27.案件はやらないっていった!
「俺たちあの後、憲司を追いかけるババアを追いかけて本当に大変だったんだよな!」
「本当最悪。てゆーか、憲司のどこがいいのか謎すぎ。そんな奴に振られたからって泣いて叫んで…。そいつに頼らないと活動出来ないってのが一番最悪!」
「バカ、核心を突くなよ…!とにかく俺とカナタは大変だったんだ。それなのに疑われてさぁ~。かわいそすぎる」
ソウマはぴえん、と可愛くない声で可愛いポーズをした。
「おい、ちゃんとアリバイ説明しろよ!」
「だからないんだって!ちょうどババアを挟み撃ちした所だったんだ!そういうマコトこそアリバイあんのかよ?!」
「…ない」
「ないんじゃん!」
「俺はいーんだよ!信頼関係が違うの!」
「え、でも響、めちゃ疑いの目で見てるよ…?」
ソウマに言われたマコトは、俺の方をじっと見た。マコトのことも疑っていることが、バレたらしい…!
「まあでもそういうわけだからお前たちは響の半径1メートル以内侵入禁止な」
「「何でだよ?!」」
二人は納得がいかないらしく、唇を突き出している。
「それより始めるぞ!カナタ、カメラよろしく。キョウは照明、MC俺で、響はアシスタント役」
今日はソウマの動画を撮ることになった。
犯人を探すとマコトは言ったが、目下、レコーディング契約不履行分の二百万を稼がねばならないのだ。YBI全員疑惑が晴れないまま、動画の撮影が始まった。
マコトはこの、『ソウマの喧嘩でダイエット』動画をアップするつもりらしい。更に何か企画もあるようなのだが、台本はマコトの頭の中だけ…。
「ソウマくん、最近ダイエットの相談をたくさんもらってるんだけど、何かアドバイスある?」
「やっぱりカロリー制限すると、栄養が偏っちゃうんだよね。そこで、たんぱく質がやっぱ大切だと思う。筋肉量維持と、空腹防止、基礎代謝アップ!いいことだらけ!」
「そういえば、ソウマくんおすすめのプロテインで太ったって声あったけど…」
「あれね、俺も試したんだけど、太りはしなかった。たぶん飲み方の問題。あとプロテインにも種類があって、ダイエットならソイプロテインが腹持ち良くて効果あると思う」
ソウマのセリフにマコトはニヤリと笑った。そのコメントはどうやら狙い通りらしい。
「自分でも試してるんだ?」
「うん。ダイエット動画だと、YBI動画と違って俺への反応多いから楽しくてさー!」
「じゃあさ、案件とか来たらやる?」
「いや、やらない!俺、本当に良いものしかお勧めしたくない!お金もらったら、何にも言えなくなっちゃうじゃん!」
ソウマは逞しい胸を張った。最近より一層筋肉がついたらしい。ソウマくんて、アイドル、だよな…?
「絶対やらないの?」
「絶対やらない!!!!」
力強い、ソウマのコメントで、動画の撮影は終了した。
フツーの動画だけど、これを配信する意味って…?
そう思っていたら、カメラを止めた途端、マコトが口を開いた。
「ソウマくん、案件やろうと思ってて」
「おいいい!」
さっき『案件やらない』と言ったソウマは盛大に突っ込んだ。
「海外の会社の商品なんだけど、商社が取り扱いに乗り出して今売り出し中なんだよ。公式アンバサダーで、インフルエンサー何組か採用してて、思い切って企画書と一緒にDMしたんだ。そしたら好感触。さっきの動画編集して、もう一回送ることになってる」
マコトはどうやら、密かに営業をかけていたらしい。いつのまに、そんなこと…。ソウマ始めみんな、目を丸くした。
「でも俺、案件やらない、っていっちゃったよ?!」
「いーんだよ!案件やらないソウマくんが案件やるから価値があるの!」
ソウマは首を傾げる…。
つまり「絶対案件やらない」って言って、「でもコレはすっごくいいから受けました」っていうセールスをするってことだな?
「それに、ソウマくんの動画はメン地下好きの人以外も見てくれてて。コレが伸びたら俺たち、一皮剥ける気がするんだ。一応、社長にも許可取ってるし。頼むよ…」
「ちょ、ちょっと…、考えさせて。……ランニング行ってくる」
いつの間にか、昨日喧嘩した社長にまで根回ししていたらしい。その事実に、ソウマは動揺している。
「うん…」
「あ、ソウマくん、俺も行く…!」
そのまま残って、マコトと話すのが気まずかった俺は、ソウマとランニングに出た。
「ソウマくん、めちゃくちゃペース早くない?!」
「だって半径一メートル離れないとだろ!」
そんな事、律儀に守っていたらしい。それにしても早い…!
「ソウマくん、もっと遅く~」
「ああ?ちゃんと鍛えろよ!Stormixはドームで二十曲くらいやってたろ!」
「はぁはぁ……。行けるかな?YBIも」
「行けるよ、マコトも言ってたろ?信じてくれよ」
『信じてくれ』っていうのは、ドームに行くことか、嫌がらせの犯人じゃないってことなのか…。ソウマは俺に振り向いて、少し笑った。
「少なくとも、マコトのことは信じてくれ」
「何でマコト?」
「カップル売りだから」
「……そういう…?」
俺だって、マコトを信じたい。
いや、……みんなを信じて、YBIでドーム公演やりたい。だってみんな、良い奴なんだ…。
「ソウマくん、ドーム行こう!」
「ああ!でも俺たち、憲司さんの曲、歌わないってなると三曲くらいしか持ち歌ねーけど!」
「マジで?!」
「まじだよ!」
「三曲七回リピートするの?」
「そうなるな!」
俺とソウマは次から次に噴出するYBIの課題に頭を悩ませながら、寮まで戻った。
寮ではマコトがまた、ホットプレートを出して、お好み焼きを用意していた。
「みんなー!お金がないから、今日から粉物だよ!」
「まじかよ!タンパク質はどうすんだよ?!」
「これだよ、干しエビ」
「まじかよ!マコトー!案件取ろうぜ~!」




