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45.登記情報提供サービス

「名前が違う?」

「うん。たしか、シオンと焼き肉に行った時…」

「何だよ響!シオンと焼き肉食べたのかよ?!」

「ソウマさん、うるさい!ちょっと黙って!」


ソウマはカナタに口を塞がれてしまった。静かになった所で、マコトが俺に尋ねる。


「シオンと焼き肉行った時、どうした?」

「シオンが領収書かいてもらってた名前と、ここの家賃の領収書の名前、多分違う。今の今まで、YBIの事務所が『FUJISAKI芸能』ってことも忘れてて、今気がついた。ごめん…!」


 家賃の領収書には、FUJISAKI芸能、と書かれているが、シオンが言っていた会社名とは違う…。


「謝る事じゃないよ。シオンも、響相手だから油断して領収書を頼んだはずだ。それ以前に何も考えてない可能性もあるけど…。それで、何て名前だった?」

「えっと、確か前カブで、エフ、エスエ…」

「FUJISAKI芸能の、エフユーでもなく、エフエスエ…?」

「エフエスエ……。んんん?!その後が思い出せない…!」

「「「「響~、がんばれ!」」」」


みんなに応援されたけど、どうにも名前が出てこない。俺が詰まってしまったので、皆んなが予想を始めた。


「何だと思う?エフエスエ~?」

「エフエスエー、って伸ばして無かった気がする」

「エフエス、エネルギー?」

「ソウマさん、パワーから離れて?」

「エフエス、エナジーは?」

「だからソウマさん、一回パワーから離れて?」

「思いつく名前、色々、ネットで検索してみようぜ!」


 みんなで思いつく名前を、ネットで検索する事にした。ありがちな名前だったのか、なかなかコレという会社を探せない。俺の、聞き間違いだったのだろうか…?


「だめだなー。あのババアの会社だとすると、ホームページなんか作ってないかもしれないし…」


 確かに。いや…どうにかして、絞り込み検索出来れば…。


「あ、コレどう…?!登記情報提供サービス!住所や商号、代表者から部分一致でも検索可能だって!」

「え、すごい…!個人情報とかうるさい割に、会社の登記状況をネットで検索出来ちゃうんだ?!あ~…、でも、会員登録が必要だって。クレジットカードがいる…!」


 マコトと俺は、せっかく見つけたのに、とガッカリして机に突っ伏した。

 するとカナタが寝室へ行って、ガタガタと何かを探したのち、戻ってきた。


「ついに、唯一、法律上大人の俺の出番が来た。みんな、、封印を解くぞ!」

「なんだよカナタ、封印って…」


カナタが小さい箱を持ってきた。その箱はガムテープでぐるぐるに巻いてある。カナタはその箱を慎重に、カッターで開けた。


 中には、クレジットカードが一枚入っている。


「クレカじゃん!」

「うん…。まだリボ払い返済中で。使わない様に封印しててさ。でも、今、必要だろ?」


そういえば、カナタは以前、スロットで学費を溶かしたと言っていた。その時の遺産か…?


 マコトは思わずカナタに抱きついた。


「カナタ、ありがとう!」

「いいんだけど、また封印したあと俺が使わないように監視してよ…!?」


 わかった、と約束すると、マコトはカナタのクレジットカードを使って会員登録した。『登記情報提供サービス』は登記情報を土日でもネットから閲覧できる便利なサービスだ。


 マコトは登録した後、名前、所在地、代表者氏名で、検索をかけた。複数表示された中から、該当しそうなものを探していく。


「なあ、これ怪しくないか?株式会社FS Entertainment…。代表取締役社長、藤崎詩央里」

「藤崎、詩央里…?でも、ババアは由香里だろ?」


ソウマは違うだろ、と、首を傾げた。


「これ、シオンじゃないか?」

「え、でも、詩央里、って…」

「本名だよ、たぶん。あいつ女だから」

「「はあー?!」」


 ソウマとカナタには言っていなかったから、二人は顎が外れるんじゃないか、ってくらい驚いている。


「えー、だ、だから、シオンてマコトくんがが好きだったんだ?!てことはタクミがシオンを好きだったのも、男子が女子を好きな…、NLってことぉ?!」

「なんか俺、今パニックだよ。どーなってんの、マジで…!」


 シオンがマコトを好きなのは、皆んな知っていたらしい。マコトは少し苦い顔をした。



「俺もパニックだよ、割と…」


 マコトが指差した先には、見たことがある住所が記載されていた。


「下北沢…?」

「うわ、ここ、憲司のスタジオじゃん!」


 登記上の住所は確かに見覚えがある。レコーディングの日、タクシーを呼んだ時に住所を言ったから覚えていた。この住所、下北沢の社長の彼氏、憲司のスタジオだ…!


