第63話 バハマ ハリケーン対策 その2 2019.7
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リリィはテーブルに置かれた地図を見つめながら、静かに言った。
リリィ「国連からの連絡を待つのは時間のムダね。バハマ、アメリカのフロリダ、カナダのどこに行くかね?」
ジャックは腕を組みながら口を開いた。
「キューバも選択肢だが、社会主義国だから歓迎されないだろう。バハマはハリケーン被害が多いから、協力が得やすいかもな。」
リリィはすぐに頷いた。
「じゃあ、バハマ行きましょう」
コモンが手元の端末を操作しながら言う。
「バハマはタックスヘイブンの国で、観光地でもある。拠点を設けてもいいかもしれない。」
リリィ「そうなの?コモンがお勧めの地ね」
マーガレットは顔をぱっと明るくして声を上げた。
「でも、美味しいものがあるか、どうかニャ!」
ジャックは呆れたようにため息をつく。
「お前は本当に食べ物のことしか考えてないな」
コモンは苦笑しつつ提案を続ける。
「まずは首都ナッソーに転移して、総督と交渉だな」
リリィ「そうね。国として協力してもらうには、政府の理解が必要だわ」
この話がまとまった直後、国連のアンサ事務総長に連絡が取られ、バハマ政府との面会のアポが素早く手配された。
・・・・・・・・・
【バハマ ナッソー 総督官邸】
転移魔法の光が弾け、リリィたちはナッソーにあるコンビニ・ボーソン建設予定地の特設駐車場に現れた。ボーソンは冒険者ギルド株式会社の商業網であり、各国首都に展開を予定しており、菱紅商社を通じて建設予定地を確保している。そこに待機していた送迎車に乗り込み、彼らは総督官邸へと向かった。
白亜の外壁に囲まれた官邸前には、すでに総督とその補佐官たちが出迎えの態勢で並んでいた。
総督「リリィさん、国連から連絡がありました。ご足労いただきありがとうございます。我々の国に、どのようなご用件でしょう?」
リリィは一礼し、落ち着いた口調で答えた。
「総督、はじめまして。私たちはハリケーン対策のためのプロジェクトを進めています。今年の9月に発生する可能性があるハリケーン・ドリアンに備え、バハマを含む複数の国で協力体制を構築したいのです」
総督は頷き、少し声を落とした。
「バハマは、美しい観光ビーチや高級リゾートの国であり、カリブ海の重要な経済拠点です。しかし、ハリケーンの影響を受けやすく、災害対策が課題となっています。ハリケーンを防ぐことができれば最高です」
ジャックが一歩前に出て説明した。
「その方法は、深海の冷たい海水を泡で浮上させ、海面温度を下げるというものです」
コモンもすかさず補足する。
「実績もあります。今年の3月、マダガスカル沖でサイクロンの発生を抑えました」
総督は興味深そうに頷いた。
「なるほど。確かにそれが可能なら、非常に有益な対策だ。しかし、具体的には我々の国は何をすればいいのでしょうか?」
リリィは率直に答えた。
「まず、港の協力をお願いしたいです。事前準備をするため、高速艇を運用する拠点が必要になります」
総督「港の協力ですか。それならナッソー港が適任かもしれません」
コモン「高速艇の運用には、燃料、整備施設、人員の確保が必要になります。地元の協力を得ることも重要ですね」
総督は深く頷き、補佐官に何かを耳打ちすると、こう言った。
「なるほど。そうですね。しかし、国民に理解してもらうために、説明会や報道を通じて情報を発信する必要があります」
リリィは感謝の気持ちを込めて答えた。
「ありがとうございます! 私たちも全力で協力します。住民への説明会を開きましょう」
総督「では、まずナッソー港を視察し、具体的にどのように運用するのか計画を立てましょう」
リリィ「了解しました。総督、ありがとうございます」
・・・・・・・・・・・
バハマ総督との会談を終えたリリィたちは、総督の手配した黒塗りの公用車に乗り込み、ナッソー港へと向かった。車窓から見える青い海と白い砂浜のコントラストは、カリブ海の楽園そのものだった。
港に到着すると、すでに数名の政府港湾管理者と、漁業関係者たちが彼らを待っていた。
政府の港湾管理者が歩み寄り、丁寧に挨拶する。
「ようこそ、リリィさん。我々も、ハリケーン対策に貢献できることを嬉しく思います」
ジャックが一歩前に出て、礼を返した。
「ありがとうございます。まずは、高速艇の運用スペースと整備施設を見せてもらえますか?」
リリィも続けて要点を伝える。
「高速艇三十隻分の発着所を確保したいのです。冷却泡の発生装置を積んだ艇を同時に運用するには、それなりの広さが必要になります」
管理者は頷くと、手を差し出して先導した。
「こちらです。桟橋と整備工場、燃料供給所がまとまっている区画になります」
リリィたちは管理者の案内で、港湾施設の一角を丁寧に視察した。潮風が吹き抜ける桟橋には、漁船のほかに輸送船も係留されており、波の間から光がきらめいていた。
ジャックは整備工場の構造を見ながら呟いた。
「施設そのものは十分だな。電源も安定している。あとは人員か」
コモンがタブレットを見つめながら付け加える。
「現地の作業員に冷却泡装置の操作と、緊急時の対応を覚えてもらう必要がありますね。」
リリィは振り返って、管理者に提案する。
「では、港の一部を借りて、ハリケーン対策の作戦拠点として運用させていただけませんか?」
管理者は一瞬考え、漁業関係者たちと視線を交わすと、力強く頷いた。
「わかりました。我々も、毎年のようにハリケーンに悩まされてきました。少しでも脅威を減らせるのなら、大いに協力します!」
その声に、周囲で様子を見ていた地元の漁師が声を上げた。
漁師「もしサイクロンが抑えられるなら、漁の安全も確保されるんだな?」
リリィは微笑み、はっきりと答えた。
「そのとおりです。海面温度を下げれば、サイクロンの形成を妨げることができます。私たちは、バハマの人々の生活を守りたいのです」
漁師はうなずき、拳を握った。
「それなら賛成だ! 毎年、網や船が壊れるのはもう勘弁だ!」
その声に他の漁師たちもざわめき、協力の気配が広がっていった。
すると、少し離れた場所にいた年配の港湾管理者が歩み寄って提案した。
「正式な合意の前に、一度、実験を行うというのはどうでしょう? 実際に泡を発生させる様子を見れば、国民の理解も進むはずです」
リリィは明るく頷いた。
「その提案、いいですね! では、数日後にここで公開実験を行いましょう」
ジャック「準備はすぐに進められる。機材も転移で搬入可能だ」
リリィ「ありがとうございます。これで、運用の準備が進められますね」
ジャックは真顔で続けた。
「次に、公開実験の準備を始めましょう。地域の人々の理解と協力が不可欠です」
その言葉に、大統領府の補佐官が返答する。
「了解しました。メディアを通じて広報し、地域の代表者を招集します」
リリィたちは頷き合いながら、港の運用と地域広報の両面で行動を始めた。
港に吹く潮風の中、リリィの瞳は遠く海の向こうを見据えていた。




