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34.寝起きドッキリ

「マコトくんに同情票集まって、グッズの売り上げ増えてるよ!PVも増えてるから、アフィリエイトも増えるね…!」

「止まってたお気に入り登録者も増えてるぞ!」

「ま、まさか……、10万人、突破……?!」


マコトも俺も、ごくりと唾を飲んだ。目の前のうどんが美味しく煮えたからでは無い。十万人突破の期待からだ。


「それが~、ギリいってない」

「何だよ!ここまで身売りして、行っとけよ~!」

「だよな~。暴露され損だよ、これじゃ!」

「おいソウマ、そこまで言うなよ!」


マコトはソウマに文句を言うと、鍋のうどんを小皿にとった。それを見た俺とソウマも、慌てて鍋のうどんをとる。


「YBIヲチ見てるのはYBIガチ勢だからな。そこからの波及効果が限定的っつーか…。ね、聞いてる?!俺の分析!」


 カナタの分析を誰も聞いていない…。

 昨日の夜、すき焼きをして、翌日の朝、残った鍋の中にうどんを入れて卵を落として煮たらめちゃくちゃ美味しかったからだ。


「もういいけど…。シオンに寝起きドッキリして朝ご飯を作るって企画なのに、食べ過ぎじゃね?」

「ばーか、空腹に響の料理はこたえるだろ」

「そうだよ、胃にワンクッション必要だろ」


 昨日の騒ぎが嘘みたいに、いつも通りの朝だ。いや、昨日みんなですき焼きを食べた時から割といつも通りだった気がする。マコトとカナタ、ソウマの三人で喋って、キョウは無言。

 平和なやり取りではあったものの、俺の料理下げ発言には反論した。


「酷くない?その言い方。それに俺、研修生になっちゃったのに、料理作るメイン役でいいの?」

「だから~、そのためだろ…!」


マコトがうどんを掻き込みながら言うと、ソウマとカナタは「ひいき、ひいき!」と騒ぎだす。マコトは二人を無視して食べ終えると、さっさと片付けを始めた。


「食べたら行こうぜ!」

「OK!」


カナタはカメラと、ソウマは自作した『ドッキリ大成功』の看板を持った。俺はエプロンを着けてフライパンに、フライ返しなど調理器具を運ぶ。


朝食後の朝八時、寝起きドッキリにしては少し遅い時間に俺たちはシオンの家へ向かった。シオンの家は、新しくも古くもない十階建くらいのマンション。

 マンションまで送ったことはあったが、中に入ったことはなかったので知らなかったのだが…。


「生意気!オートロックじゃん!」

「本当だ。部屋の前、いけねえ…!」

「いきなりドッキリ失敗…!」

「看板、折角作ったのに出番なし~!」


早速計画が狂った。仕方なくマコトがマンションロビーのインターフォンで部屋番号を押す。

一度目、二度目は反応なし。三度目でようやく応答があった。


「……どちら様?」

「こんにちは~~、おはようございます。シオンさん、お仕事です。開けてください」

「は…?」


俺たちは監視カメラに向かって手を振った。インターフォン越しにでも、明らかにシオンは嫌がっている。


「意味わかんねーんだけど!何?」

「だからー、寝起きドッキリで朝ごはんを作るって企画だよ」

「ヤダ!」

「社長は、いいっていってたよ!」

「はぁ?!」


シオンにぶつっと、インターフォンを切られてしまった。俺たちは顔を見合わせる。ダメそうだな、と帰ろうとした時、キョウのスマートフォンが鳴った。


「もしもし…?あー、わかった」


電話を切ったキョウは、いつもの無表情だった。


「三十分待って、って」

「三十分?!マジかよ!」

「なげーな!」


俺は三十分待つことより、またシオンがマコトではなくキョウに電話をかけた事が気になった。シオンって、マコトのこと好きなんだよな…?


