第57話 メキシコの大富豪との出会い 2019.5
【メキシコ・菱紅商社支店 会議室】
透明な光が会議室の中央に収束し、まばゆい閃光のあと、リリィ、ジャック、ガルド、マモル、コモンの五人が姿を現した。
瞬間転移の着地は完璧。すでに現地スタッフが整然と待機しており、深々と頭を下げた。
スタッフA
「皆さま、ようこそメキシコへ。リリィさんたちをお迎えできて光栄です」
リリィ(微笑をたたえながら)
「ありがとうございます。早速ですが、モンテス氏のお屋敷へご案内をお願いできますか?」
スタッフB
「もちろんです。リムジンをご用意しております。屋敷までは車で約1時間となります」
【リムジン車内】
大通りを滑るように走るリムジンの窓から、色鮮やかな街並みが流れていく。建物も看板も、まるで陽気な音楽のように視覚を賑わせる。
マモル(窓の外を眺めながら)
「メキシコって初めてだけど、街がカラフルだなぁ。建物にも元気がある感じがするよ。」
ジャック
「インドとはまた違った熱気があるな。ところで、3978億ドルだって。細胞活性装置の落札額が、また記録を更新したな」
リリィ(冗談めかして)
「その資金は、国際警察官の維持や各種プロジェクトに使わせてもらうわ。世界のためにね」
コモン(肩をすくめて笑いながら)
「落札者のモンテス氏、どんな人物だろうな。超大金持ちって、だいたい一癖あるもんだけど」
リリィ
「理由がなければ、誰も命を買おうとはしないわ。きっと、会えば分かるはず」
【エンリケ・モンテス邸】
やがてリムジンは、郊外の緑に囲まれた広大な敷地に入った。宮殿のような白亜の邸宅。庭園には花が咲き乱れ、中央の噴水が陽光を受けてきらめいている。
執事が階段を下りてきて、丁寧に頭を下げた。
執事
「リリィ様、皆さま、エンリケ様がお待ちです。こちらへどうぞ」
広々としたリビングに通されると、上品な白髪の老紳士がゆったりと椅子から立ち上がった。
エンリケ・モンテス
「おお、ついにお越しいただいたか!リリィさん、そしてその仲間たちよ。ようこそ我が家へ!」
リリィ(握手を交わしながら)
「モンテス様、温かくお迎えいただきありがとうございます。本日は、細胞活性装置の設置のためにまいりました」
エンリケ(穏やかに微笑む)
「私は、年老いた体を支える術をずっと探してきました。貴女方の技術こそ、私の最後の希望なのです」
マモル(小声でジャックに)
「これだけの金額でも動じないな。やっぱり“本物”の金持ちだ」
ジャック(苦笑しながら)
「金があるなら、寿命の延長が最優先になるだろうな。とくに、夢を追ってる人間ならなおさらさ」
【設置作業】
プライベートルームに案内され、リリィたちは装置の準備を整えた。
リリィ(やさしく説明しながら)
「装置は腹部に軽く当てます。中に吸収され、細胞を活性化させていきます。悪い部分があれば、そこが少し温かく感じるはずです」
エンリケは黙って頷き、リリィが装置を当てると、淡く青い光が体を包んだ。
ガルド(見守りながら)
「何度見ても不思議だな。人の体が目に見えて癒えていく」
エンリケ
「おお、肩の重さが消えていく!まるで数十年前に戻ったような気分だ!」
装置が完全に体内に吸収されると、エンリケは満面の笑みを浮かべた。
エンリケ
「リリィさん、この時間が、私にとってどれだけ貴重なものか。感謝の言葉もありません」
リリィ
「この装置で、健康状態は100年間維持されます。けれど不死ではありません。事故や攻撃にはご注意ください」
エンリケ
「ええ、承知しています」
だがその時、リリィは真剣な口調で続けた。
「細胞活性装置を狙う者がいます。実際、アメリカの落札者は、現在核シェルターに身を隠して暮らしています」
エンリケ(目を見開いて)
「そこまでの脅威なのか。」
リリィ
