第67話 定例会議 2019.7
ニューヨーク拠点・リビングルーム
窓の外には、マンハッタンの街並みが広がっていた。だが、ニューヨーク拠点のリビングルームには、外界の喧騒とは裏腹に、張り詰めた静けさがあった。
リリィが一同を見渡し、端的に言った。
「定例会議を開くわよ。ジャック、司会して」
ジャックは立ち上がり、資料端末を手に会議の冒頭を宣言した。
「了解。まず改めて、我々の目的を確認しておこう」
彼の声が落ち着いて響く。
ジャック「科学と魔法を融合させた力は、星の破局、つまり惑星規模の崩壊を食い止める可能性がある。だが、その前に人類自身がこの星を人災で滅ぼしかねない。だからこそ、まずは文明を成熟させ、科学力を高める方向に導かねばならない。
その順序はこうだ:
一、資金を得る。可能な限り多く。
二、その資金で平和を守る組織、国際警察官などを設立・強化する。
三、人を増やし、教育し、科学者を育成する。
四、研究施設を増やし、科学と魔法の融合を推進する。
五、最終的に星の破局を防ぐための技術研究に集中する。
勇者ギルド長から与えられたクエストの期間は、わずか5年。そして今、その9カ月目に突入した。」
リリィは小さくうなずいた。静かな目線で皆を見つめている。
続いて、コモンが資料を開きながら口を開いた。
「では、進捗報告に入る。意見があればその都度挙げてくれ。
当面の資金稼ぎは、菱紅商社への金塊販売で月間5億円程度。さらに本命となるのが、原子力発電所の廃炉事業だ。プルトニウムを錬成魔法でミスリル化できるので、廃炉作業そのものが“宝の山”になる。
現在、福島の廃炉作業は順調。加えて、アメリカのスリーマイル島から正式な申し込みが来た。ウクライナのチェルノブイリからも相談が入っている。EU各国からも原発廃炉に興味が示されている状況だ」
ジャックが補足した。
「細胞活性装置のオークション利益をもとに、国連主導で国際警察官の維持と増員を進めている。これは勇者ギルド貢献ポイントを1ポイント消費するが、不可欠な施策だ」
リリィは穏やかに言葉を挟んだ。
「細胞活性装置は、超富裕層向けだけど、正しく使えば貯めこんでいるお金を出させて、世界経済の循環を促進できる。続けましょう。待ち望んでいる人たちはきっといると思う」
コモン「了解。ならば最低価格を設定して、ネットオークションに出そう。2000億ドルを下限とする」
リリィ「それでいいわ。魂が黒く染まった人間には渡せない。今回もオークション参加者に調査を入れて、魂が善性の者だけにオークション参加資格を与えましょう」
コモン「いずれは核融合発電プラントが稼働すれば、莫大な収入が得られる見込みだ。エネルギー市場の再編も視野に入れている」
ジャック「とはいえ、現時点でどの程度の資金になるかは未知数だ。計算上の収益と実需は違うからな。」
ジャックが端末を操作しながら話す。
「災害対策も順調だ。人命を救うのを目的としている。バハマではハリケーン・ドリアンに対抗する作戦を実行。クジラゴーレム、イルカゴーレム、コンテナゴーレムを投入。魔法と科学の融合による海水温の冷却作戦が功を奏した。魔石の増産体制も順調だ」
リリィ「そういえば、コンビニ・ボーソンの東京店が順調だ。シノブが現地指揮を取って、軌道に乗ってきている。世界の主要都市への展開も進めている」
コモン「それから、インドネシアのアナク・クラカタウ火山での資源採掘工場の建設も順調だ」
ジャックは全員を見渡し、最後の確認をした。
「各部門とも、現状では順調だ。だが、世界規模の災害はいつ起きてもおかしくない。次に備えて、各自、万全の準備をしておくこと。以上で、定例会議を終了する」
リリィは立ち上がり、静かに頷いた。
「ありがとう、みんな。次のステップに向けて、進みましょう。」
こうして、2019年7月の定例会議は幕を閉じた。