「それにしても、なんでババアじゃなくてシオンが社長なんだよ?ていうか、あいつ十五だろ。社長になれんの?」

「社長は、印鑑証明つくれる十五歳からなれるよ。あいつ四月生まれでちょうど十五だ。この会社も、その頃できてる」

 マコトは会社設立について勉強して知っていたらしく、十五歳のシオンでも社長になれると、ソウマに答えた。


「…シオンがソロデビューするための会社を新たに作ったってこと?」

「それは、そうだと思うけど…」


 更なるソウマからの質問には、黙り込んでしまった。


「YBIの事務所の社長になってると、新しい会社の社長にはなれないってことはないよね?」

「うん。それは無いはず」

「…今の、FUJISAKI芸能の登記がどうなってるかも、見てみようよ」


俺の提案に、マコトも頷いた。すぐにFUJISAKI芸能の登記を確認する。


「社長は藤崎由香里だ。でも、役員見ろよ。何だコレ!」

「知らねーやつばっかじゃん。誰だこれ?!」


 こんな小さな事務所なのに、知らない人物が役員に複数、名を連ねている。そんな事、あるのか…?!


「俺、コイツは知ってるかも。雅哉…」

「あ、俺も知ってるかも…。ババアが入れ上げてたホストだよな…」


 YBI最古参のマコトとキョウは知っている名前があった様だ。


「ホスト?!」

「うん。すっげー貢いでたのは知ってたけど、会社の役員にしてたとは…」

「てことは、給料払ってたのかな?…いま検索してみたら社会保険料って給料を払う従業員が五人以上いると発生するんだって。だから、皆んな国保なのに社会保険料の督促が来てたんだね…」

ソウマ達は自分で払っていると言っていたから一体誰の分かと思っていたが、そういう事…?!マコトもキョウも、絶句している。


「俺たちには国保払わせといて、マジかよ~?!」

「憲司と付き合ってからは落ち着いたとおもってたけど…。マジでありえね~…!」


マコトは遂に、テーブルに突っ伏してしまった。


「FUJISAKI芸能は訳わかんないホストに役員報酬を払ってて、そのせいなのか金がなくて社会保険料も滞納してるってことは分かった。でも、新しい会社を作ったのは何でたろ?」

「昔の男を清算したかったんじゃね?」


それもあると思う。でも、それだけが理由なら、シオンを社長にしなくてもいいんじゃないか?シオンを社長にして理由は…?

 …理由を考えてみたが、思い浮かばなかった。それはマコトも同じだったらしい。下を向いて考えていたが、マコトは顔を上げてカナタを見た。


 

「にしてもさ、カナタのお陰で色々分かったよ。ありがとう」


マコトにお礼を言われたカナタは気まずそうに、ポリポリと頭を掻く。


「感謝されると複雑なんだけど、実はあのカード無事なのは、社長のお陰なんだよ」

「何で…?」

「俺、親にも頼れなくて、もう、自己破産しようと思ってたの…。そしたら社長に、ブラックリストに載ると、将来結婚して家建てたりする時、借りられなくなるから頑張って返せって言われたんだよ。それで、限界までリボ払いにして頑張って返してんだ」


カナタはでも、実際困った時、金貸してくれたのはマコトくんだけど、と付け加えた。


 

「カナタ、それだよ!!」

「え?!響、な、なに突然…?!」


 俺はカナタの話に興奮していた。肩に手を置いて、カナタを揺さぶる。


「だから、社長も、自己破産するつもりなんだよ!税金、社会保険料、家賃、全部ばっくれて、ブラックリストに載るつもりだから、社長をシオンにしたんだ!」

「なるほど、それでか…!」

「そうだ!そうだよ…!」


 俺はカナタを離して、マコトと向かい合った。モヤモヤしていた霧が晴れた、そんな気持ちだった。


「その証拠、掴めるかな…?」

「実際金がないってのが証拠じゃん」

「いやもっと、直接的なもの。例えばさ、社長のマンション。あれの名義をシオンに書き換えてるとか…」

「響……!キタ…!」

「マコト…?やっぱ、シオンになってる?」

「いや、憲司になってる…!」

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