第72話 難民政策展開 2019.9
世界は混乱の渦にあった。戦争、気候変動、経済崩壊、いろいろな要因が重なり合って、難民を生み出し、世界は難民で溢れ、豊かな国を求めて、人々はさまよっていた。移民が100万人規模で押し寄せた国は、疲弊し、崩壊しつつあった。
リリィ
「世界中の難民の数は、何人なのかしら?」
コモン
「難民の定義によるな。自国の中にいてろくに食えない者もいるらしい」
マモル
「同感だよ。ネット難民といって、住むところがない人が日本にもいるよ」
ジャック
「まずは、国を追われた、国を持たない者たちを救うのが先決だろうな」
リリィ
「そうね。環境の厳しい者から救っていきましょう。救って、子供を教育して、科学を学ばせるのよ。それが星の崩壊を防ぐ道よ。」
一同
「「「「おう」」」」
リリィ
「難民全てに衣食住を与えましょう。仕事も与えましょう。そういう体制をつくるのよ。」
・・・・・・・
異世界から来たリリィたちは、国連に働きかけ、新たな移民政策を打ち出した。衣食住の完全保障、VRを利用した遠隔労働、統一されたAIゴーレムの運用による人種差別の撤廃である。前代未聞の政策が今、世界を変えようとしていた。
「つまり、難民たちに全員VRゴーグルを通じてゴーレムを操作させて仕事させるってこと?」
マモルは額に汗を浮かべながら、リリィの説明を聞いていた。
「そうよ。それが最も公平で、最も効率的な労働環境よ」
リリィの声は冷静だった。
彼女は次々と難民たちへの支援策を国連事務総長・アンサに説明していた。
マモルは頷きながら言う。
「VRで操作されたゴーレムは、見た目は同じ、全部統一されるから、人種差別は発生しない。確かに理論的にはそうですね。でも・・」
「なにか、不安なことが?」リリィが静かに問いかける。
マモルは少し考えた後、肩をすくめた。
「いや、むしろワクワクしてるけれど、話が出来過ぎている感じがして」
ジャック
「やりながら、それを確かめる。それが俺たちのやり方だ。悩む前にやれだ」
◆難民町の建設
難民政策の中心となるのは、移動可能なコンテナゴーレムの町だった。
ゴーレム生成魔法陣を地面に置く。魔法陣を起動する。土が固まりコンテナ型の岩が出来ていく。薄い鉄板のようだが、材質は岩だ。下には車輪だ付いている。
コンテナはゴーレムだから、自ら動くこともできるが、命令するまでは動かない。人が押すと、ゆっくり動く。ボタンを押すと、泥のように溶けて人型になる。人型の胸にボタンがあり、押すとコンテナの形になる。そういう仕様だ。
難民町の建設予定地には、区画がされていて、難民の家族は、決められた場所に、人型のコンテナゴーレムを連れて行って、胸ボタンを押せば、コンテナに展開して、中に住むことができる。コンテナの中には何もないが、雨風はしのげる。水道の蛇口が付いた転移魔法陣から飲み水が出てくる。トイレには便座があり、水洗で流した汚物は転移魔法陣で、汚水場に貯められる。壁の液晶パネルにはテレビ番組が映る。
国連の職員達が難民の家族ごとに、コンテナゴーレムを渡していく。やり方を教えて、場所を教えると、家族は人型コンテナゴーレムを連れて、予定の場所に歩いていく。
ある家族が親戚のものと並べて、コンテナを置きたいと要望している。そういうときは、並んだ区画に変更していく。ジグソーパズルのように区画が埋まっていく。
この町にも、コンビニボーソンがある。コンビニボーソンには衣服、食事が提供される。手首にリストバンドを付けているので、そのリストバンドを認識させるだけで、コンビニボーソンを利用できる。
コンビニボーソンには、VRによる遠隔アルバイトが出来るサービスがある。最初は簡単な採集クエストから、初めて、徐々に難しいクエストに取り組む。報酬は仮想通貨ボンで支払われ、コンビニボーソンに売られているものを買うことができる。
