表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/127

第4話 召喚された参謀と会計士     2018.4

 翌朝。マモルは今日も“異世界人サポート”という名のアルバイト業務に向かった。


 ホテルのスイートルームに到着すると、中からはドタバタと騒がしい音が聞こえてくる。


「お、おはようございます。どうしたんですか?」


 扉を開けた瞬間、マモルの目に飛び込んできたのは、動く金髪のマネキン人形2体。そして、まったく同じ顔をした青年が8人、部屋中を忙しなく動き回り、ノートに何かを書き込んでいた。


 リリィがマモルに気づき、軽く微笑む。すると部屋の奥から、見慣れない男が現れた。


「お前がマモルか? 俺はコモン。会計担当だ。儲かる話は歓迎だが、無駄な出費はお断りだ。生活費やら装備費やら、バカにならん。さっさとこのスイートルームは出るべきだな。拠点を構えたほうが断然安上がりだ」


 リリィが苦笑しながらマモルに説明する。

「コモンは経理担当のスペシャリストよ。私たちの活動を裏で支えてくれてるの」


「コモン、じゃあ、拠点はどこがいいかしら?」


 コモンは胸を張り、即答した。

「まず、日本は税金が高すぎる。本部はタックスヘイブン、つまり税金が無い国に置くべきだ。香港、シンガポール、それにアメリカの一部の州も候補だな」


「日本国内の拠点は、廃れたリゾート地が狙い目だ。今なら別荘地が安く手に入る。魔法で建物を強化すれば地震にも耐えられるし、魔法陣があれば移動も問題ない。隠れ家にも最適だ」


 リリィは大きく頷いた。

「じゃあ、商社の三田部長に連絡して、拠点の確保に動いてもらいましょう。日本の別荘地と、タックスヘイブンの拠点を手配してもらうわ。準備はコモンに一任するわ」


「おう、任せとけ」


「それから、マモルさん。彼はジャックよ。私たちの“参謀”。国立国会図書館にこもって調べ物ばかりしてたの。今はマネキンにゴーレム魔法をかけて、助手として使ってるのよ。ちょっと不気味だけど、本人は気に入ってるみたい」


