第46話 アフリカ サイクロン対策 その2 2019.1
【ニューヨーク拠点・作戦会議室】
冬の寒気が窓を震わせるニューヨークの拠点。リビングルームでは、メンバーがテーブルを囲んでいた。壁のスクリーンにはアフリカ大陸の衛星画像が映し出されている。
リリィが地図を見つめながら静かに言った。
「次に何を準備すべきかしら?」
ジャックが手元の端末をタップしながら応じる。
「まずは、サイクロンの発生場所を正確に把握すること。そして地元政府や漁業関係者の協力を得ることだな」
コモンが資料をめくりつつ頷く。
「モザンビーク、ジンバブエ、マラウイだけじゃない。近隣国の沿岸部も影響を受ける。早期の連携が必要だな」
ガルドが腕を組み、やや強い調子で言った。
「だがよ、いっそ秘密裏にやっちまうって手もある。結果を見せてから説明すりゃ納得も早いだろ?」
ジャックはすぐに反論した。
「逆だ。海面に突然大量の泡が現れてサイクロンが消滅したら、逆に国際的な混乱を招く。国連にも睨まれるぞ」
リリィが決断を下すように口を開いた。
「私たちは世界と協力して動いているのよ。信頼こそ最大の戦力。今回はオープンに進めるわ」
ジャックが頷く。
「そうなると、関係国との調整は国連に一任するのが妥当だな」
リリィが頷きながらスマートフォンを取り出し、操作する。
「気象観測も各国の協力が必要ね。ゴーレムの開発は、アーロンに相談してみるわ」
リリィはスマートフォンを取り出し、親しい友人に電話するかのようにアンサ国連事務総長に連絡を取った。
・・・・・
【ニューヨーク・国連本部】
アンサ国連事務総長の執務室。電話越しにリリィの声が響いた。
リリィ:「アンサさん、また大変なことが起きそうなの」
アンサ:「嫌な予感がしていたよ。今度は何が来るんだい?」
リリィ:「2カ月後、サイクロン・イがモザンビーク、ジンバブエ、マラウイを直撃します。予知では千人以上の死者、数百万人の被災者が出ることになっています」
アンサ:「それは、国家規模の災害だ。対策は?」
リリィ:「海面の温度を下げて、サイクロンの発生を抑えるつもりです。深海の冷水を泡で海面まで運びます」
アンサ:「それが成功すれば、ハリケーンにも応用できるかもしれないな」
リリィ:「そう考えています。お願いがあります。今回の作戦を国連の公式事業として認定していただけませんか?費用は私たちが全額負担します」
アンサ「わかった。国連のスタッフと相談し、サイクロンの影響を受ける国々に呼びかけよう」
リリィ「準備に2カ月しかありませんが、よろしくお願いします。」
リリィ達一行は、ニューヨークの拠点に転移した。
・・・・・
【数日後・ニューヨーク・アーロンの会社】
雪がちらつくなか、リリィたちはアーロンの会社を訪れた。オフィスには試作品のゴーレムが展示されていた。
アーロンが笑顔で手を振る。
「リリィさん、インドネシアの件、SNSで話題になってたよ。火山と津波を止めたんだって?」
リリィが椅子に腰を下ろす。
「今回はサイクロン。もっと厄介よ」
アーロンが身を乗り出す。
「なるほど。で、どんな機能が必要?」
リリィ:「深海に潜って、大量の泡を出せるゴーレム。移動速度も重要よ」
マモルが手を挙げる。
「移動と泡生成を分けたらどうかな?イルカ型で移動、クラゲ型で泡とか」
ジャック:「それは合理的だな。一体に全機能を詰めるのは非効率だ」
アーロンが白板にアイデアを描きながら頷く。
「よし、試作ゴーレムを3パターン作ろう。3日後に実験してみよう」
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ロサンゼルス沖 - カリフォルニア海盆
3日後、アーロンを迎えにアーロンの会社に訪れた。案内された先の倉庫には、様々なロボット機材が整然と並べられていた。それらを全て、マジックバッグに入れて、ロスアンゼルス沖のカリフォルニア海盆に転移した。
アーロン「転移魔法!素晴らしい。これは便利だ。」
アーロンは子どものようにはしゃぎながら歓声をあげる。
リリィはその様子に苦笑しながらも、落ち着いた口調で答える。
「楽しんでもらえたなら、何よりだわ」
すでに直径300メートルのドーナツ型浮島が展開されており、波の揺れもほとんどなかった。ここ、カリフォルニア海盆は水深3000メートルにも達する深海である。リリィの結界魔法と認識阻害魔法が、この浮島を外部から完全に隠していた。
アーロンが最初に紹介したのは、イルカ型のロボットだった。
「まずは、これだ」
全長1.5メートルほどの機体は、まるで本物のイルカのような姿をしていた。アーロンがリモコンを操作すると、イルカロボットは華麗に海へと飛び込み、しなやかな動きで泳ぎ始めた。
「ゴーレム化してみよう」
ジャックが手をかざし、魔法陣を展開する。魔力がイルカ型ロボットを包み込むと、動きはさらに滑らかに変化し、自律的な挙動を見せ始めた。
「100メートル東に進んで、防水紙を浮かべて、戻ってきて」
ジャックの指示を受け、イルカゴーレムが高速で泳ぎ出す。30秒後、戻ってきた。
100メートル先には、浮かんだ転移魔法陣の防水紙が展開され、そこへ転移されたコンテナゴーレムが出現した。コンテナ内部に海水を入れた状態で、ゆっくりと深海へ沈んでいく。
「海面温度は21度」
コモンが測定値を読み上げた。30分後、コンテナゴーレム内の水が手元のバケツに転移される。
「水深2000メートルでの温度は4度か」
リリィが頷き、次の工程に移る。
「空気を転移で送り込んで、泡を発生させましょう」
さらに30分後、東の海面に大量の泡が湧き上がった。
「泡の周囲は7度。冷却効果、確認」
コモンが記録する。
「これなら、サイクロン発生の抑制は可能だ」
アーロンが深く頷いた。
ジャックは全体の流れを整理する。
「人工衛星で26.5度を超える海域を検出し、そこへ転移した高速艇からイルカゴーレムを放つ。ゴーレムが転移魔法陣を展開してコンテナゴーレムを出現させ、泡で海面温度を下げる。完了後、転移回収、という流れだな」
「でもね、よりシンプルな方法がある」
アーロンが指摘する。
「クジラ型ゴーレムを常時、回遊させておくんだ。必要な時にだけ深海に潜り、泡を出す。これなら段取りが減って、即時対応も可能になる」
リリィが頷いた。
「たしかに、それが最適ね。クジラゴーレムの開発、お願いできる?」
「了解。ただし、1年はかかる」
「それまではコンテナゴーレム方式で対応しましょう」
その後、リリィ達は、ロスアンゼルス沖の浮島を撤去、アーロンを会社に送り、ニューヨーク拠点に戻った。
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【ニューヨーク拠点】
リリィ「国連からの連絡を待つのは時間のムダね。モザンビーク、ジンバブエ、マラウイのどこかに行く?」
ジャック「マダガスカルも選択肢だな。毎年サイクロンの被害が多いし、海洋国だから協力が得やすいかも。」
リリィ「なるほど、マダガスカルにしましょう!」
マーガレット「マダガスカルの料理って、どんなのがあるのかニャ?」
こうして、リリィたちは次の目的地、マダガスカルへと向かうのだった。




