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44.財産差押?!

「一本買うと、もう一本プレゼントだって!スッゲーお得じゃん?!」

「スッゲー、ってほどか…?」


帰りに皆んなでコンビニに寄ったところ、ソウマが『一本買ったらもう一本無料』のペットボトルのドリンクに飛びついた。


「今流行りの、塩分チャージドリンクだよ!しかもオマケのラムネ付き!いるだろう…!」


プレゼントは一人一本らしく、ソウマは無理やり全員に買わせて自分が買った袋に詰めたのだが。


「重っ!」

「そりゃそうだろ。十本だぞ…!」


ペットボトル十本、大体、五キロくらいのはず。入りきらない分は手で持って、全部持って帰るつもりだ…。


「ソウマ、なんかそのビニールやばくない?」

「え?」


後ろから見ていたマコトが、ソウマに声をかけた時、ぷつんとビニールの紐が切れた。ちょうど、マンションの階段を登ってもうすぐ部屋に着くというタイミングだった。


 ペットボトルが落ちた音にびっくりした俺たちは少しだけ騒いでしまった。


「また苦情言われたらどうすんだ?!」

「大丈夫だよ、たぶん…!」


少しだけ、嫌な予感がしたけど、疲れていた俺たちは、そのまま帰ってすぐ眠った。






****


翌朝、早速『告発用紙』のナンバーをチェックした。


「番号、あってるね」

「マジかよ?!」

「うん。でも逆にいうと、番号知らないと出来ないんだなら、内部の人がやったって事だよ…。それに、マコトに選ばれた人は、半券の引き換えに来たけど、それ以降は誰も来てない」

「でも内容的に交換に来られなかったのかもしれない。それだけじゃ、わざと入れたって証明にはならない気がする」

「……」


 確かに…。少なくとも、ソウマに言い負かされるようじゃダメだ…。しかし告発用紙を見ていたマコトが、ポツリと呟いた。


「これ、シオンの字に似てる…」

「えええ?!じゃ、筆跡鑑定~!カナタ、何か持ってる?!」

「持ってるよ、チェキのサイン…!」


当選者がいなかったチェキのサインを告発用紙と並べてみると、確かに、筆跡は似ているようだが…。


「似てるけど、俺たちケーサツじゃないしな~」

「そういうの見てくれるところ、あんのかね?」

「YBI警察に探ってもらう?」

「ストレートに頼まずに、わざと謝罪動画で晒して、検証してもらうとかかな…?」

「おいマコト。俺は冗談でいったんだぞ?」


ソウマはマコトの過激な発言に、不安そうに眉を下げた。

 でも、YBI警察は花音ちゃんで、花音ちゃんはマコト推しだ。マコトの目に俺が何回写ってるとか執念深い一面もある。そんな動画が上がったら絶対、筆跡鑑定すると思う…。


「わかってる。そんな事は最後の手段だよ」

「うん…そうだね」


 マコトもやはり、メンバーのシオンを公開で追求するつもりはないようだ。

 

 少しホッとしてそれから、本格的にSNSの反応もチェックしようと話していると玄関のインターフォンが鳴った。マコトがサッと立って、対応する。



「マコト、お客さん、誰だった?」

「お隣さんだった。間違って手紙が投函されてたんだって持ってきてくれた。コレ…」

「年金事務所…?」


てっきり昨日の夜、廊下で騒いだから、インターフォンの音を聞いた時は誰かに怒られるのかと思った。


 けど、手紙…、しかも、年金事務所から?


 何でだ…?俺たちまだ、年金なんて払ってない。全然、関係ないはず…。


 手紙には大きく『親展』と赤文字で記されており、何となく良くない知らせな気がした。


マコトは無言で、リビングのテーブルの前に腰を下ろすと手紙の封を切る。


「おい、良いのかよ。勝手に…!」

「…何だ、コレ…」


マコトが開けた手紙には『督促状』の文字が書いてあった。


「社会保険料未納…。指定期限を過ぎても完納しないときは、財産差押の処分をします」

「うおおおい、差押って、どういうことだよ?!」


 マコトはすぐ、パソコンを取り出して検索を始めた。俺もスマートフォンを取り出して『保険料、督促』と打ち込んでみる。


「企業が加入する社会保険料を滞納すると、まず手紙で督促を受けるらしい」

「えええ、マジで?!いくらだよ!?


 みんなで金額を確認して驚いた…。た、高い…!何だコレは?!


