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39.十万人突破記念ライブ

「誰だよ、チェキのフィルムは密林ですぐ買えるっていったやつ…!何件電気屋回ったと思ってんだよ…!」

「案外、電気屋じゃない方が売ってるんじゃね?って言われてホムセン回ったけど全滅だよ…。思いつきじゃダメだよ、計画性が大事!ご利用は計画的に…!」

「……カナタ、どの口が言ってんの…?」


 最近、 ソウマとカナタの息が合っている。マコトが二人に言い負けるパターンも出てきた。


「無理だよ。突然、明日の十万人突破記念ライブでチェキ売るなんて…」


 先日マコトと撮った浴衣チェキ…。


 コメントを縦読みすると『マコト』になる細工をして『撮ったのはマコトだ』と匂わせたら、自分の予想を上回るリアクションがあった。

 あまりに好評だったので他のメンバーの分も、明日の十万人突破記念ライブで売ろうということになったのだが、肝心のチェキフィルムが品薄で手に入れられないのだ。


「よくわかんねーけど、フィルムが品薄ってさ、地下アイドル界隈では死活問題だろ?!」

「結局買えたの、十枚くらい…?予約はしたけど、いつになるか」

「でも、告発タイムの分のチェキが手に入ってとりあえずよかったよね?」


 全員でフィルムを探したのだが、結局、告発タイムに使う分くらいしか買えずに、明日を迎えることになってしまった。


「いやむしろ、特典のチェキフィルムがないってことを理由に『告発タイム』を無くした方がいいよ!」

「そーだよ、俺、トラウマだから。今思い出しても飛び起きる時あるぞ?」


 ソウマとカナタは思い出したら背中が冷えたらしく、身震いした。しかしマコトは、真剣な顔で言う。


「明日、メディアの取材も入ることになったよ。だから注目されるネタは全部出したい」

「まじかよ?!遂に俺たちも…メジャーデビューか?!」

「案外、シオンより先にデビューしちゃったりして…!」

「まさか~!」


俺が、まさかと言ったら、三人に睨まれた。結構みんな本気だったんだ…?



 前日の夕方、近所のいつもの公園で練習して、最終の準備を終えた。


 明日は八月、最後の土曜日…。 きっと、サイコーのライブになるはず。


 ーーいや、するんだ。


 




全く縁がない路線を乗り継いで、俺たちはお気に入り登録者数十万人突破記念ライブ会場にやって来た。

 会場に着くと心配していたシオンと社長も合流して、関係者の皆さんに挨拶する。


「シオン久しぶりだけど、大丈夫?」

「大丈夫だよ。今日は昔からやってる曲だし…」


シオンはマコトの問いに、少し不貞腐れたように答えた。憲司の曲はやらないと決めたから、今日やる曲は結成当初に作られたものらしい。ずっとやってきた曲だから、シオンは自信があるようだ。

 確かに、シオンの方が俺よりずっと上手い。シオンが今日、研修生になったら、そのポジションに俺が入ることになる。……緊張する…!



「三曲やったら、告発タイム。その後、ランキング発表して最後に一曲アンコールしてからアンバサダー就任を発表する」


 今日の予定をマコトが説明する。


 その後、リハーサルをして楽屋に戻ると呼んでもいないのに、社長の彼氏であり音楽制作会社の社長である憲司がいて、のんびりお茶を飲んでいた。


「結構良いとこでやるんだな~。知り合いの記者も関係者席にいたから、ちょっと挨拶してくる」


憲司は業界人風を吹かせて上機嫌で楽屋を出て行った。社長の藤崎由香里も後に続いて出て行く。先日とは異なり、すごく機嫌がいい。


 その後、スタッフが俺たちを呼びに来た。いよいよ本番だ。舞台袖に移動して、円陣を組む。


「今日、二千三百人入ってるんだって。会員無料招待ってのもあって、即完だったらしい」

「いや、来てるね~俺たち!」

「まじかよ…!」

「まじだよ!このまま、行くぞ!東京ドーム!」

「おー!」


マコトの掛け声に、おー、と言ったのは俺だけだった。ちょ…、何で?!しかも何となく、みんなの視線が痛い。


「じゃー、行くぞ!」

「「「「おー!」」」


 音楽が鳴って、カナタ、ソウマ、キョウ、シオンがステージへ飛び出して行った。最後のマコトは、直前に俺に振り向く。


「最後、呼ぶから!」

「おー!」


 ハイタッチして、俺はマコトを見送った。


 

 ステージを、袖から見るのは、やっぱり悔しい。


 事前に集計した結果を見せてもらったが、今回、よほど何か起こらない限り、シオンは最下位だ。アンバサダーの件もあるから、きっと社長も納得してくれるだろう。


 シオンには悪いけど、やっぱり…、もう一度戻りたい。YBIの、メンバーに…!


