30.家賃
「嘘言うほど、暇じゃないわよ!」
「あ、いや…。すみません。ちょっと連絡してみます」
マコトはリビングの方に行って、電話をかけている。さっきシオンに会ったとき「買い物を母さんに頼まれた」といっていたから多分、家にいるはずだが……。
「あの~、このおばあちゃんは一体…?」
「ここの大家だよ。最近こないから油断してたぜ…!」
大家さんから、ここをわざわざ訪ねてきた、と言うことは、よほど業を煮やしたということか。
おばあちゃんはこそこそ話している俺とソウマをきっと睨んだ。
「おばあちゃんじゃないんだけど!
「す、すみません…!」
少し経って、マコトは玄関に戻って来た。表情だけで結果は察した。
「すみません、社長と連絡つきませんでした…。あの、、何ヶ月滞納していますか?」
「もう三ヶ月。三ヶ月以上は、強制退去って、手紙も送ったはずだけど。前はギリギリ三ヶ月で支払いしてもらってたのが、今月、そろそろ四ヶ月になるわ。」
「…手紙は渡していたんですが。申し訳ないです。えっと、、取り敢えず払えるだけ払います」
マコトはほぼ項垂れるように頭を下げた。
「ここの家賃、一ヶ月分、最低十万は払いたい。この間、渡した電気代とネット代、バックして貰える?あとは俺が払う」
「水臭いだろ、マコト~!いいよ、みんなで割ろうぜ!一人二万!ある?」
ソウマはマコトに抱きついて、マコトが多く支払おうとするのを止めた。みんなに分割を提案すると、カナタが真っ先に口を開く。
「ごめん無いや」
「おいいいい!カナタ、お前なー!」
「だってもう大丈夫だと思って、、ストレスと一緒に溶けちゃった♡」
「スロットはいかねえって約束したろ!」
「そうだけど…」
カナタはこんな事になるとは思わなかった、と頭をかいた。ソウマは今度はカナタに掴みかかる。
「相変わらずねえ…。私はあんたたち嫌いじゃ無いから、三ヶ月我慢したんだけど……。私ももう歳だから、ここ売ることにしたの。そうすると、こんなに待てなくなるわ」
おばあちゃんが苦笑いすると、マコトは頭を下げた。みんなで二万円ずつ、カナタの分はマコトとソウマが折半して一ヶ月分支払いした。
「今月末残りを取りに来るから、必ず、社長に連絡してお金を用意して!」
大家のおばあちゃんが帰った後、俺たちはリビングに集まった。全員無言で、席に着く。
テーブルの上に置いた、マコトのスマートフォンがブルブルと震えると、マコトは直ぐ着信をとった。
「どういうことだよ…!今日大家が来た。何で家賃払ってねーんだよ!この間確認したよな?!」
マコトは声を荒げながら立ち上がると、隣の寝室へ入って行った。ソウマは気になって、扉に耳をつけて聞き入っている。
すると、五分もしないうちに、マコトは扉を開けた。
「ババア、何だって?」
「……CDの契約不履行のせいだってさ。三ヶ月も滞納して、今月のCDが原因な訳ねーじゃねえか!」
マコトはそのまま、テーブルに突っ伏した。
「そのツッコミは入れた訳?」
「いやもう、呆れて…」
ソウマはマコトの答えを聞いて、マコトの隣に座り背中をさすった。
しかし、事務所の家賃、光熱費、全て滞納して、藤崎由香里はどういう経営をしてるんだ?
ライブのチケットを完売させ、グッズの販売も増やし、バッド課金に投げ銭。ランキングバトルを開始してから、全て上り調子のはずなのに、なぜ?
「……カナタごめん。今日なんもできね~」
「うん。今日はやめよ…」
本当は色々やることがあったのだ。それなのに…。みんな脱力してしまい、五人で無言のまま時間が過ぎる。
「じゃあさ、今日はあそこいこーぜ?」
「あそこ?」
顔を上げたマコトは、少しだけ笑顔だった。
「うぉ~~!」
叫び声と共に、ソウマがバットを振り抜くと、芯でボールをとらえた。バッティングセンターに「カキーン」と気持ちいい音が響く。
「ホームラン!」
隣を見ると、マコトは無言でバットを振っている。全然、当たっていないけど…。しかも大きく振り回しすぎて、空振りした挙句、バランスを崩して転んでしまった。
「大丈夫?」
「はあー、暑いー!」
転んだまま、宙を見上げた。疲労は見えるが、表情は和らいでいる。
「八月の屋外バッティングセンターなんて無理だよ…。暑すぎて、死ぬ…!」
「あーでも、体動かしたらスッキリした~」
カナタは完全にへばっているが、ソウマは楽しそうだ。それにマコトも。
カナタとキョウは暑過ぎると言って、冷房がある待合室の方へ行ってしまったが、俺とソウマとマコトは残った。
「後一回ホームランで、ホームラン賞貰えるぞ!そしたらマコト、響、あと六ゲーム追加だ!」
「「え~~?!」」
また経費のはずの家賃を払わされた気晴らしにバッティングセンターに来たとは言え、流石に俺もマコトも暑すぎて、顔が引き攣った。しかしソウマはやる気満々である。ノリノリで構えてバットを揺らしている。
「おーい、マコトくん!大変だよ~!」
ソウマがバットを振る瞬間、待合室で涼んでいるはずのカナタが戻ってきた。スマートホンを指差して口をぱくぱくさせている。
何か言っているようだが…。ソウマのバットがまた、芯でボールをとらえた。「カキーン」と言う音にかき消される。
「ホーーームラーーン!」
「それどころじゃないって!見てくれよこれ、YBIヲチに『マコト整形疑惑の証拠』ってのが貼られてて…!」
「「「はあ?!」」」
俺たちは、カナタが差し出したスマートフォンの画面を見た。確かに『マコトは整形、証拠みつけたw』と書き込まれ美容整形が入っているビルから出てくる写真と、領収書が貼られている。
「なんだよこれ、次々と…!嫌がらせとしか思えねえな!」
「しかも何だよ、どこから手に入れたんだ、領収書とか…。名前写ってないし、捏造…?写真もこんなの、こじつけもいいとこ…!」
ソウマとマコトはスマートフォンの画面に向かって憤った。
「はぁー、まいったな。ソウマ……、あと六ゲーム、打とうぜ!」
「マコト~!よし、いいぜ、やろう!」
ソウマは張り切ってホームラン賞を交換しに行った。そしてまたマコトは怒りのまま、バットを振った。




