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第6話 福島原発跡地での実証実験   2018.4

 首相官邸で官房長官と会談してから一週間後、どんよりとした曇り。

ここは、福島県、福島第一原発の近く、菱紅商社が準備した仮設テントの中に、

マモルはリリィさんたちパーティ“虹色の風”と一緒に、転移した。


菱紅商社の三田部長が出迎えてくれた。

 官房長官の宮下さんの推薦もあって、「福島第一原発」の現地で小規模の実証実験を行うことになったのだ。


 外に出ると、田畑や、遠くに山並みが見える。、マモルの胸は高鳴る。世界的にも未曾有の難題を、リリイさん達パーティの数人が一気に片づける。ほんの数週間前までは、こんな展開、誰が想像できただろうか。


原発周辺への移動

 「この服、ゴワゴワするな」

 ガルドさんは、支給された防護服を着込んで、ブツブツ文句を言っている。

 パーティ一行も同様に手渡された防護服を着込んでいる。ヘルメットも被っている。

 マーガレットさんが嫌そうにしている。猫耳の彼女は帽子とか、ヘルメットが嫌いらしい。「うにゃ~、ヘルメットを脱ぎたいニャ」猫耳のマーガレットさんが、防護服の中で尻尾をモソモソ揺らしながらつぶやく。


「マーガレット、しばらく我慢してね」

 リリィさんはマーガレットさんの肩を軽く撫でてあげる。

 リリィさんは、防護服も平気のようで、柔らかい表情はいつも通りだ。


 東電のスタッフに案内され、バスに乗り込んで、現場へと移動する。


福島第一原発の敷地前には、地元反対派の人達が、大きなプラカードを持って、にらんでいる。「「「何しに来た~」」」皆で声を揃えて叫んでいる。


上空には、テレビ局のヘリが旋回している。首相と官房長官が福島第一原発跡地に行くとなれば、ニュースのネタとして、何かを期待しているのかもしれない。


バスは警備やゲートチェックを幾重にもくぐりながら、ついに福島第一原発の敷地へと入った。線量計を携帯したスタッフが同行し、大勢の作業員が見学するべくスタンバイしている。官房長官達は、敷地内の別の場所から、双眼鏡で見ているらしい。


「さて、あそこが廃棄物置き場です」


 案内係である東電のスタッフ、男性が、敷地内の一角を指し示す。そこには、損傷した資材や細かく解体された瓦礫が山積みになっている。放射線量は低いが汚染されているものがあり、厳重にパレットで仕切られ、さらにシートで覆われていた。


「まずはこの瓦礫の山を処理してもらいたい」


 男性スタッフの瞳は、不審感でいっぱいだ。まったく期待もしていないようだ。


小規模実証実験

リリイさんがジャックに合図する。

ジャックさんが鞄から、普通の服を着たマネキンを4体取り出した。手をかざすと、マネキンがゴーレム化して、ゆっくり動き始めた。やがて、マネキンゴーレム達が瓦礫の山を四隅で囲む。


見た目まるっきりのマネキンが動くのは不気味だ。東電のスタッフや大勢の作業員が黙って異様なものをみるかのような顔をしている。


「リーダー、準備OKです」ジャックさんが言う


「ではガルド、よろしく」


 リリィさんの合図に、ガルドさんは頷く。彼は防護服の手袋を外し、ごつい素手をゆっくりとかざした。すると、マネキンのゴーレムも同じように手を瓦礫の山に向けた。マネキンゴーレムの手の先に魔法陣が生まれ、瓦礫の山が光はじめた。


 光の中で、少しの風が瓦礫に向けて起こり、瓦礫が静かに消えていく。ほんの数秒で、瓦礫の山が跡形もなく消失する。


ジャックが手をかざすと、マネキンのゴーレム達がジャックに近づいてきて消えた。


「「「あわわわわ」」」

 横で見守っていた東電スタッフ達が、驚きわめいて、腰をぬかしていた。


 ガルドさんは、平然としている。今回は、マネキンゴーレムの体内に、魔石をセットしているので、ガルドさんはマネキンの魔法陣を起動させるだけで、ガルドさん自身の魔力はほとんど消費していないらしい。


