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21.グループ内恋愛

 

 待ち合わせは午後一時。遅めのお昼を食べよういう話になっていた。


 俺が知ってる高校生の昼食デートっていうのは、ファーストフードとかファミレスなんだけど、俺たちが向かったのはなんと…。



「次、何焼く?」

「何だろ…?てゆーか…、会計、大丈夫?」

「うん。大丈夫。俺結構貯金してるから」


 寮の電気代、ネット代も払えなかった事務所社長の息子なのに…?シオンも今月の給料として五万円受け取っていたし、普通に考えれば中学生の小遣いにしては多額だ。それを毎月ちゃんと貯めていた、ってことだろうか?

 でも、本来事務所経費のはずの電気代や通信費を分担させられたのだからちょっと複雑な気持ちになる。


「すみませーん!カルビ二人前、ロースに牛タン塩一人前追加!あとご飯ひとつ!」


 シオンは店員を呼び止めると、次々に注文する。何だか手慣れている気がする。


「ここ、よく来るの?」

「ううん、たまに。でもマ…、母さんとだと、太るとか言われて思いっきり食べられないんだ。でも焼肉って、ファーストフードみたいに一人だと来られないじゃん?」


 大手レコード会社からのソロデビューを目論む母親に、好きなものも食べさせてもらえないんだ…?

 それにはかなり同情するが、焼肉店に高校生と中学生だけで来ようという発想自体がなく、全く共感できない。


 シオンはサービスで提供されたデザートまでぺろりとたいらげると満足したらしく、伝票を持って上機嫌でレジへ向かった。


「シオン、俺も払うよ…」

「大丈夫!俺が誘ったんだから」


財布を出した俺を無視して会計を済ませると、シオンは店員に領収書を依頼した。流石、社長の息子だ。


「えーと、名前はまえ(株)でエフ、エスエ…」


領収書を切って、後で経費精算するんだろうか?そうすれば貯金もたまるだろう…。

 でも、事務所に現金はないけど、経費って、計上できるもの…?ひょっとしてマコトも、それを疑問に思って『簿記』を勉強しているのだろうか。



「じゃあ、次!次、行こ!」

「次…?」

「うん。だってまだ写真撮ってない!」


そう言えばそうだ…。でも、一体どこで写真を…?




 シオンが次に向かったのは、俺が以前マコトに連れて行かれた古着屋だった。


「このジャージ、ほらこれ、ここのオリジナルなんだよ。あー、ほら、マコトこういうシャツ着てた!」


シオンはまるで、マコトのファンみたいにきゃっきゃしながら服を選んでいる。そう言えば以前、ここのジャージを着ていた俺に、何でマコトとお揃いなんだとキレていたっけ。


 シオンは数点、洋服を手に取った後、ピアスが並んでいる棚の前に立って俺を呼ぶ。


「この間、マコトが買ったのってこれだよね?」


シオンはピアスを指差した。そうだ、それ確かに、マコトが買っていた、ちょっとゴツめのピアス。


「そうだよ、確か…」

「そーなんだ」


シオンはそう言うと、そのピアスを手に取り、レジへ向かう。

 マコトが着ていたジャージに、シャツ、マコトが買った、ゴツめのピアスをシオンは嬉しそうに買った。


 

 古着屋を出ると、今度はカラオケに行こうということになった。場所は俺とカナタとマコトで来たカラオケBOXだ。


 シオンはカラオケに着くと、YBIの曲を入れた。


「マコトって案外、音外してアレンジとかしないでちゃんと歌うよね?」

「そう言われたらそうかな…?」


シオンは嬉しそうに、マコトの物真似をしながら一曲歌った。その後採点画面で一緒に写真を撮る。


「少し時間置いて、練習中って、この写真を投稿するから」


 写真をチェックしながら、シオンは俺をチラチラと俺に視線を送ってくる。なにか、言いたいことがあるらしい。


「あのさぁ、、本当に、二人は付き合ってないの?」

「二人って…?」

「だから、響と、マコト…。ここのカラオケでも、前…」


 マコト、と言ったシオンの声は少し震えている。


 えーと、これって、あれか?

