56.【最終話】あなたの最高になるまで
「まさかあれが、最後になるなんてね」
「だよなー、あの時、応援してくれた投げ銭、どうなるの?」
「それいったら、その前からだし…!って、お前らうるさい。口より手を動かして!」
愚痴ばかりの、ソウマとカナタをマコトは注意した。しかし、二人が愚痴を言う気持ちも、分からなくはない。
俺たちは今、引っ越し作業に追われていた。マコトはFUJISAKI芸能を継ぐといったものの、やはり倒産させる事になったのだ。と言うのも、FUJISAKI芸能は社長一人が全株式を保有しており、株主総会での代表取締役社長解任が不可能だからだ。
「集めたクラウドファウンディングもNothingで、返却しちゃったんだよ?」
「マジか…」
「だから、仕方なかったんだよ。それも説明したろ!」
あの後、シオンが警察に通報して、社長は横領と計画倒産の疑い、マコトへの暴行容疑で逮捕された。そのためFUJISA芸能は倒産が決定的となり、社長の財産は全て凍結された。憲司に名義変更されたマンションも、社長のものとみなされ凍結されたのだとか。しかしお陰で、税金や滞納していた債権は支払われるのではないかとのことで、安堵した。
「俺たちの売り上げをシオンの会社に移して、それもババアのやつ、憲司に投資しちゃってたらしいよ。音楽スクール作るつもりだったらしくて」
「やっぱり、芸能スクールの勧誘って、やばいよな…。引っかかったやつ、うちにいるけど…」
「だー!本当にうるさい!」
今度こそ、マコトに怒られた二人はダンボールを持って走って出て行った。
「響、あと荷物どのくらいある?」
「あとこれ、一個だけ」
マコトは、俺の後ろにある、まだ残っている衣装やグッズを見つめた。これらは会社の資産のため、倒産により凍結され、個人の持ち物以外は持ち出せない。
「残念だね。衣装とか…」
「ん~、でも仕方ない。借金ないだけ、良かったと思わないと」
衣装やグッズ以外にも、契約なども全て解除される。それは家賃契約も含まれ、滞納もあったことから、俺たちは引っ越しを余儀なくされた。しかし、最も痛かったものは…。
「まさか、動画サイトとか、公式HPまで凍結されちゃうなんて…」
「それは正直痛いけど、でも、しょうがない。それより、最後駆け込みでグッズ買ってくれた人のキャンセル間に合ってよかったよ。遺恨を残さなければ、たぶんまた、ライブとかに来てくれるくれると思うし…」
マコトは、前向きに返事をすると、最後のダンボールを持って、部屋を出た。
マンションを出た俺たちは、少ない荷物を持って、新しい事務所として借りたマンションへ向かった。
「じゃーん!Photoshopで作ったんだけど、どう?!」
「いいんじゃね?!」
「うん、良い…!」
カナタは『YBEntertainment』と印刷された紙を、差し出した。皆んなが納得したので、上機嫌に玄関に向かい、表札の中に差し込んだ。
「「「「おお~!」」」」
キョウ以外の全員が、感嘆のため息を吐いた。ついに、俺たちの新会社が発足したのだ!
社長が一人株主であるFUJISAKI芸能を引き継ぐには、裁判になり、長期化する可能性もある。『YBI』が商標登録されておらず、そのままグループ名として使用できると法律相談で教えて貰った俺たちは、新しい会社を作る事にしたのだ。全員が少しずつ出資して株主となり、社長はマコト。
動画サイトのお気に入り登録者数ゼロ、ホームページ制作も始めからやり直し…。でも、YBIへの嫌疑が晴れた事で、プロテインのアンバサダーに正式に就任できたのだ。その契約もあって、俺たちはかつてないくらい前向きな気持ちだった。
「でもさ、オートロックで家賃が十五万って、大丈夫なのかよ?」
「マコトくんが、プロテインのアンバサダーの契約金があるから当面大丈夫だって言ってたよ。その後は一人三万だってさ」
「バイトするって事?!」
「俺、サイト作って、夏休み終わってガッコーあるし、バイトまでしたら死ぬ」
ーー学校…。そうだった。マコト以外は皆んな、学校に行っている。俺も、辞めようと思ったのだが、結局、転校する事になった。
「しかも、ここからちょっと遠いんだよ。響の学校は近いらしいんだけど。何でだろ…?」
「 あー、あの、ダンスとか歌にも力入れてて芸能コースあるとこだろ?制服もかわいいらしいよ?うらやま~」
マコトがテレビに出た後、親戚から応援されたり、俺の容姿を褒める連絡がママ友からもあったらしく、母さんは機嫌を良くしたらしい。積極的に、芸能コースのある学校を探して転校を進めてきた。
百八十度態度を変えた母さんには呆れたけど、でも、きちんとダンスや歌を習えるのは魅力だった。勿論、活動とも両立出来るのも転校を決めた要因だ。それに…。
「でもちゃんとガッコーの勉強も出来るから。将来クイズ番組に出られるのは、ウチでは響しかいないじゃん!」
マコトは勉強して貰わないと困るよ、と俺に言う。
マコト自身、勉強なんて必要ないと思っていたらしいのだが、知識がないと狡猾な連中に騙されると、今回の事で思ったらしい。マコトは高卒認定を取るつもりだと、俺には話していた。
「それより、部屋、どーすんの?」
キョウは、何より部屋割りに興味があるようだ。なぜなら今回のマンションは2LDK。リビング以外に2部屋あるのだ…!