 事前準備ができれば、このような大きな転移魔法ができるとのことだった。

「これくらいの量なら、一気に処理できるな」

 ジャックが、カメラで記録を撮りながらいう。


ガルドさんは、大きく息を吐いてうなずいて、リリイさんに完了の合図をした。


「ガルド、ジャック、ご苦労様、休憩して」


マモルは言葉を失った。

「本当にやってのけた。リリィさんたちは、本当に現実を超えた存在なんだな」


「僕って、結局、驚いてるだけなんだよな」


しかし、周囲のスタッフたちが歓声を上げ、希望を見出す様子を見て、少しずつ前向きな気持ちも湧いてきた。


「彼らのそばにいることで、少しでも力になれるなら、、それでいいのかもしれない」


・・・・・・・


三田部長が駆け寄り、リリイさんに声をかける、

「官房長官と首相が報告を聞きたいとのことです」


放射線モニタリングと検証

 続いて東電のスタッフたちが、今しがた瓦礫が消えた跡地や周囲の線量を測定しはじめる。何度か機材をチェックしては、官房長官から派遣された技術者と一緒に数値を確認し合っている。


「すごい。線量はもともと少し高めだったが、“消えた”分の荷重や汚染源がなくなって、明らかに数値が下がっている。放射線源が消えたんだ!」

 四菱重工の技術者たちはざわつきながら、ディスプレイを食い入るように見つめている。


「これなら、安全に管理区域を縮小できる。水や土壌への二次汚染も抑えられる」

 東電スタッフも興奮気味だ。


跡地での打ち合わせ

 小規模実験が成功したところで、対策施設の応接室へ移動して打ち合わせが行われた。そこには、宮下官房長官、菱紅商社の三田部長、東電の幹部や政府関係者が集まっていた。そして、首相も応接室中央で座っていた。なぜか放心しているようだ。


「今回の実験結果、目視検証と放射線モニタリングの両面から、問題ないことが判明しました」東電スタッフが興奮気味に報告した。


官房長官は、予想外の結果に少し戸惑っていたが、

「うん、私の信じていた通り、見事な結果だった。リリイさんに感謝する。今後は、もっと大きな範囲で、検証しながら、本格的に建屋内部にも応用してほしいと考えていますが、いかがですか」


 ジャックが、資料を広げながら説明する。

「ええ、こちらとしてもぜひお願いしたい。建屋の内部は強い放射線量がまだまだ残っていて、人が近づけない個所がありますが、マネキンゴーレムを10倍にして、建屋を囲めば、建屋一棟全てを、一気に消せますよ」


「建屋を一気に消していただけるなら、長期的なリスクを大幅に削減できます」

 東電幹部は、希望をにじませた声で返す。


 宮下官房長官もうなずきながら、言葉をつなぐ。

「建屋全体を一気に消去!、素晴らしい!これで日本だけでなく、世界中が注目する廃炉プロジェクトになります。」

「国際条約の問題は後回しですね」「後の報告書が大変だ」など政府スタッフが言い始めた。


 やがて、会談も終わりにさしかかり、官房長官から一言、お願いがあった。

「あの、リリイさん、都知事から聞いたのですが、肩こりを治すのが得意とか、ぜひ、私と首相にお願いしたいのですが」


リリィさんが一歩進んで言う。

「あははは、都知事さん、肩こりが治ったのが、そんなにお気に召したのですね。分かりました。ここにいる皆さん全員に、回復魔法をかけましょう。SPさんもじっとしててね」


リリイさんの手元が、光り、応接室にいる皆に光が伝わっていく。


首相、官房長官、SP達にも光が満ちていく。


「おおお、体がぽかぽかする。サウナに入っているようだ」首相が独り言をいう。


「本当だ、肩のこりが無くなった」官房長官が驚いている。


他のスタッフたちも各々に驚いている。やがて、応接室には笑いがもれた。


「体が熱くなったと感じた人は、体に悪い部位があった人です。そこが健康になったので、よかったですね」


首相は意外そうな顔をしたが、笑顔で答えた。

「そうなんですか。ありがとうございます」


「敷地内に入る前に、反対派の者がにらんでいました。それから、テレビ局のヘリもきていました。瓦礫撤去のシーンがニュースになるかもしれません。政府から、説明をされた方が、よいと思います。」

