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7.YBIの寮

 なぜ、こんなものが…?


 それはネットのどこかをスクリーンショットしたような画像だった。消えろ、氏ねって言うのはネットスラング。嫌がらせのためにわざわざ切り抜いて送ったんだろう。


 俺、そんなに嫌がられることをした?意味がわからない。一体誰が、なんの目的で?


 震えて固まっていると、マコトに名前を呼ばれた。


「響くん…?どうかした?」

「あ。えっと……、なんでもない」


こんなものを受信したなんて知れたら、直ぐ家に帰されてしまう。それはどうしても嫌だった。スマートフォンをポケットに押し込むと、何事も無かったふりをして歩き始めた。





 新宿から一駅、更に歩いて十五分。場所は最高に良いんだけど、まず建物が古過ぎて嫌な予感がした。そして中に入ってその予感は確信に変わる。


「YBIの寮にようこそ~!」

「うわぁ~~~!狭いし、汚…ぃ…」

「あぁん?!じゃー今すぐ自分の家に帰れよ!」


俺の呟きを聞いたシオンは俺をイライラした顔で睨んでいる。シオンにもメチャクチャ嫌われてしまったようだ。


「帰るのはお前だよ、シオン!なんで社長と一緒に帰らなかったんだよ…。おーい、ソウマとカナタ、シオンを送って行って!」

「「「やだ~!」」」

「やだじゃねぇ。義務教育は寮に入れない決まり!ソウマ、カナタ、中学生を夜中歩かせるな」


 マコトにぴしゃりと言われたシオンは、ソウマとカナタに付き添われて渋々帰って行った。


「シオン君、中学生なんだ?」

「うん。それにあいつは社長の子供だから。この事務所兼寮のすぐ近くに社長と住んでる」

「へー…」


 この築何年か不明の古いマンションは1LDK。八畳ほどのリビングには全員が食事するためのテーブルに椅子、さらにテレビと本棚、ダンボールと衣装がぎゅうぎゅうに置かれている。

 寝室にはもっと驚いた。リビングと同じ、八畳ほどの部屋に、二段ベッドが二台置いてある…!おかげでほぼ隙間はなく、圧迫感が凄い。


「でもこれだとソウマくん、カナタくん、キョウくん、マコトくん…四人しか寝られないと思うけど…?」

「大丈夫、ほらここ!ロフトがあるんだよ…!」

「うわー!」


一応プライベートな空間を意識してか、ベットにはカーテンがついている。けど、二酸化炭素が凄そう…。こんな暮らし方して健康に悪くないか?


マコトは俺を、風呂に案内した。風呂といってもシャワーしかない、まるでロッカーの中みたいな、狭い浴室だ。ゆったり疲れを取るなんてできないけど、一日の汚れを落としたらさっぱりした。

 

 シャワーを浴びて脱衣所へ出ると、ジャージと替えの下着が置いてあることに気付く。たぶんマコトだ。有り難く拝借してその後、洗濯機の使い方を教えてもらい、服を洗った。

 これからもこうやって、服を洗って生活していく。「ここでの暮らし」が現実的なものになると、先ほどの画像が思い出されて不安に襲われた。


「響くんのベットはここ」


マコトが指さしたのは二段ベッドの上段、ロフトの隣だった。下の階よりは、上の方が音が聞こえなくて良いかな、と安堵したのも束の間…。


「あっ、響くんベッド下にして?俺、上がいい…!」

「カナタ、急になんだよ!お前は俺の下で寝ろ!」

「ソウマさんの下が嫌なんですよ、寝返りとイビキがうるさくて…!」


シオンを家に送り届けたカナタとソウマは、帰ってくるなり揉め始めた。正式メンバーのソウマと研修生のカナタは一応敬語は使っているものの、何だかいつも兄弟のようにじゃれ合っていて騒々しい。


「タクミが出てってからそのままだったけど、いっそのことベッドの割り振り変えない?俺ずっとロフトがいいって思ってて」


 静かにその場にいた、あまり話さないキョウもロフトがいい、と言い始めた。


一番スペースが広そうなロフトはマコトが使っているらしい。確かに、そう言われるとロフトが一番落ち着くかも。

 カナタとキョウにベッドの場所を変えたいと言われたマコトはあみだくじを作成した。じゃんけんした後買った順に名前を書いていく。


「ロフトが響くん、上が俺とキョウ、下がソウマとカナタ。カナタよかったじゃん。ソウマが上じゃなくなって」

「マコトくん…でも横がソウマさんなのも、結構嫌かも」

「何だよ、やんのか!」


またプロレスを始めた二人を無視して、キョウは布団の移動を始めた。

 

「響くん、俺の布団使って。俺はそのまま、タクミが使ってた布団で寝るから。おい、明日はやる事あるからもう寝るぞ!」


 マコトが強制的に電気を消すと、ぶつぶつ言いながらソウマとカナタもベッドヘ入って行った。

 真っ暗な部屋の中…。もう午前二時を過ぎているが、興奮状態なのか寝付けない。


 スマートフォンを開いて、スマートフォンの画像送信機能について検索する。インターネットを介さず送信者履歴が残らないことから、卑猥な画像を強制的に受信させられる、痴漢的に使われる事があるらしい。今回はまさにそれだ。

 送信範囲は九メートル。

 すると画像を送った可能性がある人はあの場にいた人ということになる。YBIのメンバー全員、ファミレスにい合わせた客。それに、外にいた花音ちゃんもギリギリ、送信可能かもしれない。そう考えると範囲が広すぎて、誰だか分からない分恐怖が増す…。


 怖くなって寝付けなくなった。そのままスマートフォンをいじっていると画面のライトで、ロフトの内部をぼんやりだが見ることができた。


 壁側には小さくて低いテーブルとスタンドライトが設置されていて、本とノートが雑然と置いてある。手に取ると、本には『簿記入門』、『会社法』と書かれていた。それに、国語の辞書もある。マコトは自分で言った通り、本当に勉強していたようだ。

 アイドルは若いうちだけで、資格をとって就職を視野にいれてるとか…?

 ノートを捲ると同時に、背中のカーテンがシャッと音を立てて開いた。


「こら、人のものを無断で見るな」

「あ…、ご、ごめん…!」

「……まあいいけど、早く寝て。あとカーテン全部閉めると冷房が効かなくなるから…半分は開けておいて」

「うん…」


マコトのベットも半分カーテンが空いていた。マコトがお休み、と言って横になると、足だけが見える。


 人の気配を感じて眠るっていつぶりだろう…?すぐに、マコトのものと思われる寝息に被せて、ソウマのイビキも聞こえてきた。


 横のベッドがマコトで良かった。多分、マコトはずっと俺のとなりで喋っていたし、画像送信の犯人ではないと思う。


 マコトの寝息を聞くと安心して、俺もすぐに目をつぶって眠った。


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