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35.ルール

 シオンは初めは嫌がっていたけど、リビングでホットケーキを食べる頃には笑顔になっていた。最近具合が悪いと休みがちで心配になっていたから、少し安心した。


「お疲れ様、動画は社長に見てもらってからアップするから」

「うん」


マコトは送らなくていいと、シオンとは玄関で別れた。寮に帰る途中、俺は思っていたことを、マコトに言った。


「シオンくんさ、お母さん、家にいないのかな…。なんか、そんな感じした」

「うん……。そうかもな」


 返事したマコトは、そんなに心配していない雰囲気だ。児童養護施設にいたマコトからすれば、親が帰ってこないことくらい、どうってことはないのかもしれないけど…。


「食事もちゃんとしてないのかも。例えば、夕飯は、寮に呼んであげるとか…」

「それはダメ」


俺の提案を否定したのはマコトではなく、キョウだった。


「シオンが寮に来るのは配信の時だけ。タクミが出てった時に決まったことだから」

「そ、そうなんだ…?」


いつもあまり話さないキョウに言われて、反論は出来なかった。横を歩いていたマコトは俺に向かって微笑む。


「やさし~な、響は。でも、好きになんないでくれよ…」

「す、好き…?!シオンは、お、男だろ…!」

「何だよ、その反応…!」


冗談だよ、とマコトは笑うと、少し前を歩いていたソウマのところへ走って行ってしまった。


「シオンはマコトが好きだろ…」


 いつの間にか隣にいたキョウが俺に向かって話したので、驚いた。


「それ、何で知って…」

「わかりやすいじゃん、シオンは。だから…、必要以上に一緒にいるのは良くないよ」

「今日、家に行ったけど…」

「カメラありだろ」


 男同士なのに、と言おうとして、飲み込んだ。マコトの性的趣向はたぶん、男だ。だとすると…。


「ここにいるつもりなら、ルールを守ってよ。守らないなら…」


 ……出てけってこと…?


 そう思い至った途端、あの嫌がらせ、『消えろ 氏ね』が脳裏をよぎった。心臓が、ドキンと鳴る。


 すぐ隣を歩く、キョウの表情はいつもと同じ。ぼんやり、天然キャラのそれなのだが…。



「響!寮まで競争するぞー!」


 マコトが大声で俺を呼ぶ。

 そこまで走って追いつくと、直ぐに「よーいどん!」と叫んだ。


「ビリのやつが明日の食材を買うこと!」

「俺、金ないけど負けたらどうしたらいい!?」

「カナタの借金が増えるってこと!」

「ちょ、急すぎる…!」


不利だよ、と叫んで、不安を誤魔化すように全速力で走った。




 

 最下位(ビリ)だったカナタは手持ちの金がないらしく、またソウマに借金した。


 翌日、あーでもないこーでもないと騒ぎながら動画の編集作業を終えた俺たちは夜八時すぎ、スーパーに買い物へやって来た。ドッキリの動画を皆んなで作った達成感…。

 今日は見切り品を美味しく食べよう、ということになったのだ。


 家にいた時は、勉強以外はするなと言われていて、買い物は塾の近くのコンビニが主で、スーパーはほぼ行ったことがなかった。

 

「やべーな、今日いっぱい人いるよ…」

「うん。店員が来たら、後ろでスタンバイしようぜ」


俺たちの今日の狙いは寿司…。回るお寿司でさえ贅沢品の俺たちは、見切り品を買うしかない。見切り品半額シールのワゴンを持った店員の後ろへ、近づき、寿司を狙う。


「助六寿司も保険でとる?」

「それとると、本命にいけないじゃん。俺はマグロが食べたい」

「あっ!」


店員がついに半額シールを貼った…!俺たちは飛び出して、寿司に手を伸ばす…!


「とった♡」


マコトが一個、手に入れた。カナタとキョウもいつの間にか、手に入れている。俺とソウマは、後ろから来たおばちゃんに押されてまだ寿司を手に入れられていない。


「響の分はとったよ」


マコトは俺の分を取ってくれたらしい。結局、戦いに敗れた ソウマは俺を睨む。


「マコト~!贔屓すんな!」

「ソウマが取れないなんて思わなかったから…ごめん」

「あ、俺、助六寿司でいいよ?マコト、ソウマにあげて!俺、回らない寿司より、回転寿司のシーフード派だから」

「「「ああん?!」」」


 

 マコトとソウマ、カナタに睨まれた俺は、助六寿司を買ってスーパーを出た。


 寮に帰る途中で、マコトのスマートフォンが鳴る。


「社長から。動画、オッケーだって」

「まじで?!あのババア、見てんのかなぁ…」

「まあでも、大まかにヤバいとこは編集してるから大丈夫でしょ!」


 寮に戻ると、早速マコトは昨日撮ったドッキリ企画、シオンのお部屋訪問動画をアップした。登録者限定で、私物の、部屋にあったぬいぐるみプレゼント付き。

 その後、見切り品の寿司をおいしく食べて、俺たちはいつも通り眠った。






 その日も、いつも通りの朝のはずだった。


 しかし…。


「みんな、、やべえー!やっちゃったよぉ!!」


朝一、パソコンをチェックしたらしいカナタが、のけ反って顔に手を当てた。


「どうした?!」


朝ごはんを作っていたマコトは、カナタの隣まで走ってきて、パソコン画面を覗き込む。俺と、ソウマも後に続いた。


「コメント見て…。やらかした~…」


 動画のコメント欄には、『シオンの部屋に、生理用品が写ってる』『女の匂わせ?サイテー』と書き込まれている。


「登録者数、減ってんじゃん…!」

「「「マコト、、そっち?!」」」


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