 

 それに、以前は上手いと思っていたシオンの歌、今日はなんだかそう感じなかった。ひょっとして、俺、練習で、上手くなってるのかも…?!


 曲が終わると、一旦袖に戻りステージは『告発タイム』の準備に入る。舞台袖に戻るなり、マコトはシオンの肩を掴んだ。


「シオン、お前、全然歌えてねーの、分かってる?」

「俺のせいじゃない!お前らが変だからだよ!」

「明らかに練習不足だろ!」


マコトが声を荒げそうになると、キョウがシオンの肩を掴んでいるマコトの手をそっと握った。


「また後で話そう」


他の、スタッフの目もあるから、とキョウはマコトを諭した。マコトはハッとして、ごめん、と呟いた。


 告発タイムの準備が整い、気まずい雰囲気のまま、五人はまたステージに戻って行った。


 告発タイムではまず初めに、ロビーに置かれた投書箱の回収映像がステージのスクリーンに写し出される。これは『スタッフが用紙を入れ替えていない』という演出だ。そして、投書箱がステージまで運ばれてくると前回のランキング順に告発用紙を引く。一位マコト、二位キョウ、三位ソウマ、カナタ、シオンの順番だ。


 一番初めに、マコトが告発用紙を引いた。


「えーと、告発ネーム、ダイエットはライフワークバランスさん。『うちの犬が、ソウマくんそっくりで泣けます』」

「え?どういうこと?可愛いってこと?意味わかんないんだけど…」

「可愛いってこと…だと、思う人ー?!」


マコトが会場に呼びかけると、わーっと手が上がった。すごく、平和な内容でホッとする。



 次はキョウだ。キョウは投書箱の中に手を入れ、たいして掻き回しもせず、上から一枚引く。


「ええっと…。告発ネーム、Y、B I…大好き、さん」


 キョウの読み上げには少し、間があった。いつもほぼ動じないのに、表情が曇っているし、何だか様子がおかしい。

 …キョウ…?


マコトが気がついてキョウに近付くより、ソウマの動きの方が早かった。ソウマは、キョウの告発用紙を後ろから覗き込む。


「なになに…『マコトのBL営業は嘘。それがバレそうになって誤魔化すためにシオンの部屋に生理用品を置いた』…、って、えーっ?!まじで?!」

「ソウマ…!バカッ!」


カナタが血相を変えて、ソウマの口を塞いだ。その瞬間、ステージは暗転し、スクリーンに映像が映し出される。


 写し出されたのは二枚の写真。

 その写真、一枚は黒い袋をぶら下げてドラッグストアから出てくるマコトの姿。もう一枚は、先日のシオンの部屋の配信の写真だ。茶色い紙袋が空いて生理用品が見えるその下に、同じ黒いビニール袋が置いてある。

 これが、その証拠といいたいのか…?


「はぁー?何だこれ…!そんな事するわけねーじゃん!」


会場がザワザワする中、ソウマは憤った。マコトは、一番冷静だったと思う。


「ソウマくんのいう通り。何か、誤解があるみたいです。あと、機材のトラブルかな…。次いこうか、ソウマ、引いて」


ソウマは頷いて、一枚引いた。しかし…。


「えー?!何だよこれ!さっきと同じじゃん…!」

「え…?!」


マコトが慌てて、もう一枚投票用紙を引く。すると、みるみる表情が曇った。


 会場内には、「YBI警察じゃない?前の時と同じ…」というひそひそ声が、広がって行く。


 そうだ、以前、タクミのデート営業が告発された時も、YBI警察が呼びかけて、大量の告発投書を行ったんだ。まさか、それと同じことを…?!


「ネットにも上がってる!」

「YBI警察だ…!」

「てことは、本当なの?!やだ、サイテー!」


会場から、「サイテー!」と、悲鳴が上がる。弁明しようとしたが、前回と同じ、ペンライトなど、グッズが飛んできた。


「モノは投げないで!危ない…!」


マコトの言葉に反応したのか、告発用紙の交換用の半券が一斉に投げられ、紙吹雪のように舞う。


 怒号が飛び交う中、スタッフが慌てて飛び出して来て、メンバー達を舞台袖に捌けさせた。

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