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第34話 スンダ海峡津波の予知と対策準備 2018.10

ニューヨーク・拠点内会議室。

モニターにはスンダ海峡の地形図が映し出されていた。

リリィたち『虹色の風』のメンバーが、再び迫りくる災害に向けた作戦会議を始めていた。


「マーガレットが予知したインドネシアのスンダ海峡の津波の対策を考えましょう」

リリィが視線を落としながら口を開く。


「津波に関しては、前回と同様にダンジョンコアによる防波堤で対策できる実績があるから、大丈夫じゃないかな」

ジャックが頷きつつ図面を指差した。


「そうね。でも、原因となっている火山の噴火と山体崩壊を抑える方法を考えられないかしら? もし根本の原因を取り除ければ、津波自体が発生しないし」

リリィの言葉に、場が静まる。


「火山の噴火と山体崩壊の場所をできる限り正確に予測して、複数のダンジョンコアで大きく山を囲むように固めれば、ある程度制御できるかもしれない。2カ月半あるから、ダンジョンを大きくする時間はあるはずだ。ただし、膨大な魔石が必要になるな」

コモンが冷静に言った。


「ダンジョンで溶岩を封じ込められるのか?」

ジャックが首を傾げる。


「ダンジョンコアの設定には『火山』という項目がある。溶岩の熱には耐えられるだろう。しかし、噴火の爆発には・・・どうかな」

コモンの声が慎重になる。


「爆発しないように、徐々に溶岩の圧力を抜くような工夫が必要だな」

ギルスがアイデアを出す。


「それは、やってみなくては分からないな。安全マージンを十分に取れば大丈夫だろう」

コモンが同意する。


「山体崩壊は山の一部をダンジョンで侵食するように固めるのがいいかしら」

リリィが図面の山の断面図に指を置く。


「そうだな。防波堤のように抑えるよりも、崩壊箇所をダンジョンに取り込んでしまえば、崩れる前に固定できる」

ジャックが深く頷いた。


「その案に賛成だわ」

リリィも頷く。


「ちょっと気になったんだけどいいかな」

マモルが手を挙げる。


「マモル、いいわよ。思いついたことを言ってみて」

リリィが優しく微笑む。


「火山の噴火と山体崩壊って、いつも同時に起こることじゃないよね。普通は火山の噴火だけな気がする」

マモルの言葉に、一同が静まり返る。


「確かにそうね。津波が発生するほど山が崩れるって、普通じゃないわ」

リリィが頷いた。


「多分、火山は見た目の大きさじゃない気がする。海の中の方まで含めての山じゃないかな。海から突き出た島の大きさに騙されないようにしないといけない気がする」

マモルの言葉に、ギルスが補足する。


「海の水がない状態で見ると、アナク・クラカタウ火山の本当の大きさは島の10倍になるな。下部に広がるマグマだまりが想定より大きいかもしれない」


「しかも、マグマは他の火山と繋がっているかもしれない。ここに他所の溶岩が流れてくるかもしれない」

マモルが重ねるように言った。


「なんてことだ。ダンジョンコアの数が足りないぞ」

コモンが頭を抱える。


「僕たちは前回のインドネシアの地震のときに津波対策に成功した。だから、今回は、油断が生まれていると思う」

マモルが静かに言った。


「そうね。その通りね。油断していたわ。コモン、ダンジョンコアが足りなければ、勇者ギルド星で補充してきてね。ギリギリではダメよ。余裕がないとダメ」

リリィが命じる。


「了解した。ダンジョンコアを追加で購入しておくよ。ダンジョンの容積の合計が火山の容積を上回るまで、侵食しないようにコントロールする」

コモンが頷いた。


「溶岩が海水に触れると、水蒸気爆発が起きる可能性もある。ダンジョンが破壊されないように、島の上にも結界を準備した方がいいと思う」

ギルスが言葉を継ぐ。


