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第28話 インドネシアのスラウェシ島地震 その1 2018.8

朝の光が差し込む熱海拠点。朝食を終えたリリィたちは、リビングに集まっていた。


「昨日の続きをするわよ。マーガレットが未来の自分から大災害の情報を得たところからね」

リリィが資料を開きながら口を開いた。


「2カ月先の未来の私からメッセージが来たニャ。インドネシアのスラウェシ島でマグニチュード7.5の地震が起きるニャ。津波が発生して、液状化による大規模な泥流が起きるニャ。死者や行方不明者は5000人に達し、家屋の被害は1万棟、避難民は約20万人にのぼるニャ」

マーガレットはスマートフォンを操作しながら、予知の内容を読み上げた。


「今回の情報が詳しいのは、マモル発案のメモ帳テクニックのおかげね。マーガレット、すごいわ」

リリィが穏やかに頷く。


「地震災害は規模が大きすぎて、異世界でも予知があっても防げなかった。せいぜい、被災者を事前に避難させるくらいだ」

ジャックが資料に目を落としながら言った。


「でも、インドネシアとは外交ルートがない。突然『地震が起きるから逃げて』と言っても、信じてもらえないわ」

リリィが地図を指しながら言葉を続ける。

「今回は、被害そのものを減らす方に集中した方がいいかもしれないわ。まず、津波対策から考えましょう」


「津波の海水を転移魔法陣でダンジョンに送るのは無理があるな。量が多すぎる」

ガルドが首を振りながら言った。


「そうだな。豪雨の河川でさえギリギリだった。津波は水量も流速も桁違いだ」

コモンも同意するように声を重ねた。


「結界で海岸線全体を防ぐのも現実的ではないわね。島の半分を囲むなんて魔力がいくらあっても足りないわ」

リリィが神妙な顔で言う。


 


その時、マモルが遠慮がちに手を上げた。

「ひとつ、聞いてもいいですか」


「ええ、どうぞ」

リリィが微笑みながら答える。


「ダンジョンコアって何ですか? 富士樹海の洞窟に作ったって言ってましたけど」


「なるほど、そうね。それじゃあ、実際に見に行ってみましょう。富士樹海ダンジョンへ案内するわ」

リリィが立ち上がり、転移陣の準備を始めた。


数分後、拠点地下のガレージに設置された転移陣が光を放ち、メンバーたちはダンジョン内部へと転移していった。


・・・・・・


「ここが富士樹海ダンジョンだ。内部は洞窟状になっているが、ここ以外の空間はほとんど水で満たされている。雨水貯留用に作ったダンジョンで、日々拡張される設定になっている。いまの広さは熱海市の10分の1ぐらいだな」

コモンが足元の水辺を指しながら説明する。


「洞窟の壁が見えないくらい広いわね。天井は岩肌のまま、ちょっと殺風景ね。光源は天井の光ゴケ?」

リリィが周囲を見渡しながら言った。


「今はそうだが、設定を変えれば擬似的な空も作れる。見た目だけの機能だがな」

そう言って、コモンが手を空中に動かす。見えない操作パネルを使ってコマンドを入力すると、岩肌の天井が消え、代わりに青空と白い雲が広がっていく。まるで現実の空のように、雲がゆっくりと動いていた。


