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47.業務委託契約解除

「正式にはこれから、債権者の皆様に受任通知を送る予定です」

「受任通知…?」



 何を言っているのか、思考が追いつかない。

 社長が、会社を破産させる気なのではないかと思ってはいたが、こんなに急なんて…。


 弁護士は憲司と、社長が座っていたソファーに腰を下ろした。


「これ、皆さんの業務委託契約の写しです」

「契約書…」

「あとこれが、親権者の同意書」


 親権者の同意書…。あれは、社長が子供を預かる為に書いてもらっていると言っていたものだが、なぜ、このタイミングで?


「契約書には法人が破産した場合、契約を解除できると記載されています。違約金はありません」

「は…?」

「その契約に親権者も同意しています」


 やられた…!親権者の同意書が必要って、そう言うことだったのかよ?!


「ただ。あなた達にも生活があるでしょう。来月いっぱいは寮に住めるように交渉いたします。それ以降は、行政にご相談をお願いします」

「いや、ちょっと待て。何だよそれ…!」

「通常、給与は破産財団からの優先支払いを受けられるんですが…。業務委託で解約金の条項もないとなると、難しくて。申し訳ありません」


大して申し訳なさそうに、表情の乏しい顔で弁護士から謝罪をされる。


「実際働いてない役員に払う金はあっても、俺たちに払う金はないってことかよ?」

「資金がショートして給料支払いも止まっていますから、このようなケースでは勤務実態のない役員がいる、と言うのは実はよくあることです。ですので近々、解任の予定です」


 給料の支払いがストップしていた…?役員の給料として支払われたのでないとすると、今月の売り上げだけでも、かなりの額になるYBIが稼いだ金は一体どこに消えたんだ…?


「それってさ、倒産させる為に準備してたってこと?そういうの、『計画倒産』って言う、犯罪じゃないの?」


マコトは弁護士に言い返した。弁護士の男は、一瞬、へえ、みたいな表情をする。


「…勉強されてるんですね。ただ、あなたの言う計画倒産とは全く別です。役員解任は…」

「じゃあ、社長個人の不動産を彼氏の名義に変更したことは?」

「それは、契約不履行分の代金として渡した、と聞いています」

「…嘘、嘘だ…!」

「嘘じゃありません。確かにやり方は問題があったように思います。社会保険料の支払いは分納申請時に個人保証もつけていて、現金がなく、それしか手立てがなかったとおっしゃっていました。もちろん、二期分の決算書と銀行口座を確認しています。破産で問題ない事案だと判断したから、受任しています。あなたがおっしゃる通り計画倒産なら、私も犯罪者になってしまいますから…」


弁護士の自身ありげな発言に、マコトは唇を噛んだ。


 マコトが言うように、不動産の件は時期が合わないし嘘だとは思うが…。向こうは銀行も、決算書も確認している。こちらは情報が無さすぎる…!


「……出直します」

「では、今度は事務所の方にいらしてください。受任通知前ですが、私が代理人として対応します」


マコトは返事をせず立ち上がると、俺たちに行こう、と目で合図した。






 帰るまで、誰も一言も話さなかった。何から話していいか分からない、というのが正解かもしれない。


 何となくみんなと目を合わせられずに寮に着くと、名前を呼ばれて顔を上げた。


「響…!」

「父さん…」


父さんが駆け寄ってきて、俺の肩に手を乗せる。


「響、痩せたんじゃないか…?」

「え?いや…」


違う。運動するようになったから、身体が引き締まったんだ。でも、肩に置かれた手が嫌で、言葉にできなかった。


「昨日、藤崎社長から電話を貰ったんだよ。やっぱり、メンバーにはなれなかったんだろ?約束したな?もう帰ろう…」


約束は、夏休みまでだ…。だからまだ今日と明日、あと一日と半分くらい時間はある。


 それなのにいつもなら助けてくれそうなマコトが、無言でいる。俺は少しショックを受けた。


下を向いていた顔を上げて、マコトを見つめる。


「マコト、俺…、諦めないよ。ドームに行くまで…!マコトは…?」


マコトは少しだけ、キョトンとした顔をした。数回、目をぱちぱちさせた後、イタズラっ子のように口の端を上げて笑う。


「響…!あのさぁ、俺がそう言うタイプに見える?」

「黙ってたから…、そうなのかもって…」

「そんなわけない」


マコトは、俺の肩に置かれた父さんの手をそっと握って頭を下げた。


「夏休みは、明日まであります。最後のランキング…メンバー発表も明日の予定です。それまで、時間をください。お願いします」

「しかし、明日は月曜で…」

「ダメだったら、俺、責任を持って、送って行きます」

「………じゃあ、明日、また来ます。その時は、必ず…」

「ありがとうございます!」


マコトに頭を下げられた父さんは、そのまま、帰って行った。マコトは俺の父さんを見送ってから、みんなの方を向く。


「腹減った…!」

「昼、とっくに過ぎてるよ。なんか食べよーぜ!」

「とりあえず、焼くかあ~」

「ええ?!また粉もん?!脳に栄養行く?!」


 振り向いたマコトは笑顔だった。何か、思いついたのかもしれない…。


「脳の思考にはブドウ糖だよ!」

「マシがよ…!タンパク質もいるだろ!?」

「とりあえず、粉焼くぞ~!」




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