「なるほど、それも安全マージンになるわね。準備しておきましょう」

リリィが静かに答えた。


こうして作戦案はまとまり、インドネシア政府との交渉に向けて準備が進められることとなった。


リリィはスマホを取り出すと、友人に連絡するような口調で番号を押し、スジャナ内閣官房に連絡を取った。


・・・・・・・・・

ジャカルタ・大統領官邸。

数日後、リリィたちは再びインドネシア政府と対面した。


「リリィさん、また我が国で津波災害が発生すると連絡をもらいましたが、詳しく説明してもらえますか」

スジャナ内閣官房が真剣な顔で口を開く。


「約2カ月後、12月22日、スマトラ島とジャワ島の間にあるスンダ海峡で津波が発生すると予知されました」

リリィが静かに告げた。

「今回は地震ではなく、海峡にあるアナク・クラカタウ火山が噴火し、山体が崩壊。大量の土砂が海中に流れ込み、それが原因で津波が起きると予知されています」


「なんと、火山の噴火と山体崩壊が原因ですか。また、あなた方のお力をお借りできるのでしょうか」

スジャナ内閣官房が驚いたように問う。


「津波に関しては前回と同様、ダンジョン技術で迅速に設置可能です。津波が収まった後は元の状態に戻すこともできます」

ジャックが補足する。


「さらに今回は、火山の噴火と山体崩壊を防ぐため、火山全体の圧力を抜き、地盤を補強する対策も行います」

リリィが続ける。


「火山の噴火を抑えるなどできるのでしょうか。魔法の力でも難しいのでは?」

スジャナが問い返す。


「私たちにとっても初の試みです。だからこそ、津波対策も同時に行い、万全を期します」

リリィはまっすぐに答えた。


「なるほど、防災技術の進歩を目指して、火山の噴火と山体崩壊をくい止めるのですね」

スジャナが感心する。


「その通りです」

リリィが頷く。


「今回も、成功すると信じています」

ジャヤ大統領が落ち着いた口調で言った。


「ありがとうございます。準備が整い次第、現地調査を開始します」

リリィが頭を下げる。


「それでは、防災チームと技術者を交えた実務会議を設定し、地元住民への説明会もお願いしたい」

スジャナが締めくくった。


「もちろんです。地元の方々にご理解いただけるよう、丁寧に説明します」

リリィが力強く答えた。


・・・・・・・・・


スマトラ島・ジャワ島沿岸。

リリィたちは再び、現地住民との対話に臨んだ。


「私たちは、あなたたちの安全を守るために来ました。津波と火山噴火の被害を最小限にするため、防波堤を建設します」

リリィの言葉に、ざわついていた住民たちが耳を傾ける。


「今年9月のスラウェシ島地震では、津波対策として同様の技術を用い、大きな効果がありました。今回もそれと同じ方式です」

ジャックが実例を示す。


「私たちの家や土地には影響はないのですか? 突然、溶岩が飛んできたりしたら怖いです」

若い女性が手を挙げて尋ねた。


「大丈夫です。火山の対策も同時に行います。溶岩の流れも含めて、制御する準備をしています」

リリィが優しく答える。


住民たちの顔に、徐々に安堵の表情が広がっていった。


「火山爆発や地震のときの避難ルート、家庭でできる防災策についても周知させていただきます」

スジャナ内閣官房が補足した。


インドネシア政府との交渉が成立し、リリィたちはスマトラ島とジャワ島の間にあるスンダ海峡、そしてその中心に位置するアナク・クラカタウ火山の現地視察を開始した。

政府の防災チームと技術者たちが同行し、津波被害が懸念される沿岸部や火山島そのものを調査するため、移動が続いた。


「まずは、火山の状態を正確に把握することが重要だな」

ジャックが火山の裾野を見渡しながら呟く。


「うむ。ダンジョン技術を応用して、火山の構造をスキャンしよう」

コモンが胸元の装置を操作し、見えないタッチパネルを素早くなぞった。


