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14.脅迫

 

 俺を加えた新メンバーで一曲だけ披露した。初めてのライブは全然、練習通り行かなかった。でも失敗するたびに頑張って!と暖かい声援を貰って、すごく嬉しくて、でもすごく恥ずかしい…。もっと努力しなければ、そう思った。


 アンコールは、四人だけ。ライブは異常な熱気の中、幕を下ろした。


 終演後、ハイタッチで観客をお見送りするミニイベントがあるため、出口へ全員で並ぶ。あんな事になったのだから当然だが、そこに、タクミの姿はない。


「響くん、おめでとー!」

「響くん、いつもSNSみてます。がんばってください!」

「ちょっ、みんな俺は?!」


今日、メンバー入りしたばかりの俺に声を掛けてくれる人が多く、隣のソウマは不満気に呟く。


「しかもマコトにランキングの発表も飛ばされて…」

「ぷっ、ひょっとして本当は最下位だった説…」

「え、マジで?!」


そうファンの子に言われたソウマは俺をじとりとした目で見つめた。身体はがっしりしてるけど、キャラクターのせいかあまり怖くはない。


 そろそろハイタッチ会も終わるという頃、受付の所で女子達数人がなにやら揉めているのに気がつく。その中に、花音ちゃんを見つけた。


「私、ソウマくんのこと告発して読まれたんですけど、チェキはキョウくんがいいんです…!」


しかし、そういうルールではないし、ソウマのチェキしかないので受付スタッフは困惑している。俺の隣のソウマも困惑して…いや、泣き出しそうだ。本当に酷い世界だなって思う。


「響、YBIって大変だぞ~」

「うん…」


 ソウマは泣くのを我慢しながら俺に言う。


見かねたマコトが、女子達に声をかけて直接、そういうルールだから、と断りをいれた。マコトに言われたから、女子達も納得したようだ。


 最後に、全員とハイタッチしたのだが…。


 一番最後に来た花音ちゃんは俺の手に、何か紙を握らせた。


「花音ちゃん、これは…」

「私それ、いらないから…。響くん、頑張ってね!応援してる!」


花音ちゃんはタクミの、彼女のはずなのに、本当に俺を応援してる…?


 花音ちゃんは、一番最後にマコトにハイタッチした。何か一言だけ話していた様だったが、内容までは聞こえなかった。そう言えば、本当はマコトのファンだって言ってたっけ…。


 俺は訳がわからないまま、花音ちゃん達を見送った。

 ハイタッチ会が終わり、楽屋に帰る途中、渡された紙を見て、余計、訳がわからなくなった。

 

 その紙には……通し番号が記載されている。告発の投書の、半券だ。

 俺は恐る恐る、マコトに尋ねた。


「マコト、タクミの告発した人って、チェキ取りに来た?」

「…来てないよ。まあ、来れないだろうね…」

「その、投書ってどこにある?」

「楽屋にあると思うけど…」


 楽屋に戻ったら、確認しなければ。そう考えながら楽屋に戻るとタクミが待っていた。


「もう終わった…?」

「終わったけど、タクミ、お前…」

「ずっと思ってたんだけど、俺、YBI辞める。今までお世話になりました」


タクミはマコトにお辞儀だけして、出て行ってしまった。


「タクミ…!」


マコトはタクミを追って出て行ったが、誰も、二人を追わない。俺が戸惑っていると、ソウマに声をかけられた。


「タクミをYBIに誘ったのはマコトだから。マコトに任せて俺たちは着替えようぜ」


 ソウマの発言が気に入らなかったらしいカナタが、俺とソウマの間に割って入ってきた。ちょっと顔が怒っている。


「ソウマさん…。俺は打ち合わせ通り出来なかった、ソウマさんの責任も大きいと思うよ?それなのにタクミくんを追わなくて良いんですか?」

「何だよ、カナタ~!俺も責任感じてるけど、やらかした俺が行っても嫌かなって思って、マコトに任せたんだよ!」

「本当ですかぁ?」

「ああん?!」


 ソウマとカナタのやりとりがいつも通り喧嘩へと発展したのでキョウ、シオンは椅子に座ってお茶を飲み始めた。


 俺はその隙に、テーブルに置いてある投書箱と、メンバーが引いた投書を見つけて手に取った。花音ちゃんに渡された半券に書いてある番号と、同じものを探す。


 あった…。花音ちゃんの半券は、タクミを告発した投書の番号と一致した。


 花音ちゃん、タクミの彼女じゃなかったのかよ…?まさか、まさかだけど、むしろマコトの為にタクミを告発した、とか…そんなことある?


 考えると、背中が少し、寒くなった。


 YBI警察が花音ちゃんで、マコトが好き過ぎてタクミを蹴落とし、俺に『消えろ、氏ね』って言った犯人かもしれないのに、『応援してる』って言われて…。

 頭がぐちゃぐちゃになる…。


 いや、落ち着け…。YBI警察は画像共有機能を使った、手口が同じなだけで『消えろ、氏ね』って送ってきた犯人だと決まった訳じゃない。

 それに、俺を一番嫌っているのは、実際にメンバー交代となったタクミのはずだ。YBI警察が花音ちゃんてことは、目的はどうあれ付き合いのあったタクミだって画像共有の仕組みを知っていたはずだし、やっぱり、犯人はタクミなんじゃないか…?