「一部屋は在庫置き場で、一部屋は寝室」
「でもこの部屋ロフトないじゃん?一人どうするの?」
二段ベッドは二つ。八畳の部屋に二つ入れたらいっぱいだから、必然的に一人は別の部屋で寝る事になる。
「俺は在庫置き場で寝る」
「えー?!社長、ずっっるぅー!」
「職権濫用…!臨時株主総会案件きたぁー!」
皆んな年頃の男の子なので、個室が欲しい。猛反発を食らったマコトは、仕方なく、あみだくじを作成した。
あみだくじの線を五本書いたちょうどその時、玄関のインターフォンがピンポーン、と鳴った。
応答しようと室内モニターに近づいたソウマは、固まっている。後ろから、モニターを覗き込んで、ソウマ以外も全員固まった。
「みんなやっほー!」
「「「「「タクミ?!」」」」」
なんと、現れたのはタクミだった…!なぜ、ここが分かったんだ?!
「マコトから引っ越すって聞いてさ。これ、引っ越しそば。あー、九月半ばだってのに暑いな…!それで、部屋割りどうすんの?」
「いや、、待て。残った荷物取りに来いとは言ったけど、住む気か?!」
「そうだけど…」
「何でだよ!」
「彼女に追い出されちゃって…♡」
「追い出されちゃって♡じゃ、ねーよ!しっしっ!俺たちの苦労の結晶だぞ、このマンションは!」
「何でー、俺も結成メンバーの一人じゃん!」
タクミはマコトが引いたあみだくじの線に、強引に一本追加してしまった。テコでもここに住むつもりらしい。仕方なく六本線で、あみだくじは行われた。
「えーと、四人部屋がキョウ、カナタ、ソウマ、タクミ。物置部屋が俺と響」
「えー?!大丈夫?!」
「二段ベッド足りないけどどうする?」
「ソウマさん、そういう問題じゃなくて!」
そう言う問題じゃないって、どういう問題…?俺もソウマも首を傾げた。
「あーもう、その話は終わり!完全にカナタの誤解だから!あと、タクミがYBIに戻るのは、俺じゃ決められない!」
「え~?でも、マコトが社長なんだろ?」
「そうだけど。そうじゃない…」
マコトがニヤリと笑うと、タクミは顔を顰めた。さすが、結成時メンバー。マコトが企んでる顔は、すぐに分かるらしい。
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「なー、このタイトルどうにかならない?」
「え、すっごいよく出来てるじゃん」
タクミはマコトを見て顔を引き攣らせ、マジかよ…と呟く。
タクミがYBIに復帰できるかは、ファンの人の投票で決める事になったのだ。お詫び行脚と称したファンミーティングも事前に数回行われた。
新会社になってからのイベントはまず、小さい所から始める事にした。人の手配や、契約など初めての事だらけだったからだ。肩慣らしには、タクミ単独のファンミーティングはちょうど良かったとマコトは言う。
そして今日はその最終日。ファンの人達に投票して貰った結果を発表するため、メンバーも全員集合している。
「この、『タクミ、断罪裁判!~決めるのはあなた~』って酷くない?復帰させる気ないでしょ!」
「え?そんな事ないって」
「そうだよ、俺、裏方に徹したいから、タクミくんに復帰して欲しい。じゃないと倒れる…!」
カナタは、あれからHPやグッズの作り直し作業や、学校も始まっているし、いっぱいのようだ。前から裏方になりたいと言っていたし、どうやらタクミと交代するつもりらしい。ソウマは全然、納得していないようだが。キョウは、賛成しているのかいないのか分からない、いつも通り平常運転。
俺は…、カナタ以上に忙しそうなマコトが、動きやすくなるなら、その方が良いのかな、と思っている。
戻って来てからのタクミは、『彼女と別れた』からか、以前と違ってやる気があった。だから、YBIで復帰すればきっと、中心メンバーになるんだろうな、という気がしている。マコトも、何だかんだ言って初期メンバーのタクミが戻って嬉しそうだ。
俺は、それがちょっぴり面白くないし、焦ってもいる。
「そろそろ集合!」
マコトの号令で舞台袖に全員集まり、自然と円陣を組む。
「まーいいや、華麗に復活するぞー!」
「おいタクミ、輪を乱すなよ!」
「それ、ソウマさんが言う?」
「あーうるさい、集中!」
中心のマコトが手を出すと、その手の上に、皆んなが手を重ねていく。
「行くぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
掛け声の後、まず初めにタクミがステージへ出ていった。二番目はキョウ…。
いよいよ、新生YBIの、初めてのステージだ…!
新生YBIと一緒に、俺もYBIの響として新しく生まれた。まだ、生まれたばかりだから、自信も経験もない。タクミが戻って来て焦ってもいるし、また、色んなことに迷って悩んで、マコトや皆んなに迷惑かけるかもしれない…。でも…。
一人一人出ていく姿を見ている、マコトにそっと話しかけた。
「マコト、俺…、いつか、マコトが言ったトップアイドル…。最高のアイドルになるよ。その時、もう片方のピアス、あけるから…!」
そうすればきっと、俺たちは東京ドームに行くようなアイドルになっているはずだ。たぶん…!
「……じゃあさ、やっぱもう一つ、すぐ開けなくちゃ…。だって、響は会った時から、ずっと、俺の…」
マコトが何か言いかけた途中で、ステージから、ソウマとカナタの焦った声が聞こえた。マコトは慌ててステージへ出て行く。
最後が俺だ…!
「響ーっ!来いよ!」
マコトが俺を呼ぶ。
ステージはスポットライトと、観客のペンライトの光が混ざり合っている。
青、黄色、緑、紫…俺の色、ピンク…。
マコトに呼ばれた俺は走って、光の渦に飛び込んだ。




