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37/56

37.計算

 マンションからの帰り道は、行き以上に重い沈黙が流れた。


 あまりにもいたたまれなくて、俺は口を開いた。


「シオンは…、やっぱり商品だから手を出せないの?」


マコトはぴくりと肩を振るわせてから、俺に振り返る。


「……まあ、そうかな…」

「でも、ファンの子達、むしろ喜びそうだけど」

「俺にも、選ぶ権利あるでしょ」


そうなんだ…。つまり、シオンはタイプではないってこと?そう言えば、『かわいい子が好きなんて、響きは普通の男の子だな』と、マコトは言っていたっけ。つまりもっとがっしりした男らしい人がタイプ?


「じゃあ、ソウマ的な…?」

「だから俺にも選ばせろ…、っての…」


 マコトは不貞腐れたような顔をした。ソウマでもないとすると…。


「キョウくん?」

「キョウは、昔から知り合いだから…。それ言うとシオンも十四から知り合いだし、恋愛って感じじゃないな…。家族、に、近いのかも」

「そうなんだ…」


 そうだよ、とマコトは俺から視線を逸らした。また、頬を膨らませて、何となく機嫌が悪い。


「たぶん好きな人って、家族とは違って……、つい、姿を目で追っちゃう、、みたいな人のことだよ。たぶん」


 そうか。それでシオンの渾身の告白を断ったってことか。でも、シオンが付き合ってくれたらYBIをメジャーデビューさせるように掛け合うって言ってたけど、断った場合は、どうなるんだ…?報復とか、ないよな…?


 俺は一抹の不安を感じながら、寮に戻った。




 寮に戻って、シオンがマコトに告白した以外の出来事をカナタ達三人に報告した。


 謝罪動画は編集して、社長に送り返事待ちになった。その間、マコトの掃除動画と俺の料理動画を配信することにした。こちらは限定ではなく、全体公開。俺単独の動画は初めてだから、すごく緊張した。

 少しでも、YBIの登録者が増える事に貢献できればいいけど…。


 祈るような気持ちで、アップロードされる瞬間を見守った。

 その後は残った仕事を片付けたり、少し涼しくなった夕方には登録者数十万人記念ライブに向けて、公園で練習したりして、いつもと同じように過ごした。


「明日朝起きたら、お気に入り登録十万人超えてねぇかなあ~」

「そんな奇跡期待するなよ、虚しくなる。逆にさ、シオンの対応が遅れて、減ってる可能性のが高いよ?」


 そうだよな、と、俺とカナタ、ソウマは凹んだ。でもやっぱりマコトだけは相変わらず前向きだった。


「あのさ、俺考えたんだけど…『登録者数十万人突破までダイエットチャレンジ』はどう…?」

「却下、却下!マコト案却下!」


ソウマはマコト案を却下した。確かに皆んな、ダイエットするほど太っていない。それを『十万人突破まで』なんて、恐ろしい!


「じゃあダイエットじゃなくて『登録者十万人突破まで粉もんチャレンジ』は?」

「何だよ…、響がマコト化してるよ…!やだよ!米食べさせてくれよ!」

「面白そうじゃん。やろうぜ!」


マコトが俺案に乗ってきたところで、ソウマが走って逃げた。カナタと、キョウも。


 皆んな帰ってしまったから、俺とマコトは二人で、色々な企画案を出し合った。まだ時間はある、きっと何とかなる。そう思った。




****


 昨日は、確かにそう思っていた。お気に入り登録者数十万人突破までは、多少長期戦になるのだと…。


 しかし、夜が明けてみると、登録者数は軽く十万人を突破していた。



「『ファンを翻弄、イケメン地下アイドルのBL営業とランキングバトル』…!」

「昨日の夜、アップされたみたいだね。オンライン会議で取材受けた方のやつかぁ…」


 先日取材してもらった二社のうち、もう一社の方の記事が昨日夜、公開されていたのだ。


「『これって本当にBL営業?!一番人気は一途なマコトくん。どっちつかずの響くんは最下位に』だって」


 記事は、ランキングバトルとBL営業の事がメインで書かれている。それがSNS上でかなりの数シェアされ、一気に十万人を突破したらしい。


オンラインで配信された記事にはファンの考察サイトのリンクも貼ってある。そこではマコトの目に、よく俺が写っている、と話題になっていたようだ。

 でも、俺は入ったばっかりでミスも多くマコトにフォローしてもらうことが多いし、最近はカメラを構えているのだから、そんなに話題になる程、マコトの目に俺が写っている事が不自然だとは思わないけど。


「このファンサイトってさ、YBI警察だよね?」

「うわぁー、やっぱり…。一回の配信で、マコトが響を見てる時間とか書いてある。なんか相変わらず執念深い、つーか…」

「なあ、俺ってそんなに、響のこと見てる…?!」


マコトは、こんなに見てないよ、と首を傾げている…。


「え?わざとじゃないの?自覚なしなの?」

「めちゃめちゃ見てるだろ!カップル売りで、わざとやってんだと思ってた」

「……」


マコトはソウマとカナタを見て一瞬固まった。でも、すぐにいつも通りの、ちょっとふざけた顔をする。


「そうそう、計算。良かったー、今頃、効果あって」

「ちょっ…、今の間、なに?!」

「カナタよせ、触れるな…!」

「本当だよ…!もうこの話はいいだろ。今日はこれからお気に入り登録者十万人突破記念ライブの打ち合わせが、プロテインの会社とオンラインであるんだ。十万人突破したから正式に採用って話だと思う。それ終わったら配信もある。今日の配信は、初めにシオンの謝罪も入れるから」



 結局、俺たちが撮影した謝罪動画は社長からダメ出しが出てお蔵入りとなり、今日生配信することになったのだ。

 オンライン会議もあるし、いつもより早い時間にシオンと社長がやってきて、もろもろの打ち合わせが始まった。


 マコトは「好きな人はつい、姿を目で追っちゃう人のことだ」と言っていた。今日の打ち合わせでは、何回か、マコトと目が合った。何回以上目が合うと、好きな人になるんだろう…。

 三回まで数えて、その後は分からなくなってしまった。

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