第91話 新ウイルス発見 2019.11
ここは、中国北京市の中心部、中南海、中国共産党の本拠地、最高指導者である主席の執務室がある勤政殿。ある朝、その庭に縛られた男が寝かされているのが発見された。男は眠っているだけのようだった。主席付きの秘書官が駆けつけて確認する。
「重犯罪者」というプラカードが男の首に掛けられていて、ポケットには自白の映像が入ったメモリと手紙があった。手紙にはこう書かれていた。
「武漢細菌研究所の実験済み動物を市場に横流して、生きたまま売っていた。ウイルスをバラまき、世界を混乱に陥れた重犯罪者である。旅先で見かけたので、捕まえておきました。善処してください。国際警察官」
驚愕の出来事はすぐさま主席に報告された。激怒した主席は直ちに国務院総理(中国の№2)を呼んだ。
主席
「これは、どういうことだ。これは本当のことか」自白映像と手紙を総理に見せた
総理
「分かりません。調べてみないと」震えて答えた。
主席
「そうか。お前は無能なんだな。やるべきことが分かっていないようだ。細菌研究所は当面閉鎖しろ。市場も閉鎖しろ。市の出入口を封鎖しろ。周辺の市も出入口を封鎖しろ。省内の全ての町を封鎖しろ。病院を調べろ。患者の増減、死亡者の増減を調べろ。もれたウイルスがあれば調べろ。やることは、山ほどあるはずだ。」
総理
「分かりました。そのようにいたします」青ざめていく。
主席
「この手紙を送った者を調べろ。お前の何十倍も優秀だ。この警戒の厳しい建物の中の庭に気づかれずにこの男を置いていった。敵対せず仲間にしろ。手ごわいものは傍に置け」
総理
「分かりました。調べます」
主席
「何度も行ったはずだ。私は外の敵を相手にしている。つまり、私の相手は世界だ。国内のことは簡単だ。命令が正しければ、正しく機能する。それが国家だ。お前が正しく機能しないのならば、取り換えるだけだ。分かったか?」
総理
「分かりました。失礼します」震えて答える。
国務院総理は顔を真っ赤にして走っていった。
主席
「国連とWHOの動きを調べろ。国際警察官は我が国にはいない。必要かどうか考察しろ。やることは、山積みだぞ。動け。ぼさっとするな。」
主席付き秘書官たちが一斉に動き始めた。
主席
「なんでワシの周りはボケばかりなんだ。」
秘書官たちの調査は秘密裏に進められ、翌日には、最悪の事態が判明した。実験動物の横流しは恒常的に行われており、その多くが実験に使用済みであった。さらに、新ウイルスによる疾病が9月から既に発生していた事実が明らかになった。「未知のウイルスの可能性ありの」報告は省長のところで止まっていた。省、市の行政は、なにも対策していないことが露呈した。
新ウイルスの患者たちは風邪に似た症状を呈し、進行すると肺機能が低下し、酸欠で死亡するという。インフルエンザと同じ症状だ。しかし、潜伏期間や拡散速度が違う。しかも、重篤になる患者の比率は高くない。それが行政の油断をよんだ。
また、このウイルスには特効薬が存在せず、感染しても抵抗力の強い者はやがて治り、他に拡散していく、無症状の保菌者が多いため、広がっていく速度は予想をはるかに超える可能性があった。
主席は武漢市全体のロックダウンを命じ、新ウイルスの封じ込めに尽力した。その後、主席は世界に向けて次のようにコメントした。
「新型ウイルスが人に感染していたが、すでに封じ込めに成功しており、パンデミックの心配はいらない。新型ウイルスは野生動物由来、自然発生したものであった。」
中国政府は国際警察官による暴露を危惧し先んじて行動を起こしたのだった。
WHOのドロイ事務総長は次のように述べた。
「中国の対応は素晴らしい。迅速な対応に感謝する。」
このコメントは世界ニュースとなった。
リリィ「さて、これでパンデミックは片付いたと思う?」
ジャック
「いや、武漢の病院関係者からは、9月から新ウイルスの患者がいたという報告があったらしいから、すでに1カ月以上経過している。感染者が無症状のまま保菌者となって各地に移動している可能性がある。武漢市の封じ込めは間に合わなかったと考えるべきだ。いずれ、世界中に拡散していることが明らかになるだろう。」