 シオンは…、たぶん…。


「付き合ってないよ。カラオケの写真はカナタくんがとったんだ。それにあれ、公式のアカウントだったでしょ?」

「そうだけど、でも…、東京ドームで手、繋いでたじゃん!」

「あれは、YBIファンに捕まって…。人混みの中、逃げるためで、特に、何も」

「じゃ、じゃあ、マコトに告白とかもされてない…?マコトって本当にゲイなの?!」


 矢継ぎ早に質問され、俺は面食らった。BL営業云々より、今日俺を誘ったのは、ひょっとしてこの事を聞きたかった、とか?


「告白なんか、されてない。ゲイなのかは、知らない」


 本人からは「商品に手は出さない」と言われたが、はっきり「ゲイだ」と聞いていない。だからあくまで知らない、と答えたのだが。


「良かった…!」


顔を赤らめ、目を細めて笑うシオンは中学生男子だが…、まるで恋する乙女のようだ。しかも、何が『良かった』んだ?俺がマコトに告白されてないことが、『良かった』…?


「ええーと、分かんないんだけど…。シオンくん、何で俺にBL営業頼んだの?マコトに頼めば良かったのに」

「マコトには断られた…。響とカップル売りだから、って…」

「そっか…」


マコトは断った、それなのに俺、シオンとBL営業してる。そう思うとなんだかまた、後ろ暗い気持ちになった。

 でも何で、マコトはシオンとBL営業しないんだろう。


「前、シオンくんはタクミくんとBL営業してたって聞いたけど、その時は…」

「……その時、ファンの子達は俺とマコトのBLで盛り上がってたんだ。でも、マコトはまだ人気がイマイチのタクミを売ろうとして。俺はその時も、言ったんだ…!」


シオンは下を向いて、相手はマコトがいいって…と、呟いた。

 流石にもう、鈍い俺でも確信した。これは、あれだな?えーと、……恋。


「つまりシオンくんは、マコトが好き?」

「………」


シオンは赤くなって、眉を寄せた。どうやら、正解で、しかも結構、本気らしい。


「マコトのどういうところが好きなの?」

「マコトはStormixの事務所の最終選考まで行ったんだよ。入らなかったけど、歌も上手いし、演技もできるし、それに…かっこいい……」

「あ~~」

確かに、YBIのビジュアル担当はシオン、マコト、キョウの三人だと思う。実際女子に人気だ。

 Stormixの事務所のオーディション、ソウマが落ちて、マコトが最終選考まで行ったという事実に俺が納得すると、シオンはリモコンで曲を選びながら呟いた。


「でも…、マコトにとって俺は、YBIのセンター、シオンじゃないと、価値がないんだ…。マコトはYBIしか好きじゃないから」


 ……マコトはYBIが大好き。それは本人も、花音ちゃんも言ってたから本当だ。でも、タクミを売り出したいにしても、マコトとシオンのBL営業の方がずっと、ファンは喜びそうだ。シオンは本当に、美少女ばりの美少年だし…。ゲイはこういう感じ、タイプじゃ無いとか?

 でも、今はシオンも苦境に立たされている。グループの為にも順位を回復させた方がいいはずなのに、何故、頑なに断るんだ?


 マコトが花火をした時、俺のこと「好きにならない」と言って赤くなった事を思い出した。いやいや、まさか…。


 ひょっとして、ランキング順位を下げてレコード会社の心象を悪くし、シオンのソロデビューを阻止したいとか?それなら、YBIにとって致命的なセンター脱退を防げる。


 多分、それが理由だ。かなりの確率で…!


 そもそもマコトは自分を『ゲイ』と明言していない。授業でLGBTの人口比率は8~10%だと習った。YBIの中に二人いたら、その比率を大きく逸脱する…。



 シオンはその後、切ない系の恋愛ソングを歌った。


 帰り道、その恋愛ソングを口ずさむと、何となく、マコトの姿が瞼の裏に浮かんだ。

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