次の瞬間、彼らの前の空間が立体的に変化し、火山内部が透けて見えるようなホログラムが展開された。

地下の断層やマグマだまり、圧力のかかった火道までが赤く浮かび上がる。


「このエリアはマグマが多いわね。ここを補強しなければ、マグマが吹き出るわ」

リリィがホログラムの山腹を指差す。


「驚いた。こんなに正確に火山内部が可視化できるとは。現在の科学技術では到底不可能だろう」

スジャナ内閣官房が目を見張って呟いた。


「これを基に、山体を強化するようにダンジョンコアを設置する計画を立てます」

ジャックが図面を開いて確認する。


◆山体強化の開始

作業はすぐに開始された。リリィたちは山体崩壊が懸念されるエリアに、ダンジョンコアを埋めてダンジョンを展開することを決定した。


「この地域にダンジョンコアを設置して、山を侵食するようにダンジョン化して、ゆっくりと溶岩をダンジョン内に取り込んでいこう」

コモンの声が冷静に響いた。


「それじゃ、全員で順番にダンジョンコアを設置していくわよ」

リリィの声に、メンバーたちは頷いた。


「転移魔法を使えば、広範囲に短時間で展開できるな」

ガルドが背中の転移装置を整える。


ダンジョンコアをゴツゴツした黒い溶岩石の上に設置すると、コモンが再びタッチパネルを操作。

するとコアがゆっくりと地面に吸い込まれ、目には見えない変化が火山内部に広がっていった。


マジックバッグから取り出されたAIゴーレムたちが、山全体に配置され、コモンがVRゴーグル越しにそれらを統括した。

それぞれのゴーレムは、正確に指定された場所へとコアを配置していく。


◆防波堤の建設


続いて、津波対策としての防波堤の建設も並行して進められた。


「今回の防波堤も、津波が発生した際にのみ出現する方式にする。通常は視認できないが、津波が押し寄せた瞬間にダンジョンコアが作動して展開される仕組みだ」

コモンが説明する。


「これなら、現地住民の生活環境を損なうことなく、最大限の防災効果を得られるな」

ジャックも頷いた。


「設置するダンジョンコアの数と配置を決めましょう」

リリィが作業手順を確認する。


「スマトラ島とジャワ島間のスンダ海峡沿岸をすべて対策対象にする。防波堤の高さは最大20メートル、幅3メートル。津波のエネルギーを分散させるため、迷路のような構造を組み込む」

コモンが数字を読み上げる。


「では、防波堤の展開を開始するわ!」

リリィの合図で作業が一斉に始まった。


海岸線沿いに埋め込まれたダンジョンコアが作動し、数十秒後には波打ち際に沿って巨大な防波堤が出現した。複雑な迷路状の構造が海と陸の間に立ちはだかる。


「これで、津波が発生した瞬間に防波堤が展開し、衝撃を吸収できる。津波が収まった後は、消去して元の景観に戻せる」

コモンが確認するように言った。


「前回も見たが、まったく凄い技術だ」

ジャヤ大統領が感嘆の声を上げた。


「これで、インドネシアの人々が少しでも安心して暮らせるようになれば、私たちの目的は果たせるわ」

リリィの視線は、静かに海の彼方へと向けられていた。


・・・・・・・・・


翌朝。

拠点のテラスで朝の風に当たっていたリリィのもとへ、マーガレットが泣きながら駆け寄ってきた。


「リーダー、大変ニャ。未来の私からのメッセージで、火山島が大爆発して、島がなくなったって。大津波も発生して、そのうえ、火砕流が他の島に被害を与えたというニャ」

マーガレットはそのままリリィの胸に飛び込んできた。


「メッセージが輻輳していて、ゴチャゴチャなところがあるニャ。でも、発生するのは1週間後なのニャ」


「ええっ、なんてことなの。どういうことかしら・・?」

リリィは固まったように空を見上げ、呟いた。

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