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43.ロスタイム突入

 寮に帰ってから、改めて八月最終週のランキングを集計した。

 一位はシオン、二位キョウ、三位ソウマ、四位カナタ、五位がマコト。直前に、マコトに過去最高のバッドが入り、逆にシオンにはこれまでキャンセルになったグッズの買い戻しが入ったためだ。


 最下位が入れ替わったことで、俺のメンバー昇格は無くなってしまった。ただ、あんなことがあったから発表するタイミングも、見失っている訳だが…。



「掲示板荒れてるよぉ、、こわいよ~~」

「掲示板だけじゃねーよ、SNS通知なりっぱなしだよ。怖くて開けられねえ…!どーすんだよ、マコト…!」

「どうするって…」



リビングの椅子から立ち上がると、マコトは衣装がかけてあるハンガーラックをゴソゴソと漁り始めた。


「とりあえず、八月最後に浴衣写真アップしようぜ!」

「全然、反省してねえ~!」

 

 ソウマは椅子からのけぞって大袈裟なリアクションをとる。


「ここにいるメンバーだけで撮ると、シオンを外してるみたいになって、マコトが『シオン外して意地悪してる』みたいに取られないかな?」

「さすが響…!賢いな。そーだぞ、マコト!」


 ソウマが俺の意見に乗ってきた。しかし、ソウマは何故か浴衣に着替えている。カナタもだ。


「イベント中止になっちゃって、早く終わったから公園で花火でもしよーぜ!この間の残りが少しあるんだ」

「そうしよう。それにさー、今日、響くんが、最後の夜かもしれないし…」


今日は八月二十九日、土曜日。正確には夏休みは、あと、二日あるけど…。確かに、父さんが迎えに来るなら、仕事が休みの日曜、明日かもしれない。




 俺たちは浴衣に着替えて、いつもの公園に向かった。


「残ってる花火、線香花火だけじゃん…!」

「うわぁー、なんか凹むぅ~」


ソウマが余計寂しくなっちゃうじゃん、と項垂れた。ソウマも、俺がいなくなるのを寂しか思ってくれてるんだ?ちょっとだけ、嬉しい…!


「じゃあ、一番最初に落とした人が、一番最後まで残った人の言うことを聞く、っていうのはどう?」

「マコト~、王様ゲームなんて男同士でやってど~すんだ?!」


 ソウマが文句を言っている間に、マコトはスマートフォンをベンチの、固定出来そうな場所に置く。


「ついでにライブ配信しちゃおうぜ…!」

「でも、シオンが…」

「暗いから分かんないよ」

「いやでも、、カメラ低っ!」


ライブ配信は、しゃがんでカメラを覗き込みながらスタートした。


「みんなー、誰が線香花火を最後まで落とさないか、予想してください!当たったら…」

「当たったらどうすんの?」

「何にも考えてなかった!終わるまでに考えよう!じゃ、いくよー!」


みんなで一斉に火をつけた。スマホのカメラを置いた場所は低いし、全員で収まるためにくっついているから、隣から火の粉が飛んでくる!


「なんかこれ、危なくね?!」

「ソウマうるさい!揺らすなよ…!あー!」


 ソウマがマコトにぶつかって、マコトの線香花火が落ちてしまった。罰ゲームを受けるのは、マコトに決定。


「最悪…!ソウマ、オイ!」


 ぶつかられて線香花火を落としたマコトはソウマを押し返した。押されたソウマは、反対側にいたカナタにぶつかる。


「あ゛ー!!」

「俺のせいじゃないって!」


そのはずみで、ソウマもカナタも線香花火を落としてしまった。残るは俺と、キョウ。


「キョウくん、空気読んで…!響くん、今日最後かもってさっき言ったよね?」

「そうだぞ!キョウ!わざと落とせ!」


キョウの後ろに回った、カナタとソウマはキョウの線香花火を手で仰ぐ。いつの間にか、マコトまで加わっている。


「YBIはやらせなしだから、だめ…」

  

 キョウはいつもの何考えているのか分からない顔をしたまま、片手で三人の妨害を阻止している。


 でも、ふわりと風が吹いて、自然にキョウの線香花火は落ちてしまった。


「熱っ!」

「キョウくん?!」


線香花火が落ちた時に、風で火の粉がサンダル履きの足にかかったらしい。しゃがんでいたキョウは飛び上がって、水道に向かって走っていった。

  

 カナタとソウマが心配して追いかけて行った。マコトも立ち上がってベンチに置いていたスマートフォンを取る。


「正解は、響でした!キョウが負傷したから一旦止めます!」


水道で足を冷やしているキョウの所にみんな集まった。俺を見たキョウは、何を思ったのか、いつもの無表情で、水道の蛇口を握る。


 指の腹で水の出口が狭くなり、細くなった水が勢いよく飛び出した。俺と、マコトに向かって…!


「わーっ!」

「おい、何すんだ!」


 マコトが文句を言うと、キョウは蛇口を捻って更に水量を上げる。


「なんかムカついて…」

「え?!キョウがサラッと陰湿なこと言った…!」

「キャラ崩壊!良くないよ、キョウくん!」

「ちょっ、いい加減にしろって!」


 マコトが悲鳴を上げると、キョウは口の端を上げた。実はちょっと、性格悪かったりする…?


 マコトが嫌がる姿に満足したのか、キョウは蛇口を閉めて水を止めた。そして、びしょ濡れになった俺とマコトのところへ歩いてくる。


 俺の目の前で止まると、袖の中から一枚の紙を取り出した。


「これ、俺が引いた告発用紙…」

「え……」

「探してたんだろ?」


キョウと視線を合わせると、キョウはもう笑ってはいなかった。


「さっさと、あれが嘘だって証明しろよ」

「…もちろん…!」


 力強く頷いて、告発用紙を受け取る。この、番号を確認すれば…偽物かはすぐ分かる。


「マコト、俺が勝ったから、言うことを聞いてもらえるんだよな?」

「うん…?」

「今日、ランキング発表出来なかっただろ?発表するの、あと二日待って欲しい。あと二日で、マコトくんの順位、巻き返すから…。お願いします」


俺はマコトに頭を下げた。マコトは暫く、反応しなかった。恐る恐る顔を上げると、マコトは微笑んでいた。


「いいに決まってる…!」


マコトの返事を聞いたソウマが、俺に飛びついてきた。

 え、ソウマ…?!


「じゃあ、ロスタイム突入だな!やろうぜ!うおー!」

「ちょっとソウマさん、そこ、抱きつくのはマコトくんでしょ!どいてどいて!」

「でもさぁ、響、やるって、何やんの?!」

「わかってないのに飛びつくな!」


その後、SNSにランキング結果は夏休み最終日に発表する旨の告知をした。


 びしょ濡れになった俺に抱きつくソウマと、その隣で同じくびしょ濡れになっているマコトの写真を添えて…。


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