「みんなー!お疲れ様!」


必死に落ち着こうとしている所で、社長が元気に楽屋に入ってきた。咄嗟に、投書を元あったところに戻す。


「今日はね、レコード会社のプロデューサーさんが見に来てくれたの!皆んな、ご挨拶!」

「「「「「こんばんは、今日はありがとうございます!」」」」


 社長の号令で、プロデューサーと呼ばれた上質そうな服を着た男と、ミュージシャン風のおじさんに元気に挨拶をした。


「じゃ、シオン以外はちょっと外してくれる?」

「「「「はい」」」」


シオン以外の四人、キョウとソウマ、カナタと俺は着替えもそこそこに楽屋を出た。仕方なく、廊下で待機する。


「あの、シオンくんだけ残ったのは、どういう…」

「そのまんまだよ。シオンにだけスカウトが来てるってこと。社長もニコニコだったし、タクミのデート営業もばっちり知られちゃったし、やべーな、俺たち。せっかく響が入ったのになぁ~」

 俺の質問に、ソウマはちょっとため息混じりだ。カナタもソウマに同調した。

「シオンくんは美少女ばりの美少年だもんね。儲からないYBIは捨てて、まだ中学生、可能性しかないシオンくんだけデビューさせた方が、安泰だよ」


 …そうなんだ。だから、マコトはあんなに必死なんだな。マコトは親がいないって言ってた。きっと俺と同じ居場所を守りたいんだ。


 四人、廊下で立ち尽くしているとタクミを追って出て行ったマコトが戻ってきた。


「マコト!タクミは?」


マコトは首を振った。どうやら引き止められなかったらしい。タクミをYBIに誘ったのもマコトだと聞いた。マコトにとってはタクミの脱退はショックだったのだろう、沈んだ表情をしている。


 でも俺は、明らかに俺を嫌っていて、画像共有の犯人かもしれないタクミがいなくなってほっとしていた。


 マコトには少し、申し訳なく思う。それはソウマやカナタも同じだったのか、鎮痛な表情のマコトに声をかけられないでいた。

 すると、状況を何も知らないマコトは楽屋の扉を開けてしまった。


「あ…。えっと、お疲れ様です」


 開けてから察したのか、マコトは扉の前で頭を下げる。


「ああ…お疲れ様です。では社長、私たちはこれで」


マコトの挨拶に、レコード会社の男達二人は社長にだけ挨拶して帰って行った。社長は変わらず上機嫌で、一緒について出て行く。


 シオンは出て行くとすぐ、何かをゴミ箱に放り投げた。


マコトは特に何も追求しなかった。衣装を脱いで、持って帰る荷物を手早くまとめる。


 荷物をまとめ終わった辺りで、社長が走って戻ってきた。

俺たちには目もくれず、一目散にシオンの元へ行く。


「シオン!さっき頂いたプロデューサーさんの名刺は?」

「……」

シオンは無言で目を逸らした。シオンの母親でもある社長は、捨てたと分かったらしい。ゴミ箱から名刺を拾い上げた。


「ソロの話は、()()()()()()にもなる事なのよ!?」

「うるさいっ!」


ソロ…?やっぱり、シオンだけデビューの話が来ているんだ。でも、シオンは嫌がってる…?シオンもYBIでデビューしたいって事なんだろうか。

 シオンは衣装のジャケットだけ脱いでパーカーを羽織ると荷物を手に、走って出て行こうとした。

 そんなシオンを少し、羨ましく思った。俺もいつも母さんに「あなたのためなのよ」って言われて言うことを聞いていた。反抗なんて、できなかった。


 出て行こうとしたシオンを見た社長は、金切り声を上げる。


「響くん、捕まえて!」

「えっ、俺っ?!」


シオンは十五歳、中学生だ。すごい美少年だし、夜の街に飛び出したら危ないだろう。

 一番出口の近くにいた俺は指名されて仕方なく、扉に立ち塞がった。出て行こうとしたシオンと正面からぶつかってしまった。軽くて柔らかいシオンは衝撃で尻餅をついた。


「響、邪魔すんな!バカっ!」

「バ、バカ?!」


シオンは俺を思いっきり睨んでいる。何だか一貫して、シオンには嫌われている。タクミとは違う嫌われ方だ。何となく、上手く言えないけど…。


 社長は直ぐシオンを抱き起こすと、「家で話し合いましょう」と言って楽屋を出て行った。


「俺たちも帰ろう」

 

 

 マコトに促されて、俺たちもすぐに楽屋を出た。


 前を歩く社長とシオンを追い越すのは気まずくて、少しスローペースでライブ会場の廊下を歩いていると、俺のスマートフォンがまた、ブル、と震えた。


 ポケットから取り出して、スマートフォンを見る。


 画像共有の通知だ…。震える指で、共有するをタップすると、文字だけの画像が表示された。


『どうなっても知らないよ』


どうなっても、って、何?『消えろ、氏ね』が、本当になる、とか…そういうこと?


 つまり、脅しだ。


 でも誰が?一番疑っていたタクミはもう、YBIを去った。その次に怪しいと思っていた画像共有機能を使ったYBI警察の花音ちゃんも今はいない。


 画像共有の有効範囲、9メートル以内にいるのは、今、YBIメンバーだけ。


 俺に、ここにいて欲しくない人が…、YBIの中にいる。




一章終わり次から二章です。

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