第39話 核融合発電プラントの計画 2018.11
ときは、1カ月前にさかのぼる。
秋も深まりつつあるある日、ニューヨーク拠点の研究棟。リリィたちは、会議室に集まり、新たな課題に向けて静かに思索を重ねていた。
「次は、核融合炉の建設に取り組もう」 ジャックがそう口にすると、ホワイトボードに大きく『核融合発電』の文字が記された。彼の目は、少年のような輝きを放っていた。
「三重水素をレーザーで1億度以上に加熱すれば、太陽と同じエネルギーが地上で再現できるはずだ」 ジャックがボードに数式を書きながら続ける。
「それが実現すれば、地球のエネルギー問題を根本から解決できるわね」 リリィが目を細めて頷いた。 「核廃棄物の問題も出ないし、理想的なエネルギー源になる」
「問題は、熱に耐える容器だ」 ジャックはファイルをめくりながら指摘した。 「現在の地球素材じゃ耐えきれない。そのうえ、1億度のレーザーを持続的に照射する装置と、それを電気に変換する手段も必要になる」
「魔法の出番はないのかニャ?」 テーブルに頬杖をついていたマーガレットが小首をかしげた。
「それこそ僕たちの出番だよ」 ジャックが笑顔で応える。 「耐熱容器にミスリル銀ベースの合金を錬金魔法で生成できるかもしれない。エネルギー変換も、魔導回路とのハイブリッドで補えるはずだ」
「私たちができるのは、資金と素材開発の協力ね」 リリィが冷静に頷いた。 「今、核融合を研究している企業と話をする必要があるわ。彼らの問題を聞いて、私たちが解決する」
◆三田部長との魔導通信会議
その日の午後、リリィは菱紅商社の三田部長に連絡を取った。映像越しの三田部長は、いつも通り穏やかな表情を崩さなかった。
「核融合発電ですか。夢のような話ですが、実現まで50年はかかると言われてますね」 三田部長が腕を組んで言う。 「どこの企業が進めているかは詳しくは知りませんが、アメリカにはそういったベンチャーがあると聞いたことはあります」
「ならば、私たちが直接行ってみます」 ジャックが前に出た。 「現地調査も含めて、我々で交渉します。資金と素材の支援が可能です」
「分かりました」 三田部長は即座に応じた。 「私の方でもパイプを使って調べてみましょう。これは成功すれば、桁違いの産業になります」
◆アメリカ西海岸での会談
数日後、リリィたちは飛行機でアメリカ西海岸へと転移した。
彼らが向かったのは、シリコンバレー近郊にあるベンチャー企業『フュージョンライト』。受付に現れた若きCEO、アレックス・コールマンは驚くほど快活だった。
「ようこそ!菱紅商社の三田部長から聞いています。核融合発電の協力依頼とは、本当に予想外でした」 アレックスが手を差し出す。
「私たちの力で、御社の開発を加速できると信じています」 リリィが握手に応え、微笑む。
会議室では、核融合技術の現状が詳細に共有された。
「最大の壁は、炉心を1億度の熱から守る容器の素材です」 アレックスが資料を指差す。 「数分も耐えれば御の字で、長時間運転はまったく不可能です」
「それなら、ミスリル銀と魔導加工を組み合わせた特殊合金でどうでしょう?2億度に耐えられます」 ジャックがその場で試算を示す。
「そんな素材、こちらでは聞いたことがありません」 アレックスは目を丸くした。
さらに、リリィはもう一つの核心に触れた。 「核融合で発生する熱エネルギーを、いかに効率よく電力に変換するか。その仕組みはありますか?」
「そこは未解決ですが、四菱重工がプラズマ変換技術に強いと聞いています」 アレックスは慎重に言葉を選んだ。
「ならば、私たちから彼らに交渉してみます」 リリィが頷く。 「日本の企業には顔が利きますので」
こうして、核融合計画の第一歩が動き出した。
・・・・・
◆開発拠点の選定と未来への布石
アメリカ西海岸、フュージョンライト社の会議室。夕陽が窓から差し込む中、リリィたちとCEOアレックス・コールマンが向き合っていた。
「建設場所はアメリカが最適だと思います」
ホワイトボードの前で、ジャックが指し示す。
「企業がすでにこちらに存在し、広大な敷地の確保、法的整備、物流も含めて、現実的な選択です」
アレックスも頷いた。
「確かに、アメリカなら政府との協調も含めて動きやすい。ただ、政治的な後ろ盾と国際支援が不可欠です」
「それなら、私たちが用意します」
リリィはまっすぐに答えた。
・・・
◆ニューヨーク研究所での次なる会議
数日後、リリィたちは拠点であるニューヨーク研究所に戻り、核融合発電プラントの設計案を精緻に詰めていた。
「核融合の要となるのは、レーザー収束技術とプラズマの安定制御だ」
ジャックが指を鳴らしてホログラムを浮かび上がらせる。
「実現できれば、化石燃料は過去のものになる。だが逆に、これが成功すればエネルギー輸出国の経済基盤が崩れる。敵は、国家規模になる」
コモンがうなずく。
「つまり、我々は既存の産油国の利権構造そのものに、挑むことになるわけだ」
リリィが静かに腕を組む。
「ならば、国際警察の展開と並行して、開発は秘密裏に進めましょう。安全と進捗、どちらも譲れない」
・・・
◆四菱重工との技術連携会談
日本、東京・芝浦の本社ビル。
四菱重工の会議室に通されたリリィとジャックは、プロジェクトリーダー・伊藤雅史と対面した。
「お越しいただき、ありがとうございます」
白髪混じりの伊藤は、しっかりとした握手で迎える。
「今回は、御社のプラズマ制御技術が必要不可欠です」
リリィが静かに語り、ジャックが続ける。
「核融合炉の出力を安定化させるには、プラズマの閉じ込めが鍵です。御社の技術なら、それが可能になる」
伊藤は資料を見ながら静かにうなずいた。
「理解しました。では、ひとつ聞かせてください。既得権益層の反発にどう対処するおつもりですか?」
リリィは迷わず答えた。
「既に国際警察と協力して、外的な妨害工作を阻止する体制を整えています」
伊藤の顔にわずかに笑みが浮かぶ。
「我が社もこのプロジェクトに加わりましょう」




