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36.恋愛対象

 何で、シオンの部屋に生理用品が…?


「二本目の掃除動画と、三番目の響の料理は全開放しよう。それで、一般の人の登録者で巻き返すしかない…!」

「マコト~、それより、シオンの炎上はどーすんの?」

「動画は修正して更新しよう。登録者限定だから、影響は軽微…」


 軽微といった割に、だといいな、とマコトはつぶやいた。


「コメント欄閉じる?」

「いや、それやったら逆効果…」

「それいったらしれっと修正も、同じかもよ?」

「ん……、そうだな…。響はどう思う…?」

「え…」


マコトに、突然意見を求められて、俺は固まった。でも、思ったことをそのまま言うことにした。


「シオンくんがどうして欲しいかだと思う。そのままにして、理由を説明したいのか、そっと消したいのか…。曲がりなりにも社長と一緒に住んでるんだから、彼女じゃなくて社長のものかもしれないし」


 母親とあまり住んでいる、気配はなかったが…。マコトはそうだな、と俺の意見に同意した。するとソウマが目を細めて鼻を膨らませた。


「マコト、何で俺の意見は聞かないわけ?」

「俺だと、登録者のことで頭いっぱいだから。響は昨日も優しかったからさ…。それにソウマは何にも考えて無かったろ?」

「マコト~お前、響の贔屓がひどいぞ!」

「うっさい」


マコトはソウマを躱わすと、スマートフォンで電話をかけた。相手はたぶんシオンだ。数コール目で、電話は繋がった。


「もしもし…、俺だけど…」


先日の整形事件で順位が逆転したあたりから、シオンはマコトを避けていた気がする。でも、今日は出るんだな?シオンの感情が、よく分からない…。


「これから、シオンの謝罪コメント撮ることにした。カナタは動画修正してもらえる?ソウマとキョウはキャンセルになる前にグッズの発送してほしい。あと、響…」


マコトは俺に向かってカメラを手渡した。


「カメラ役頼む」

「わかった」


俺たちはすぐ出かける用意をして、寮を飛び出した。シオンの部屋まで無言で歩いて行く。


 一昨日、皆んなで楽しく撮影したことが、こんな事になるなんて…。俺たちは前回来た時とは違い、沈んだ気持ちでマンションのインターフォンを押した。


 俺たちを迎えたシオンも、前回来た時の元気はなく青ざめている。


「あの、ごめん…」

「謝るなよ。俺たちのチェックも甘かったから、共同責任。それより急いで、コメント撮ろう」


 謝るシオンにマコトは思いの外、優しかった。たぶん、本当に自分の責任だと思っているんだと思う。何だかマコトらしい。


 シオンは少し赤くなった目で、頷くと、いつもより少しちゃんとしたブラウスを着て、カメラの前に立った。


「この度は、お騒がせしてすみません。ただ、写ったものは、一緒に住んでいる母のものです。でも、不快に思われたら申し訳ありません」


シオンの謝罪を撮り終えると、マコトは直ぐ帰ろうとしたが、思い直したように振り向いた。


「シオン、誰のものか知らないけど…。彼女だったら匂わせとかは、させないようにして。今、大事な時期だし」

「わかってる…」


 俺もカメラをカバンにしまって、マコトの後を置い、リビングの扉へ向かう。

 すると、ガチャ、と玄関が開く大きな音がした。そのまま、廊下をバタバタと走ってくる足音が近づいてくる。


「ちょっと、シオ……!」


事務所の社長、藤崎由香里こと、シオンの母だ。俺とマコトを見て顔を顰める。


「なんて事してくれたの!シオンはまだ十五歳なのよ?!部屋に女を連れ込んでるなんて噂が立ってしまって…!レコード会社からも問い合わせがきたわ!ソロデビューの話がなくなったら、どうしてくれるの!?」

「だから、『生理用品は母親のものです』って動画を撮りました。それを配信します」

「そんな事、ファンが信じると思うの?!シオンのランキングが落ちたりしたら…!」

「一時的には落ちるかもしれない」

「かもしれない?!だめよ!そんな事!」


社長はひどく取り乱している。ソロデビューの話が立ち消えになることを恐れているようだ…。


「……憲司さんに、相談してくるわ。それまで謝罪動画は一旦待ってちょうだい!」

「でも、早くアップしないと……」

「でもじゃないでしょう!マコトの言う通りにして失敗したのよ、次はないわ!シオンも、ママの言う通りにしなさい!それがあなたの為なのよ!」


社長にも動画は送っていたのだから、チェックしたはずだ。それなのに全部、マコトのせいにするなんて…。自分はシオンをほったらかしで、家にも帰っていないくせに…!

 俺が反論しようと一歩前に出ると、マコトに止められた。


 社長は俺たちを怒鳴った勢いのまま、部屋を出て行く。

 呆然とそれを見送った後、シオンを見ると、シオンは大粒の涙を溢していた。


「シオン……」


俺はシオンにハンカチを差し出したが、シオンはそれを無視した。扉の方を見て、背を向けていたマコトの背中に走って抱きついた。


「シオン?」


抱きつかれたマコトは、困惑したような声をシオンにかける。シオンは泣きじゃくったまま、辿々しく訴えた。


「マコト、助けてよ…!ツラい。このままじゃ無理…、もう頑張れない!」

「シオン…。それはさ、俺じゃなくて、社長と話さないといけない事じゃないか?」

「話し合いになんかならないよ。あの人は俺をメジャーデビューさせることしか…、それで憲司さんの曲をメジャーにすることしか、頭にないんだから」

「……」


マコトは押し黙った。薄々、予想していたのかもしれない。眉を寄せて苦しげな顔をする。


「でも、マコトが、、側で助けてくれるなら頑張れると思う。それならソロじゃなく、YBIでデビューできるように掛け合ってみる。だから……」


潤んだ瞳で、シオンはマコトを見上げた。


「マコトが好きなんだ。付き合って欲しい。そうしたら、俺…。他の事は我慢する。ダイエットも頑張る…」


 マコトはじっと、シオンを何秒か見つめた。でもすぐに、その身体を引き剥がしてしまった。


「ごめん。シオンのこと、そういう対象で見られない。今もたぶん、これからも、ずっと…。変わらないと思う」

「でも、マコトは…」


シオンは『マコトはゲイだから、今後も対象外って事はないんじゃないか』と、言おうとしたのかもしれない。しかし涙が溢れて、続きを言えなくなってしまったようだ。


「……今後のことは社長含めて話し合おう。行こう、響」


マコトは逃げるように俺を連れて、マンションを後にした。


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