空の青さだけを嘆いて生きていけない
灰色の風が吹き抜ける。そこにはかつて街があった。笑い声も、喧騒も、汗を流す人々の姿も――すべてが跡形もなく消え、今はひび割れた地面と砕けた瓦礫の影だけが広がっている。誰も勝者はいなかった。争いの果てに残ったのは、名もない更地と、無意味に澄みきった空の青さだった。
生き残った者たちは、その青さを見上げるたびに胸を締め付けられる。あまりに美しいがゆえに、かつての喧騒が幻のように思えるのだ。空は何も知らない顔で広がり、彼らの涙を乾かすだけだった。もし最初からこの更地しか知らず、青空に嘆きながら細々と生きていけたのなら、それはそれで幸福だったのかもしれない。何も持たないことを受け入れ、失う恐怖も知らずに、ただ生きるだけの安らぎ。
だが現実には、人は人を傷つけ、奪い、競い合い、誇りと欲望のために血を流した。愛も友情も「勝ち負け」の前では無力で、握ったはずの幸せはいつの間にか砂のように零れ落ちていた。気づいた時にはもう遅く、手元にはなにも残っていない。ただ「かつて在った」という記憶が、やけに鮮やかに脳裏を焼き付けて離れない。
空を見上げる。眩しいほどに青く、冷酷なほどに澄み切っている。あの色に、人は希望を見ていたはずだった。しかし今は違う。青さが告げるのは、取り返しのつかない愚かさと、失われたものの重さだけだ。
そして彼らは思う。――気づかずに生きられた方が、まだ幸福だったのかもしれない