コンビニボーソンの数は、100人にひとつの割合でコンテナゴーレム町に点在している。家に近くのコンビニボーソンを使うことになっている。
町の四方には、病院用の大型コンテナ並べられている。医師は少ないが、医者が遠隔で診療してくれる。医療診断AIも導入された最新の機能の病院である。ベッド数は少ないが病床はコンテナゴーレムを召喚すれば増やすことができる。
町の中央には学校がある。6~12才の子供が通い、教育を受ける。13才以上は、ここにはないが、遠隔で、上の学校に行くことができる。
難民たちを安全に受け入れ、居住地を提供する。
コモン
「よし、これでまずは衣食住は確保できたな。」
コモンが満足そうに言う。
「問題は、労働力に対する正当な対価だ。搾取するものがいないように取り締まる者が必要だ」
町の数カ所に、国際警察官の詰め所が置かれる。いわゆる交番である。出来たすぐの町の治安はすぐに悪くなる。たよりは、国際警察官である。各国から希望者が来たが、絶対数が足りないので、こちらもVR遠隔のAIゴーレムを国際警察官が動かしている。
「VRゴーグルを用いた遠隔操作で、難民たちに働いてもらう」
リリィは淡々と言う。
「彼らの労働は、AIゴーレムを通じて経済活動に繋がる。貿易、建設、清掃、あらゆる業種、これらすべてを担うことができる。やがて研究開発も」
クロシャ
「リリィ、盗難が発生した。銃をもった盗賊たちだ。」
リリィ
「あの程度は、大丈夫」
見ていると、町に銃をもった男たちが町にはいろうとした段階で、車が動かなくなった。ゴーレム魔法で、車をゴーレム化して、エンジンが止まったのだ。中からでようとするとドアが閉まったままで出られない。
フロントガラスを壊して、外に出ると、今度は銃がゴーレム化して使えない。玉が出ないのだ。ナイフを抜くと、ナイフの刃がポロリと落ちる。これもゴーレム化の魔法による。町の入り口付近で、武器を全て失った男たちを国際警察官が囲み、お花畑銃で撃って、拘束して、留置場用コンテナに詰めて終わりである。
クロシャ
「尋問したら、あいつらは、人身売買の悪党だった。アジトを急襲して、全員捕まえておくよ」
クロシャがこともなげに言う。相手が人間なら問題はないだろう。全員が納得している。
闇一族が、このプロジェクトを妨害しようとしているのか、気になるが、今のところ兆候はない。
マーガレットが小さく言う。
「まだまだ、町には足りないものがあるニャ。公園とか、食事のできるお店とか。休日に家族で出かけるショッピングモールとか」
リリィ
「そうね。そういう場所も必要ね。三田部長にお願いしましょう。」
リリィは三田部長にスマホで連絡している。
・・・・・・・
ニューヨークの拠点に転移した。
ここのところ、毎日、1個所ずつ避難民の町を作っているペースだ。同じことの繰り返しのようだが、避難民の人種や過去によって微妙に違う。それぞれに合った町づくりが必要だった。特に宗教の関係は難しい。教会の建設は、避難民に全面的にまかせることにした。宗教は生活に密着していて、強制はできないからだ。
リリィ
「さあ、ジャグジーに入ろうかな。明日も難民町作りだからね。」
リリィさんは明るく言う。
ニューヨークの拠点に転移し、連日の難民町の建設が続いていた。異なる文化、異なる宗教の人々に適応した町作りは一筋縄ではいかないが、リリィたちは着実に前進していた。
マモルは、避難民の人たちのことを思いながら、ギターを弾いた。
物悲しい曲になってしまった。
「避難民の生活は、死と隣合わせだ。もっと頑張ろう。」
マモルは小さくつぶやいた。




