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9.ランキングバトル

 ついに『各メンバーの売上をポイント化して公表し、最下位になったら研修生に降格する』という企画を発表する、配信の日を迎えた。


 まだ時間前だが、事務所にはYBIメンバー全員が顔を揃えた。


「どういうつもり?」

「何が?」


 寝室で着替えをして出ようとすると、勝手に入って来たシオンに怒鳴られた。意味が分からず首を傾げると、部屋の隅に置いてあった、黒とピンクのお洒落な古着屋の袋を指さす。


「ねーなんで、マコトと響くんおそろいの格好なの?あの袋、同じ店で買ったんでしょ?!」

「いやでも、古着屋さんで買ったジャージ着てるだけだけど…」

「それあの店のオリジナルのTシャツじゃん!」


 そうなんだ。それは知らなかった。でも、一緒に買い物に行った、それだけでなんでそんなに怒ってるんだ?


「BL営業して、人気取ろうとしても無駄だから!」

「BL営業?」


 …なんだそれ。俺が聞き返す前にシオンはそっぽを向いて、寝室を出て行ってしまった。俺も、後からリビングへ向かう。


 リビングには既に、カメラがセットされていた。在庫が積まれた本棚はロールスクリーンが下ろされていて、そこを撮影背景として使うらしい。

 撮影はカナタが担当するようで、カメラとパソコンの前に座っていた。進行役のマコトは中央で、モニター代わりのタブレットを見ている。マコトの隣には俺を睨む、シオン。シオンの隣がタクミで、マコトを挟んで反対側にキョウとソウマが座っていた。


「響はいったん、カナタの隣にいて。最後呼び込むから」

「え?なんでコイツも…?」

「コイツって…そういう言い方よせよ、シオン。響も研修生だから、俺たちと交代する可能性がある。今日はそれを発表する場なんだから出てもらう」


 シオンは「なんで呼び捨てなの…」と、あからさまに嫌そうな顔をした。隣のタクミも、眉を寄せるとため息を吐く。明らかに俺、二人に歓迎されていないな…。自分の地位を脅かす可能性が一応あるのだから仕方ないけど。

 少しだけダメージを受けながらカナタの隣に腰を下ろした。


「響くん、俺なんか全然二人にライバル視されないから…。むしろ良いことだよ?」

 カナタは気を使ってくれたようで、ぽんぽんと俺の肩を叩いた。

「カナタは気に病め!」

「ソウマさん、黙ってて?」

 

 少し座る位置が離れていても、二人は喧嘩を始めるらしい。それらを全部無視して、マコトは今日の進行について説明をする。


「俺から、メンバーの売り上げをポイントに変換して順位を発表するっていう説明と、新しいサイトの説明をする。その時、カナタは新しいサイト画面を共有をして。売上の棒グラフが動く様子を見せながら、今週の順位を発表する」

「「今日から?!」」

「うん。大まかな説明以外はコメント読みながら進行してく。勿論、投げ銭もカウントするから気合入れて?」

「でもさ、必死過ぎて、ファンの子引かない…?」

 シオンはおずおずとマコトに意見した。俺にはあんなにきつく当たったのに、マコトに対する態度はしおらしい。何故なんだろう…?


「そこは匙加減。うまくやって」


 そして、心なしかマコトの態度はそっけない気がする。それも、なんでだろう。


 不思議に思ってシオンとマコトを見ていてるとシオンと目が合った。目が合った途端、またじろりと睨まれてしまった。顔が美少年で歳も中学生だから睨まれても怖くはないが、相当、嫌われてると分かる。



「そろそろ本番!カナタ、カウントして!」

「はい。5、4、3、2、1…!」



 たったあれだけの簡単な打ち合わせで、あっという間に配信はスタートした。


「Your Best idol、YBIマコトです。どうぞよろしく~!」


マコトが挨拶すると、メンバーも全員一言ずつ挨拶をする。少しだけ天候の話をしたり、コメントに返事をしてから、マコトが本題を話し始めた。


「今日は、新しい企画のご報告です。題して、『ランキングバトル~ビリだけはご容赦くださいっ、研修生に落とされちゃいます!~』です。わーっ!」


マコトが元気にコールして、拍手しても、誰も拍手しない。そこまで打ち合わせしていなかったけどそういうノリのようで、みんな項垂れながら拍手している。


「企画は簡単です。みなさんが購入いただいた、グッズ、投げ銭、ページ訪問数、全てをカウントしてポイントとして見える化します。そのポイントを元に毎週順位を発表して最下位のメンバーは研修生に降格、代わりに研修生がメンバー入りします」

「おいマコト、本当にやるのかよ?!」

「ソウマくん、本当だよ。ではこちらをご覧ください」


マコトはカナタに合図して、新しいホームページに画面を切り替えた。そこにはメンバーの写真入りの棒グラフがトップに表示されている。


「基本、ポイントの棒グラフはリアルタイムで更新されます。リアルに反映が難しいポイントは週末の配信の時点で加算します。その時のポイントが二週連続最下位だったら研修生に降格です。ちょうど二週間後にライブがあるから、第一回目の降格者はそこで発表しまーす!」

