第50話 アフリカ サイクロン対策 その6 2019.2
【ニューヨーク・国連本部】
マダガスカル沖でのサイクロン抑止作戦が成功してから、わずか1週間後。
リリィたちは、またしても世界の中心へと舞い戻っていた。
冬の風が吹き込むニューヨーク。国連本部ビルのガラス張りのロビーには、各国代表の姿が次々と集まり、会議室に案内されていく。
サイクロン被災国、アフリカと南アジアの11カ国。
その代表者たちの前で、いま、リリィたちは“未来を変える技術”を語るのだ。
【会議室にて】
アンサ事務総長が席を立ち、壇上から語りかけた。
「リリィさん、まずはマダガスカルでの作戦の成功、おめでとうございます」
「ありがとうございます、アンサさん」
リリィは穏やかに微笑んだ。
「私たちはこの成果を、インド洋全体に広げたいと思っています。サイクロンによる被害を、これ以上出さないために」
アンサがうなずく。
「本日は、この“泡によるサイクロン抑制技術”を国連の正式プロジェクトとして承認するかどうか、各国の代表に判断を委ねます。リリィさん、説明を。」
リリィはゆっくりと一歩前に出る。
「ジャック、お願い。」
【プレゼンテーション:泡の技術とは?】
スクリーンに、地球の衛星写真とサイクロンの動きが映し出された。
ジャックが指を走らせ、各国に向けて語り始める。
「毎年、地球では約30のサイクロンが発生しています。そのほとんどが、インド洋や太平洋などの温暖な海域で起きています。」
「その主因は、海水の表面温度が26.5℃を超えること。これが、暴風のエネルギー源となるのです。」
次に映し出されたのは、マダガスカル沖での映像。
イルカ型ゴーレムたちが泡を放ち、海面に冷水を浮上させる光景が広がる。
「私たちは、深海の4℃の水を泡に乗せて海面まで届け、温度を下げることで、サイクロンの発生そのものを抑制できます。」
リリィが言葉をつなぐ。
「実際にこの技術で、マダガスカルに接近していた“サイクロン・イ”の発達を阻止しました。」
【各国代表の反応】
代表Aが手を挙げる。
「素晴らしい成果だ。しかし、実行にはコストと継続性が問題になる。」
代表Bも続いた。
「長期的に海域全体を冷却するには、どれほどの運用体制が必要なのか?」
代表Cは環境リスクを指摘する。
「気候を人工的に操作することで、別の問題が発生する可能性はないのか?」
ジャックは頷きながら、静かに答えた。
「どの懸念もごもっともです」
リリィが続けて語る。
「コストについては、私たちの泡発生ゴーレムは量産が可能で、従来の防災インフラよりも低コストです。初期投資は必要ですが、維持費は抑えられます。」
アーロンが手元の端末を操作しながら加えた。
「現在、私たちは“クジラ型ゴーレム”の開発を進めています。これにより、より深海へ、より長期間、完全自動での作業が可能になります。」
コモンも補足する。
「サイクロンの発生予測から、48時間以内で対応できる体制はすでに整っています。」
ジャックが締めくくった。
「環境への影響ですが、マダガスカル沿岸での海洋調査では、悪影響は確認されていません。むしろ、冷水が浮上することで栄養分が広がり、魚類が増えるという好影響が見られました。」
【白熱する議論】
代表D「ただ、慎重に導入すべきという意見も」
代表E「だが、我々はすでに異常気象で多くを失っている!試さない理由があるのか?」
アンサ事務総長が手を上げ、場を静めた。
「意見が分かれているようですね。」
その瞬間、リリィは少しだけ笑って言った。
「この技術は、サイクロンの被害を防ぐだけでなく、将来的には深海の資源開発や漁業支援にも応用可能です。皆さんの国が、その恩恵を受ける機会を、見過ごしますか?」
その一言に、ざわめきが走る。やがて、反対の声は一つもなくなった。
【全会一致、可決】
アンサ事務総長が静かに言葉を結んだ。
「それでは、この泡を使ったサイクロン対策を、国連の正式プロジェクトとして承認します。」
リリィがゆっくりと立ち上がり、手を広げた。
「皆様の健康とご活躍を祈って、回復魔法をかけさせていただきます。」
会議室に、淡い光が広がった。
疲労を感じていた各国代表者たちの顔に、ふっと安堵の色が浮かぶ。
代表C「不思議だ。肩の痛みが消えたような」
代表B「体が軽くなった。魔法とは、まさに癒しだ。」
アンサ事務総長は満足げに頷いた。
「ありがとうございます、リリィさん。」
【SNSで世界へ】
その夜、マモルは『虹色の風』専用のSNSチャンネルに、マダガスカルでの成功をまとめた動画を投稿した。イルカゴーレムの泡発生シーン、青空に変わっていく映像、そして笑顔で祝う住民たちの姿。
再生数はあっという間に伸び、登録者数も180万人を超えていた。
コメント欄には、各国の言葉で「ありがとう」「希望が湧いた」「自分の国にも来てほしい」の声があふれていた。