「先日、私たちの拠点には、100人規模の傭兵部隊が侵入を試みました。ドローン、毒ガス、火炎放射器、本気で奪いにきました」
エンリケ(沈黙のあと)
「私も、核シェルターを用意しよう。準備が整うまでは、私兵を増員します」
リリィ(手をとり、静かに)
「ご判断に感謝します。私たちからも、メキシコの国際警察官に連絡を入れ、この一帯の巡回を依頼しておきます」
エンリケ
「国際警察官。ああ、例の魂で選ばれた者たちか。ぜひ頼みます」
リリィは小さく微笑みながら頷いた。
【メキシコ・エンリケ邸】
細胞活性装置の設置が完了し、エンリケ・モンテスの顔には満足と安堵の表情が浮かんでいた。健康の回復だけでなく、命の炎に再び薪がくべられた実感、それは、巨額の代償以上の価値があった。
だが、リリィの表情は緩まず、装置が彼の体に完全に吸収されたあと、ひとつの魔導通信石を手にした。
リリィ
「クロシャ、聞こえる?」
静かな声が魔法の通信を通じて、ニューヨークの拠点にいる男へ届く。
クロシャ(低い声で応答)
「ああ、どうした、リリィ?」
リリィ
「メキシコの富豪、エンリケ・モンテス氏に細胞活性装置を提供したわ。彼の屋敷周辺、特に夜間の巡回を国際警察官に頼めるかしら」
クロシャ
「細胞活性装置を狙ってくる可能性か」
リリィ
「ええ。装置の存在は、敵の絶好の狙いよ。彼の家族も従業員も、巻き込まれれば後悔してもしきれない」
クロシャ
「了解した。現地の警官リストを確認して、信用できる者を巡回に組み込んでおく。敵が接触すれば、即報告を入れる」
リリィ
「ありがとう、クロシャ。頼りにしているわ」
【祝賀パーティ】
その夜。リビングにはテーブル一面にメキシコ料理が並び、マリアッチの陽気な音楽が空気を震わせていた。庭園には色とりどりの照明が灯り、まるで映画のワンシーンのような祝賀の空間が広がっていた。
エンリケ(グラスを掲げながら)
「皆さん、ようこそ。そして、心からありがとう。この命、またひとつ夢を追いかける力が湧いてきました。さあ、今日は楽しんでください!」
マモル(タコスを頬張りながら)
「うまいなぁ、本場のタコスって全然違う!皮がパリッとしてて、香ばしい!」
マーガレット(耳をピコピコ動かして)
「この辛さ、癖になるニャ〜!おかわりしようかニャ!」
ガルドも骨付き肉をかじりながら笑い、ジャックはグラスを傾けて異国の香辛料の強さに眉をひそめつつも、楽しげに過ごしていた。
リリィ(グラスを掲げて)
「モンテス様、ありがとうございます。私たちはこれからも、必要とされる場所へ赴き、世界の均衡を守り続けます」
【静かな夜と星空】
その夜、一行はエンリケの豪邸に泊まり、ゆっくりと休息を取った。広い屋敷のバルコニーから見上げた空には、メキシコの星々が果てなく広がっていた。
リリィはひとりで外に出て、胸の内にある不安と希望を天に託すように見上げた。
「私たちの選んだ道が、誰かの希望になれば、それだけで、十分」
風が髪を揺らし、どこか遠くでマリアッチの歌声がまだ響いていた。
【翌朝・ニューヨーク拠点】
一行は転移魔法でニューヨーク拠点へ戻った。朝日が射し込む作戦室では、すでに次の計画が検討されていた。
マモル(椅子に座りながら)
「リリィさん、昨日は素晴らしい夜でしたけど、気になることが一つあるんです。」
リリィ(顔を上げて)
「なにかしら?」
マモル
「熱海の拠点、そろそろ見に行きたいんです。あそこ、以前の襲撃でかなり破壊されて、まだ完全には復旧していないって聞いてます。」
リリィは一瞬だけ黙し、そして頷いた。
「ええ。拠点が安全でなければ、私たちも腰を据えて戦えないものね。次の準備が整い次第、熱海へ行きましょう」
マモル(小さく笑って)
「ありがとうございます。あの場所も、俺たちの大切な“家”のひとつですから」
リリィは微笑み返しながら、テーブルに広げた地図を見つめた。




