第6話 誰かに見つけて欲しかった
春の陽射しがまぶしい日だった。
それなのに、僕の心は冷たい霧の中を歩いているようだった。
図書館で、ふと目に留まったのは、数年前の地元新聞の特集記事だった。
『自死と向き合う――十七歳の少女が残したもの』
そこには、事故死とされていた白河沙月が、実は“自ら命を絶った可能性”があるという証言が載っていた。
教師の証言、同級生の匿名のコメント。「最近、塞ぎ込んでいた」「何かを怖がっていたようだった」……。
僕は記事を読み終え、しばらく動けなかった。
沙月は、自分の意志でこの世を離れたのか?
それなら、なぜ今もあの公園にいるのか。
その答えは、彼女の中にしかない。
夕暮れ、公園のベンチには、いつも通り沙月がいた。
僕は、そっと隣に座る。
「……ごめん、勝手に調べた」
沙月は、驚いたように僕を見た。
「でも、知りたかった。君のことを」
その言葉に、彼女はしばらく黙ったまま、やがて視線を落とした。
そして、胸に手を当て、かすかに唇を動かす。
“わたしは、ここにいたかったの”
そう、彼女の心が言った気がした。
「沙月……君は、自分を責めてるの?」
彼女は小さく頷いた。
その目には涙がたまり、頬に静かに流れていった。
けれどその涙は、かつてのように絶望の色ではなかった。
「君がどんな過去を持っていたとしても、今、ここにいる君が、僕にとってすべてだよ」
僕の言葉に、沙月はまた少し驚いたように目を見開き、そして、うっすらと笑った。
その笑顔は、ほんの少し、救いの光を含んでいた。