リリィ「それなら、私たちがするべきことは、新型ウイルスに感染した人を治療する体制を整えることね。そして、病院関係者を守ることも大事よ。彼らは命がけで仕事をしているはずだもの。」
リリィ「武漢の病院に行きましょう。現状を調べて、何が必要かを確認するわよ。」
ジャック「待て、新型ウイルスは未知の病気だ。我々の安全も確保する必要がある。すでに武漢市にいる黄金虫ゴーレムを使って調査しよう。」
コモン「その意見に賛成だ。我々も自分たちを守らなくてはいけない。敵がこの混乱を利用して攻撃してくる可能性もある。」
全員が頷き、黄金虫ゴーレムが病院内部の状況を調査した。その映像によれば、風邪症状の患者が殺到し、病院は満杯で混乱していた。
リリィ「回復魔法の魔法陣で、まずは患者の数を減らしましょう。回復魔法が新型ウイルスに効くかどうかは分からないけれど、体は回復して楽になるはず。行動を起こすのが先よ。」
リリィ「ガルド、この回復魔法陣の紙をお掃除ゴーレムに持たせて転移させ、待合室のすべての椅子に設置するのよ。」
ガルドは病院の座標を転移魔法陣にセットし、回復魔法陣の紙をお掃除ゴーレムに託して転移させた。
お掃除ゴーレムは床を掃除しながら回復魔法陣の紙を待合室の椅子に貼っていく。椅子に人が座ると魔法陣が起動し、体調が回復する。体が楽になった患者たちは体温が平熱になったことから、受付を取り消して病院を去っていった。
病院関係者は、突然の混雑緩和により一時的な休息を得た。
さらに、お掃除ゴーレムは病院の駐車場の隅に移動し、転移魔法陣を設置した。そこへリリィたち全員が結界魔法と認識阻害の魔法を張りながら転移した。
リリィ「さあ、私たちの番ね。医師に会いましょう。」
リリィたちは武漢病院で、もっとも活躍していた医師がスタッフ休憩室でダウンしているところに近づき、
「自分たちはWHOからの調査隊で秘密裏に来ました。リリィと申します」と名乗り、次のように説明した。
「さきぼど、魔法を使い、この病院に来ていた患者を回復させました。待合室にいた患者の多くは帰宅しましたが、新ウイルスによる病気が完治したかは分かりません。経過観察が必要です。また、ワクチン開発のため、患者の血液サンプルを提供してほしい。」
医師はリリィの顔を国連の発表などのテレビニュースで見ており、非常に驚いていた。
医師はすぐに協力を承諾し、患者たちの血液サンプルを渡してくれた。
リリィたちは、お掃除ゴーレムがこれからも毎日回復魔法を掛け続けることや、緊急の場合は、お掃除ゴーレムに向かってしゃべるとリリィに伝わることも医師に伝えた。
医師
「まだ、病院には肺疾患の重篤な患者が大勢入院している。すでに手遅れの者も多いが、あなた方の魔法で、回線できるならば、お願いしたい。」
リリィ
「分かったわ。出来る限りやってみましょう。でも、毎日はダメよ。私たちは、他にも、やらねばならないことが多いのよ。」
リリィ達一行は、病院で白衣に着替え、全ての病床を周り、リリィは重篤の患者の全快させていった。回復魔法を酷使した。リリィの回復ポーションをがぶ飲みする姿は初めてだ。他のメンバーは、回復の魔法陣を起動して、肺機能が低下している軽度の患者を治していった。
夜には、病院の患者は、ほとんど全快していた。
医師は驚愕の表情で固まっていた。ブツブツと何か言っている。
「医者って、必要か?私は何をしていた?」
リリィ
「しっかりしなさい。やることはいっぱいあるのよ。病気が治ったように見えるけれど、経過観察は必要よ。重篤だった者は特にね。あなたは、今日は家に帰って、しっかり食べて寝て。明日からまた頑張れるようにね。」
医師
「はい、ありがとうございました。」深々とお辞儀をしていた。
そして、リリィ達一行は、駐車場の転移魔法陣を使って熱海の拠点へ戻った。
・・・・・・・
ここは、闇の世界、
漂う魂を集めている部下を、見ながら、闇将軍が言う。
「なんだ、急に魂の数が減ってきているぞ。計画ではここからどっと増えるはずだろ。どうなってる。調べろ」
「「「「はっ」」」」
闇獣達が散っていった。
「もう、誰かが気づいたのか?有り得ない。もっと人を移動させろ。空を飛ぶ乗り物を使え。拡散しろ。世界中にだ。一気にいけ」