「二週間って、早っっ!」

 今度はシオンがリアクションした。画面にシオンが映ると、やっぱり花がある。シオンはYBIのセンターだ。シオンが登場したら、コメントが沢山流れ始めた。


「でもね、皆さん。ここではグッズも購入してもらえるんだけど、決して無理しないでください!ただ、購入出来ない人も安心…!メンバーのページにある広告を見てもらえると、それだけでポイント入ります!」

「無料で?それならいいね…!」

「うん。もちろんメンバーページも更新して楽しいものにしていくし、それ以外にも色々企画を考えてるのでみんな是非、参加してください!」


 早速、企画を理解したらしいファンからシオンに投げ銭が入った。その後、他のメンバーにも投げ銭が入る。


「いちごさん、きなこさん…、早速投げ銭ありがと~!」


メンバーの投げ銭のお礼が一段落したタイミングで、マコトが俺とカナタに合図した。代わりにソウマとキョウがカメラの方に移動する。


「研修生を紹介します。二人も俺たち同様にポイントを公開して、上位者がメンバー入りします。俺の隣が響で、その隣がカナタ。カナタは長いから知ってる人もいるかな?カナタくん、自己紹介お願いします」

「カナタです。今二十歳で、唯一飲酒できます」

「こう見えてメンバーの中で一番年上です」

「タバコは吸わないです」

「うちの事務所、禁煙だからね」


マコトの言葉に、カナタはぎこちなく笑った。話が続かずシオンが「かたい、かたい」とツッコミを入れている。


 カナタはソウマのことをさん付けで呼んでいた。てっきり年下か同じ歳だと思っていたから俺も驚いた。


マコトが俺に目で合図した。いよいよ、俺の番…!


「じゃ、次は響くん。お願い」

「あ、えっと…響です。十六歳で、えーと…」

自己紹介で改めて俺って、何もない事を思い知る。趣味勉強とかみんな引くよね?


「たぶんマコトくん達と同じ歳…です」

「今は同じだけど、俺とソウマとキョウはもうすぐ十七だから学年は一個上。っていうか、年齢だけ?!じゃあさ、YBIに入ったきっかけは?」

「えーと…、マコトくんに会って…」

 正確には花音ちゃんとタクミにあった後、マコトに会ったわけだけど。俺が言葉に詰まると、マコトは笑顔を俺に向けた。


「俺がかっこよかった?」

「うん」

「うんっ♡て、照れる~。あ、響くんに投げ銭来た!ありがとう~。でもさとさん、今のは、俺じゃ無い?あっ、みやぎさんもありがと。ほら、響くんお礼言って!」


 マコトはパソコンの画面を見ながらお礼や、コメントに返事していく。展開が早すぎて付いていけない…!マコトは他のメンバーに話も振りながら場を回していく。すごい…。


「研修生にも応援ありがとう。次回はもう少し話せるように練習します!では最後に今週のポイントを発表しまーす!」


キョウとソウマと場所を交換して、カメラの隣に移動する。いよいよだ…!画面が切り替わって、棒グラフが表示される。

 棒グラフはポイントによって、動く仕組みのようだ。少し動くごとに、配信画面はメンバーへの応援コメントで溢れる。マコトの計画通り、盛り上がっている…!


「じゃーん!今週の一位はシオンでした!二位はオレ。三位はキョウ、四位がソウマ、五位タクミ~!最下位は本当に研修生と交代しますから、気が抜けないです。応援よろしくお願いします!」


 マコトが合図すると、シオンからランク順にファンに応援を呼びかけていく。最後、タクミまで終わるとマコトは俺とカナタに合図した。カナタはカメラごと「応援お願いします」と自分は映さずにお辞儀をした。あまり、表に出たいタイプでは無いようだ。


 次は俺…カナタはくるんと回って自分の時とは異なり俺をアップで写す。

 でも、さっきの自己紹介で出番は終わったと思っていたから頭が真っ白…。なんて言っていいのか分からない。一体、どうすればいいんだ…!?


 困って思わずマコトを見ると、マコトは満面の笑顔を俺に向けた。何か、企んでいそうな笑顔だ。嫌な予感…。


「えっと…、最下位から、シオン抜いて一位目指します!」


その予感は当たってしまった。マコトが似ても似つかない俺の真似でとんでもない宣言をしてしまったのだ。信じられない…!カメラは俺を捉えていてマコトは写っていない。声でわかると思うけど、誤解した人がいたらどうする…?!


「おー、きなこさん投げ銭ありがと!頑張るねっ!」


またマコトは悪ノリのまま、投げ銭のお礼を言う。やっぱり、ちょっと一部の人には誤解されてる!


 俺は鋭い視線を感じて、その方向を見た。タクミとシオンが俺を睨んでいる。ここにも、誤解した人がニ人も…!


 お礼を言い終わると、カメラはマコトやシオンたちに移った。そこでは全員、笑顔だ。


「ありがとう!また来週~!」


 全員で手を振って、その日の配信を終えた。


 




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