 ジャックが立ち上がると、2体のマネキンゴーレムもマモルの方へ近づいてくる。


「やあ、初めまして。俺がジャック。マモル君っていうんだね? 協力ありがとう。これからもよろしく頼むよ。マネキンのゴーレム、可愛いだろ?」


「ジャック、収集した情報と今後の作戦を説明してくれるかしら?」


 ジャックは咳払いをしてから、語り始めた。

「人類の歴史を調べたら、今の地球はいろんな問題を抱えてる。人災でこの星が滅ぶ可能性が高いことが分かったよ」


「えっ、本当に?」


 一同が注目する中、ジャックは冷静に説明を続ける。

「核爆弾。各国が大量に保有し、使い道にも困ってる。細菌研究所では人類を滅ぼせるようなウイルスを作っている。


原子力発電所も、事故やメルトダウンを何度も起こしているのに、やめる気配がない。


大国同士の代理戦争で、古い兵器を消費しながら、効率的な大量殺戮を研究してる。


とにかく、人類は自ら災厄を生み出すのが得意らしい」


「隣国から弾道ミサイルが飛んできても、日本人は新聞の小さな記事だけで済ませてる。危機感がなさすぎる」


「この世界の人間って、誠実そうに見えて、実は現実を見てないのね。自殺願望でもあるのかしら」


「あり得るね。毎年、数万人が自殺してるって統計もある。我々の世界では考えられないよ」


「せっかく水も豊かで食べ物も美味しいのに。バカね」


 ジャックは目を輝かせて語る。

「でもね、この星の文明は科学だけでここまで発展した。魔法を使ってないのにだよ? すごいよ。


もしこの科学と、僕たちの魔法が融合すれば、今までにない力が生まれるかもしれない」


「それって、どれくらいの力になるの?」


「希望的観測だけど科学と魔法を融合させた力は、“星の破局”を止められるかもしれないんだ」


「「「なんだって!!!」」」


 皆が声を揃えて驚いた。


「すごい! まさか、こんな旅先で、星の破局を止める手段が見つかるなんて!」


「よく気づいたわね、ジャック!」


「だから、まずはこの星が“人災”で滅びるのを止めよう。科学力を高める方向に導こう」


「賛成よ。休暇は中止! 全力でこの夢に取り組むわ!」


 ジャックが身を乗り出して言った。

「まずは資金だ。できるだけ多く集める。そして、その資金で平和を守る組織を作る。警察のようなものだ。


戦争と紛争を止め、人を増やし、教育して科学者を育てる。研究施設を増やして、科学と魔法の融合を進める。星の破局を防ぐ技術は、たぶん1000年かかるだろう」


「1000年!? でも大丈夫。その方向でいきましょう! ギルド長に話して、特例クエストとして認めてもらうわ」


「1000年、それって現実感ないな」

 マモルは戸惑いを隠せなかった。


(異世界人って、本当にそんなに長く生きるのか?)


 リリィが続ける。

「資金集めは予定通り金塊取引から。そして、福島原発の廃炉事業を日本政府から受注。報酬は10兆円規模で。さらに世界の原発廃炉事業を展開していきましょう」


 ジャックも説明を続ける。

「この世界では、最も裕福な26人が世界の半分の富を持っているらしい。彼らに健康と寿命を売って、その富の半分をもらおう」


 リリィが驚く。

「何に使うつもりなの? そんなにため込んで。お金の使い道を私たちが提供してあげるのよ。例の“あれ”を売って、一人100兆円ずつね」


「それから、ここのロボット技術も魔法で改良すれば一気に進化する。ゴーレム魔法で賢いロボットを大量に販売しよう」


「次世代の発電、核融合技術もある。異世界の新素材を使えば一気に実用化できる。発電事業を独占できるかもしれない」


「すごい、全部、実現しましょう。でも、資金の使い道は慎重に。新しいことには反発もあるだろうし」


「もちろんです」


「いきなり世界規模で100兆円、さらに発電事業、話が壮大すぎて笑うしかない」

 マモルは思わず苦笑した。


「ジャック、無駄遣いはダメだぞ。経費はちゃんと考えてくれよ」

 コモンが釘を刺す。


「それから、リリィさん、小さな提案なんですが……パーティ専用の動画チャンネルを作りませんか? 活動を動画で発信して、PRしてみては」


「なるほど。YouTubeなら広告収入も見込めるしな」

 コモンが嬉しそうに賛成した。


「じゃあ、その件も三田部長に相談してみるわ。動画の撮影はマモルとマーガレットにお願いね」


「俺も協力するぜ! スマホの使い方、教えてくれよな、マモル!」

 ガルドがにやりと笑った。


 その時、リリィのスマホが鳴った。発信者は三田部長だった。


「ええ、はい、分かりました。それと、パーティの専用チャンネルの件ですが、はい、ありがとうございます」


 通話を終えたリリィがみんなを見渡す。


「ちょうどいいタイミングだったわ。チャンネル開設には専門スタッフをつけてくれるそうよ。


それと、予定が早まるかもしれない。菱紅商社が首相官邸で、内閣官房長官とのミーティングをセッティングしてくれるそうよ。プレゼンの時間ね」


「ジャック、今回はあなたも同行して。コモンは拠点の準備をお願い」


「了解。必要があれば、分身に調査させておく」

 コモンがうなずいた。


 次なる舞台は、首相官邸。非公開の重要打ち合わせが始まろうとしていた。


「マモル、ギター持ってきたのね? 昼食の後に一曲お願いね」


「はい、わかりました、リリィさん」


・・・


 その夜、マモルはアパートに戻り、カップ麺を食べながら今日の出来事を思い返していた。


(動く金髪マネキンが2体。同じ顔の青年が8人。非常識すぎる。誰かに話したら確実に変人扱いされるな)


(ジャックさんの“核爆弾”や“原発事故”の話、異世界人から見ればこの世界は“自滅的”に見えるのも無理はない)


(千年の計画、星の破局を止める……正直、理解不能だ。でも、僕は)


 マモルはふと微笑んだ。


(専用チャンネルの提案、すんなり通ったな。もしかして、ちょっとは役に立てたのかも)


(ジャックさんの言葉を聞いて、胸の奥が熱くなった。僕は僕にできることで、彼女たちを支えよう。深く考えるな。常識なんて通用しない)


 マモルは“役に立てた”という感触を胸に、心地よい眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