 俺たちはマンションの玄関ロビーで住人に怪しまれながら三十分経つのを待った。

 一階の玄関ドアが開錠されると、エレベーターに乗って部屋へ向かう。


「カナタ、一応メンバーだから一旦カメラは響に渡して」


 マコトに指示されて、俺はカメラを持った。フライパンとフライ返しはキョウが持ってくれる。


 部屋の前のインターフォンを押すと、恐る恐るシオンは少しだけ扉を開ける。マコトは隙間に足を捩じ込み、ドアノブを強引に引っ張った。


「おはよーございまーす!」

「わー!」


ドアノブを持っていて引っ張られたシオンがよろけていてもお構いなし。マコトを先頭に、ソウマとカナタは部屋に入って行ってしまった。


「最悪ー!」


 叫びながら、シオンが三人を追いかけていく。俺もカメラを構えながら、追いかける。マコトたちは悪ふざけして部屋のドアを次々勝手に開ける。浴室、手洗い、その次の部屋は、豹柄のカーペットが置かれていた。この悪趣味な感じ、多分社長の部屋だ。中は俺の母親と同じ、有名ブランドの香水の匂い。それに母も好きなブランドのショッパーもあった。


 シオンの部屋でないとわかると三人はさっさと部屋を出ていったが、俺は何となく違和感を覚えた。


「あー!ここだ!」

「メンバーカラーの赤で揃えてあるじゃん。結構かわいい!」

「ちょ…っ!勝手に部屋の中に入るなよ…!」


マコト、ソウマとカナタは部屋の中に入って、勝手に動いている。ソウマはなんと、シオンのベッドにダイブした。


「やべー、ふかふか♡」

「本当だ!ここで寝たい!」

「勝手に布団の上に乗るな!洗ったばっかりなんだぞ!」

「なんだよ人をばい菌扱いして…」

「もういいから出てけよ!」


シオンはベッドに転がったソウマとカナタを怒鳴った。相当、嫌だったらしい…。


「せっかくだからさ、シオン、なにか私物プレゼントしてくれよ」


マコトは言うや否や、クローゼットに手をかける。シオンは素早く移動して体当たりでマコトを止めた。


「絶対ヤダ!無理っ!」

「えー?!今回の動画、登録者限定なんだぞ?特別感出したいじゃん!」

「知らねーよ!なんだよ、勝手に来て!」

「ノリ悪いなあ…。じゃあ仕方ない、キッチンにいこっか」

「キッチン?!」


企画内容を知らないシオンは、マコトの勢いに負けて渋々キッチンへと向かった。突き当たりのドアを開けると、向こう側がキッチンらしいが、シオンは扉の前で躊躇った。


「……どうしてもやるわけ?」


マコトはうん、と頷いた。それを見たシオンはため息混じりに、扉を開ける。


「うおー、きったな…!」

「これ写して大丈夫なやつ?!」


 扉を開けて、驚いた。リビングダイニングには対面式のキッチンが設置されているが、そのキッチンが汚いのだ…!ゴミもそのままだし、いつのものかわからない使用済みの食器が散乱している。


「…うーん、まぁ大丈夫だろうけど、このままここで作れないよな。とりあえず片付けよう。シオン、ゴミ袋とって」


 マコトはテキパキと片付けていく。その様子を見てYBIの寮は古いけど、清潔に維持されているのはマコトのおかげだなと思った。


「うわぁー、虫ー!俺虫はだめ…!Gは特にダメ!」


 ソウマは一番遠く、カメラを持っているカナタの後ろに隠れた。外見は男らしいのに、ギャップがすごい。


 その優しそうな見た目に反してマコトは虫など気にしない。あっという間にゴミを片付け、皿を洗い、キッチンのシンク、ガステーブルまで綺麗にしてしまった。


「どう?撮影には、耐えられそう…?」

「すごい!むしろ今の動画を投稿したら、主婦層とか見てくれるんじゃね?!」

「確かに……!」


ソウマ、カナタは盛り上がっていたけど、シオンは黙って俯いて、少し嫌そうな顔をしていた。


「それは流石に家主の、社長に許可とった方がいいんじゃない?」


俺が意見すると、三人は一斉に振り返った。俺をじろりと睨む。特に、マコト…!