ジャックさんが官房長官にいう。さすが、参謀役、次の手を打つのが早い。


「そうですね。反対派が活気づく前に、記者説明しておきましょう。地元市長や県知事とも面会して、今後のことに理解を得られるように調整しましよう。自治体や地域の住民とも、きちんと話し合ってから本格作業にはいれるようにしましよう」官房長官の熱い言葉。


「これから、本当の復興が始まるんだな」

 東電スタッフと政府関係者が頷き合った。


 リリィさんは安心したように微笑む。マーガレットさんは会議テーブルの端で「にゃー」とあくびをしつつ、気の抜けた顔をしている。


和やかな雰囲気で会談は終わった。リリイさんは首相と握手、官房長官と握手して、解散となった。


 その日の夕方、実証実験を終えた僕らは、バスに乗って、来た時と同じように、菱紅商社が準備した仮設テントの中から、新しい拠点先、熱海の別荘地に転移した。


 ここは、熱海市、新しい拠点、もとは大型保養所、24部屋もある間取り、ダイニングルームと多目的ルーム。ビルトインガレージがあって、各室にも風呂はあるが、大きな温泉風呂もついている。周りは、自然の樹木が多く。静かな環境だ。約4億円で購入したらしい。近くには、熱海温泉がある。


 当然、マモルも東京から引っ越してきている。大きな温泉風呂につかりながら、今日のことを思い出しながら、手足を伸ばしていた。


「リリイさん、今度は、首相とお友達になっちゃったよ。本当に凄いな。あの人は。ははは」マモルはつぶやいた。


・・・・・

そのころ、首相官邸ては、

「官房長官!!帰りに病院に寄ったら、心臓肥大症が治っていたよ。感激だよ。びっくりだよ。本物だったよ!異世界人だよ!何がマジシャンだよ、マッサージ師だと思ってたら女神様だったよ!」


「首相、落ち着いてください。そうですか、心臓肥大症が治っていたのですか。これは間違いないですね。本物の異世界人でしたか。でも、さて、これからが大変だ。アメリカがどう動くか。私は心配になってきましたよ」


「アメリカ?、アメリカがどう関係する?」


「あの瓦礫を消した力を、アメリカが兵器として認識したら、どう説明しますか?」


首相が笑いが消え、青ざめて、つぶやいた。

「いやいや、そんなことはないよ。君は心配性だな~」


「首相の楽観的な性格がうらやましいですよ。こうなったら、アメリカが、どうこう言う前に、そして、地元が騒ぐ前に、福島原発問題は、一気に全部片づけてしまいたいですね」

官房長官は力強く言った。


そこへ秘書官から

「官房長官、福島の放射性の瓦礫を、政府が無断でバスで、どこかに運んだとニュースが流れています」


さらに、別の秘書官が部屋に駆け込んできて

「首相、ホワイトハウスから直通電話です。福島原発跡地の件といっています」


首相が頭を抱えて、心臓を抑えて

「あがががが、君がいったとおりじゃないか。なぜ、私が首相のときにこんなことになるんだーー」と言いはじめた。


「首相、落ち着いて下さい。事態は私たちに追い風です。心配いりませんよ」

と官房長官が胸をはった。


「すぐに記者会見だ。記者クラブに連絡しろ。深夜になってもかまわん。記者を集めろ」


「首相、アメリカには、異世界人の話はせずに、兵器ではない、新しい技術だと説明して下さい。いいですね!」と官房長官が言い残して、部屋を出ていった。


「ああ、そうだな。じゃ、電話を繋いで」と秘書官に言い、


力なく、ぺちぺちと頬をはってから、ホワイトハウスからの電話に出た。

首相がペコペコお辞儀しながら、つたない英語で答えている。


・・・・・・・・・・・・

風呂上りのマモルは、パーティの皆とテレビでニュースを見ていた。


『福島の放射性の瓦礫を、政府が無断でバスで、どこかに運んだ』というニュースが流れている。


「そうか。そう見えるよね」と、マモルは独り言をいうと、


「やっぱり、ここの人間は、見た目でしか判断できないバカが多いわね」とリリイさんの顔が少し引きつっている。

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