「でもさ、社会保険料滞納っておかしいよね?俺、、自分で国保払ってるよ?皆んなもだよね?」

「あー、そうだよな、カナタこの間、赤紙きて払ってたたもんな」


 なのに、何で?と、カナタとソウマの二人は首を傾げる。


「俺たちは業務委託されてるタレントで、会社の従業員じゃないから…。全員国保だよ」


 マコトは「なのに、何で」と呟いた。


 全員国保…?と、言うことは、会社が滞納している社会保険料は、一体誰のものなんだ…?社長のもの?でも、それにしては高額な気がする。



 マコトはテーブルの上にある督促状をばん、と叩いた。立ち上がって、いつもマコトが勉強しているノートを持ってくると、テーブルの上に乱暴に広げる。


「おかしい…!絶対おかしい!これ、ランキング始めてからつけてる俺たちの予想の売り上げ金額と費用…!コレだけ売上があって、なんでこの金額が払えねーんだよ…?!俺たちが必死に売った金は、どこに消えたんだ…!」


マコトはランキングバトルを始めてからの売り上げの予測と、費用の予測をノートに細かく書き込んでいたようだ。広告収入はPV数からの予測だが、見る限りなかなか綿密に計算されている。


「ひょっとしてマコト…。だから、ランキングバトル始めたの…?売り上げを全部ポイントとして見せるっていう口実で、実際の収入を調べるために…?」

「……そうだよ…」


単にグループを盛り上げて金を稼ぎたかった訳ではなく、収入の全容を把握したかったってことか…。驚いた…。


「つまり、マコトは社長の金の使い方が、おかしいと思ってた…?」

「ああ…。実際おかしいじゃん。もう、間違いない。社長は費用が嵩んで儲からないって言うけど、ステージだって碌な演出もないし、グッズだって見積もり取ったらたかが知れてる…。俺たちの給料だってそうだ」


 新しくグッズを作ったのも、仕入れの費用を確認するためだったのか…。


 マコトはノートを見て、舌打ちする。


 確かに、ランキングバトルを始めてから約一ヶ月半の売り上げは相当なものだ。CDの違約金や、先日滞納が発覚した去年の消費税を払ったとしても手残りは相当あるはず。それが、何故…?


「つまり俺たち、騙されてたってことかよ?」


ソウマは青い顔でマコトに尋ねる。マコトが頷くとソウマは反対側を向いて、黙り込んだ。


 事務所社長の藤崎由香里は、俺とマコトがドームの駅のトイレで揉めた時も、真っ先に駆けつけてくれた。皆んなの親代わりも務めていたのだ。裏切られたショックは大きいのだろう。


 全員沈黙する中、また、インターフォンが鳴った。

 室内のモニターには、見知った顔。大家のおばあちゃんだ…!


「ちょっとぉー!あんた達!出てきなさい!」


恐る恐る玄関まで出て行くと、案の定大家のおばあちゃんは怒っていた。


「あんた達、昨日も夜、騒いでたでしょ!そういうことは家賃を払ってからやりなさい!」

「す、すみません…っ!」


やはり昨日の、ソウマが騒いだことがバレていた。俺たちはひたすら謝ったのだが、大家のおばあちゃんの怒りは一向に収まらない。


「三ヶ月以上の滞納は強制退居っていったわよね?!あと二日で八月が終われば、四ヶ月になるわ!家賃を滞納したまま連絡もないし、このままだと本当に、出て行ってもらうしかないわ」

「……」


それを聞いたマコトは、一旦リビングの方に戻って行った。封筒を持って玄関に戻ってくると、それをおばあちゃんに差し出す。


「一ヶ月分です。確認してください」

「………」


おばあちゃんは封筒の中を確認すると、少しだけ怒りを収めた。そして肩掛けカバンから、封筒を取り出す。


「はい、これ先日の分の領収書。今日の分は、貰えるとおもってなかったから用意してないの。後で持ってくるわ」

「ありがとうございます」


マコトは、家賃の代わりに領収書を受け取った。それを見たソウマは、また項垂れる。


「マコト…、これからどうするんだよ…?!」

「…社長と話し合う」

「それで、うまく行くのかよ…?また、言いくるめられたら」

「……」


確かに。売り上げをつけていただけで、費用は全容がつかめていない。だからマコトも、コレまで追求せずに証拠集めをしていたのだろう。


 何かもっと、確実な証拠が欲しい。もっと、何か…。


「…マコト、それ…」

「コレ…?」


俺はマコトが持っている領収書を指差した。その領収書の、違和感に気がついたのだ。


「その領収書、名前が違う…!」

「名前が…?」


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