「じゃあ、料理しようぜ」

「料理って、なに作るの?」

「決まってない。この家にあるものでつくるから」

「はあ?!」


 シオンの理解が追い付かないうちに、まことは冷蔵庫を開けた。しかし…。


「何にもはいってねーじゃん!」

「うわ、ホントだ…」

「あ、でも、小麦粉あるよ。あと卵…!」


 なんと、シオンの家には食料が殆どなかった。冷蔵庫はからっぽだ。

 俺はさっき、社長の部屋に入った時の違和感を思い出していた。リビングもそうだが、なんだかあまり人が生活している気配がない。社長は彼氏がいて、今も不在…。ひょっとして、あまりここに帰ってきていないのだろうか?まだ中学生の、息子がいるのに…?


「小麦粉といえば、、俺に任せろ!」

「えー?何作るんだよ…。小麦粉と卵に、あとは調味料くらいしかないぜ?」


 マコトは小麦粉料理が得意らしい。でも、小麦粉以外は卵だけしかないのに、どうするつもだ?調味料を確認して、マコトは作るものを決めた。


「じゃあ響、やろうか。卵、卵白と卵黄に分けられる?」

「え…」

「完全に割れないように、軽く叩いて割れ目だけつけて」


言われた通りに、ボールの角でコンコン、と卵を叩く。


「ヒビのところから卵の殻を割るんだけど、卵黄を片方の殻に残すようにして、卵白をボウルに落とす」

「え?!どうやって?」

「一緒にやってみる?」


 マコトは俺の手を握って、卵の割り方を教えてくれる。


「そのまま、殻から殻に卵黄を移動させながら卵白を落とす」

「……、出来た!」


うまく出来たので思わずマコトを見上げると、ニコッと微笑まれる。もう一つ、卵白と卵黄に分ける作業は一人でやった。


「あっ?!」

「何だよ、響…!心配になるからそんな声だすなよ~!」


ちょっとだけ殻が落ちた気がしたけど、、大丈夫だと思う。多分。絶対食べてくれそうなソウマが不安がっているから、笑って誤魔化した。


「卵白を思いっきり泡立てて。よかったー、泡立て器持ってきて!」


 言われた通りに、卵白を思いっきり泡立て器でかき混ぜると白くもったりして、どろっとした液体からクリームのようにふわっとしてきた。


「そしたら、粉を少しずつ入れて、ざっくり混ぜよう。本当はゴムベラがあった方がいいんだけど、仕方ない」


泡立て器で、混ぜすぎないようにふわっと混ぜると、昔、母さんが作ってた、ケーキ生地のようになった。


「これって…?」

「ベイキングパウダーなし、ホットケーキだよ!」


 加熱したフライパンに油をしき、生地を流し入れた。じゅわ、と音がして砂糖と小麦粉がこげる、甘い、いい匂いがする…。


「響…!生地がぷつぷつしてきた!ひっくり返して!」

「え…?!わ、わかった!」


 ホットケーキをひっくり返すの、人生初…!俺は思いの外、手間取ってもたもたした。


「なんかこげてるよ!早くしろ!」

「ソウマに焦らされると、余計遅くなる!」

「こら響!言い訳すんな…」

「おい、響…!」


黙って見ていられなくなったらしい、マコトがまた、手を出してきた。


「ちょっ、自分で出来るって…!」

「いや、こげてるよ!」

「大丈夫…!」


揉めてる間に、ちょっとだけこげてしまったが、無事……、ホットケーキは焼けた。

 

 ホットケーキはこんがりきつね色…、を通り越して、やや茶色、ところどころ黒い。しかし、包丁を入れてみると、思いのほかふわっとしている。バターと、シロップがあれば完璧だったかも…。

 口に入れたらちょっとだけ焦げた味がしたけど、ほろ苦くて甘くて、案外ちょうどいい。


「おい、今なんか『がりっ』てしたぁ!」

「ソウマ、それ当たりだよ!」

「響…!あてるな、あてるな!」

「卵の殻いれるなよぉー!」


 


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