表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6話 誰かに見つけて欲しかった

春の陽射しがまぶしい日だった。


 それなのに、僕の心は冷たい霧の中を歩いているようだった。


 図書館で、ふと目に留まったのは、数年前の地元新聞の特集記事だった。


 『自死と向き合う――十七歳の少女が残したもの』


 そこには、事故死とされていた白河沙月が、実は“自ら命を絶った可能性”があるという証言が載っていた。


 教師の証言、同級生の匿名のコメント。「最近、塞ぎ込んでいた」「何かを怖がっていたようだった」……。


 僕は記事を読み終え、しばらく動けなかった。


 沙月は、自分の意志でこの世を離れたのか?


 それなら、なぜ今もあの公園にいるのか。


 その答えは、彼女の中にしかない。


 夕暮れ、公園のベンチには、いつも通り沙月がいた。


 僕は、そっと隣に座る。


 「……ごめん、勝手に調べた」


 沙月は、驚いたように僕を見た。


 「でも、知りたかった。君のことを」


 その言葉に、彼女はしばらく黙ったまま、やがて視線を落とした。


 そして、胸に手を当て、かすかに唇を動かす。


 “わたしは、ここにいたかったの”


 そう、彼女の心が言った気がした。


 「沙月……君は、自分を責めてるの?」


 彼女は小さく頷いた。


 その目には涙がたまり、頬に静かに流れていった。


 けれどその涙は、かつてのように絶望の色ではなかった。


 「君がどんな過去を持っていたとしても、今、ここにいる君が、僕にとってすべてだよ」


 僕の言葉に、沙月はまた少し驚いたように目を見開き、そして、うっすらと笑った。


 その笑顔は、ほんの少し、救いの光を含んでいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