの名家。
欲しい物は直ぐに手には入った。
両親は仕事で年に数回しか帰らない。
家にはメイド達が沢山居たけれど、常に一人。
いつも孤独が付き纏う。
そんな時目の前に悪魔が舞い降りた。
その悪魔は俺と同じくらいの背丈で、とても可愛らしく、美しかった。
その悪魔が微笑んで言った。
『私と契約しない?』
突然の誘い。
已むに已まれぬ好奇心。
その誘惑によって、俺は了承した。
『じゃあ、契約成立ね。でも、悪魔と契約したら必ず対価を払わねばならないわ』
セシルと名乗る悪魔が言葉を発するだけで心臓が跳ねた。
「その対価って一体?もしかして、死んだ後魂を貰うとか言う・・・」
すると悪魔がクスリと笑う。
『やあねぇ。そんな事しないわよ。悪魔にも色々あるのよ。確かに昔は契約終了後、魂を貰う悪魔もいたけど、今じゃいないわ。無意味な事も証明されたし、対して魂なんか美味しいもんじゃないしね』
「そうか。じゃあキミはどうするんだ?対価って?」
『私が貰う対価はね、“愛”よ』
「愛・・・?」
『そう、愛。悪魔が貰う対価は自分の能力と同じモノ。だから契約内容は『貴方が私を愛し続ける事』よ。貴方が私を愛し続ければ、私も貴方を愛する事が出来る。願いを叶えてあげられるわ』
悪魔が静かに微笑む。
『準備は良いかしら?私のご主人様』
メイド達にセルト様と呼ばれるのには慣れている。
だけど、ご主人様と呼ばれ、胸が高鳴るのが分かった。
「でも俺は今まで人を愛するとゆう事を経験したことがない。人を愛するとはどんな事かさえ分からない。それでも大丈夫なのか?」
悪魔が頷く。
『貴方が私を見た時に美しいと思ったのならば大丈夫ですよ』
俺は思った。
もしかしたらその美しい、可愛らしいと思う気持ちこそが、恋の始まりなのではないかと。
分かるかも知れない。
人を愛する気持ち。
『では契約を』
そう言うと悪魔が擦り寄り、不意に、俺に口付けをした。
「なっ・・・・!?」
すると薔薇の吹雪が舞う。
実際に薔薇が舞っていた訳ではない。
だが、確かに薔薇が見えた。
悪魔に魅せられていたのだ。
『これより私はセルト様のモノ。ですから私に名前を下さい』
一瞬にして服装が変わり、メイドの服装と近い物になった。
『私はセルト様の専属メイド兼屋敷のメイド長をさせて頂きます。それに相応した名前を宜しくお願いします』
名前を付ける・・・。
これ程悩むなんて。
悩み続けた末に結論を出した。
「お前の名前はネレイド。ネレイド・バジルだ」
『ネレイド。素敵な名前ですわ』
悪魔、改めネレイド・バジルは深く礼をした。
それからはネレイドは毎日作業を楽々熟していった。
とても良く働いてくれている。
「ネレイド、少し良いかい?」
『はい』
「何かねぇー、悪魔と契約したってゆう感覚全く無いんだけどさぁ」
『そりゃそうでしょうね』
ピシャリ。
『でも感覚が無いだけで、実際変化はありますよ?だってセルト様は今、寂しくは無いでしょう?』
確かに寂しさは無くなった。
毎日が満ち足りている。
「そうか・・・。その変化が既にそのものなのか」
『ええ』
ニッコリと微笑むネレイドの顔を直視出来ない。
きっと今俺は顔が真っ赤なんだろう。
「なぁ、ネレイド。俺はキミの主人として相応しいかい?」
『ええ。理想のご主人ですわ!』
この幸せがいつまで続くか分からない。
だけど少なくとも今、この時は孤独ではない。
だから幸せに埋もれて気が付かなかった。
迫り来る影を───