「すごいですね……まるで世界を創ってるみたいです」

マモルが感嘆の声を上げた。


「今回は準備期間は2カ月。スラウェシ島の海岸線と同規模のダンジョンを作るには、間に合いそうか?」

ジャックが真剣な表情でコモンに問う。


「島の半分くらいなら、面積的には可能だ。ただし、魔石の消費が激しすぎる。供給が追いつかないかもしれん」


「そうか。魔石の問題もあるな」

ジャックがメモに書き込む。


「ここは洞窟内だけど、外にダンジョンを作ることはできるんですか?」

マモルが続けて尋ねる。


「もちろんできる。屋外なら空や壁を作る必要がないから、消費する魔石の量も抑えられる」

コモンが頷く。


「ダンジョンっていえば、僕のイメージでは迷路なんですけど、そういうのも作れるんですか?」

マモルがスマホを取り出し、海岸のテトラポットと防波堤の写真を見せた。


「作れるぞ。基本設定に含まれている。ただし、迷路の設計図を作るのも、それを再現するのも、かなり手間はかかるな」


「波を防ぐ防波堤に応用できたらと思って、確認でした」

マモルが謙虚に答えた。


「なるほど。ちょっと試してみよう。富士樹海の地上に出て、実験してみるか」

コモンが魔法陣を展開し、外へ出る準備を始める。


「マモル、何か考えがあるの?」

リリィが振り返って尋ねる。


「いえ、大それた考えってほどじゃありません。あくまで、確認です」

そう言って、マモルは転移陣に足を踏み入れた。


メンバー全員が続いて外へ出る。そこには、緑濃い森が広がり、湿った空気と土の匂いが漂っていた。

富士樹海の地上。霧が漂う森の中、木々の隙間から陽が差し込み、土の匂いが漂っていた。

コモンは真剣な表情で地面に立ち、手元のマジックバッグからバスケットボールほどの黒い球体を取り出した。


「それでは、ここに防波堤のダンジョンを作ってみよう」

そう言って、彼は空中に手を動かす。見えないタッチパネルを操作していく。


次の瞬間、景色が一変した。森の地面に沿って、10メートル四方の巨大な防波堤が出現した。ごつごつとした質感を持つその壁は、重厚で現実味のある存在感を放っていた。


マモルは思わず近づき、その表面に手を触れた。

「すごいですね。一瞬で出来上がった。触れるし、幻じゃないんですね」


「幻も作れるが、これは本物だ。樹海の岩を素材にして生成した。実際のコンクリートとは材質が違うだろうけどな」


コモンが頷きながら答える。

「迷路も出せますか?」


「やってみよう」

再びタッチパネルを操作すると、防波堤の手前に、高さ10メートル、厚さ50センチほどの壁が連続して立ち並んだ。入り組んだ形状の迷路が出現する。


マモルはスマホの画面を開いて、コモンに見せた。

「これ、日本の海岸線にある防波堤なんですけど、高さ20メートル、幅3メートルぐらいの壁を並べて、迷路のような構造で波をせき止められないかなって」


「なるほど、考えていることが分かってきた」

コモンは納得したようにうなずき、さらに操作を続けた。


新たに出現したのは、高さ20メートル、幅3メートルの連続した壁。それらが横に長く並び、防波堤らしいシルエットを描いていく。

「こんなもんかな」


 


ジャックが腕を組みながらつぶやいた。

「これを地震が発生する島の海岸線全体に、2カ月で作れるか、ってことか」


「魔石はかなり使うが、2カ月あればなんとかなるだろう」

コモンが自信を込めて答えた。


 


「ここには必要ないから、消しておこう」

彼がもう一度操作すると、防波堤も迷路も一瞬で霧のように消えていった。森の静寂が戻る。


「ものすごく便利ですね。地面も樹木も、何も壊れていません」

マモルが周囲を見渡しながら驚いたように言った。


「ダンジョンコアで作ったものは、実体があるが、そこにあったものは一時的に別空間に保存される。だから元に戻せる。ただし、生き物は保存できない」

ジャックが補足する。


「マジックバッグの拡張版みたいな機能ですね」

マモルがうなずきながらつぶやく。


「そのとおりだ。けど、維持には魔石が必要だ。だから、必要なくなったらすぐ消す方がいい」

コモンが説明を続ける。


「つまり、2カ月かけて、島の海岸線にこの防波堤を作る。ただし、それはダンジョン空間内の構造物だから、普段は見えない。津波が来たときだけ出現させて、終わったらまた消す……ってことですよね?」

マモルが確認するように言った。


「まあ、そういうことだな」

コモンが頷いた。


「ただし、現地の政府が防波堤をそのまま残してくれと言ってくるかもしれん。その場合は、魔石の維持費を設備費として受け取る必要があるな」

ジャックが現実的な補足を加える。


「さて、次は液状化による泥流の対策ね」

リリィが声を上げ、空気を引き締める。


「地震で地面が液体のようになる現象だな。あれは確かに厄介だ」

ジャックが頷く。


「地表だけを事前にダンジョン化しておいて、地震の揺れを検知した瞬間に、地面を岩盤に変化させる。そうすれば液状化は防げるかもしれない」


「なるほど。島全体の地盤を強化するなら、ダンジョンコアが20個は必要になるな。だが、在庫は確保してある。問題はない」

コモンが小さく笑った。


「明日、国連のアンサ事務総長に連絡を取って、インドネシア政府との会合を設定しましょう」

リリィが決意をこめて言った。


「今度はインドネシアかニャ~。何が美味しいかニャ~」

マーガレットが嬉しそうに首をかしげた。


「毎度のことだけど、観光じゃないからね」

リリィが苦笑しながらツッコミを入れた。

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