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第2話 金塊で商取引       2018.4

リリィは旅の資金を得ます。

「ところで、二人はどんな情報をつかんだの? 美味しいところは見つかった?」


 リリィが、猫耳の少女マーガレットと、筋骨隆々の大男ガルドに問いかけた。


「私は、馬の無い馬車に引かれそうでしたニャ」

 猫耳を揺らしながらマーガレットが呟く。


「俺はその馬の無い馬車に勝ったぞ」

 ガルドは誇らしげに腕を組む。どうやら車を力づくで止めたらしい。


「ふ~ん、貴重な体験ね。とりあえず、この土地の領主に挨拶でもしておきましょう」


 リリィは軽く言った。

「マモルさん、領主のところまで案内してくれる?」


「領主、ですか。……都知事のことかな。でも、いきなり都庁に行っても、簡単に会えるわけじゃないですよ」


「ふむ、都知事は難しいのね。では、大きな商会でも構わないわ。まずはこの土地の貨幣を手に入れないと、美味しいものが食べられないもの。この金塊を売って、日本のお金に替えましょう。商人に顔を売るのは、旅人の基本よ」


 そう言ってリリィはバッグから金塊を取り出した。


「うわっ、重っ……!」

 受け取ろうとしたマモルは、その重量に手を滑らせ、ドン、と低い音を立てて地面に落とした。


「こんなの初めて見ました。本物の金塊? 商会っていっても、このあたりなら『菱紅商事』が有名です」


 マモルは気後れしつつも、リリィたちを東京の高層ビル街にある菱紅商事へと案内した。


 東京の中心地を、異世界から来た一行とともに歩く。


「ふむ。この四角くて高い建物……お城より大きいのが並んでるわ。なかなかの文明ね」


「まあ、ある意味“現代のお城”かもしれませんね」


 リリィは興味津々にビルを見上げ、マーガレットはガラスに映った自分の猫耳に首を傾げている。ガルドはトラックや飛行機を目で追いかけていた。


 菱紅商事のロビーに到着し、マモルは受付へ向かう。


「す、すみません。この人たち……金塊を売りたいそうで。担当の方と話したいらしいです」


 受付嬢は驚きの表情で「金塊?」と固まりかけたが、リリィがバッグから金塊を取り出し、床に“ゴン”と置いた。


 その黄金の輝きに、受付だけでなく周囲の人々も目を奪われる。


「な、なんですかこれ!?」


「担当をお呼びしますので、少々お待ちください!」


 リリィはさらに金塊を追加で取り出し、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。


 床に並んだ5つの金塊の前で、人々は静かなパニック状態に陥っていた。


「ねぇ、リリィさん。その小さなバッグに、どうやってそんなに……?」


 マモルが小声で聞くと、リリィはにこっと微笑んで答えた。

「内側がちょっと広いの。マジックバッグよ」


 やがて渉外部長という人物が現れ、一行は応接室に通された。


 三田部長と名乗ったその人物は名刺を配り、金塊の鑑定を進めた。


「これは…高純度の金です。うちでも初めて見るサイズですね。一つ10kg、価格は1億円ほど。合計で約5億本物です」


 検査担当者が興奮を抑えきれない中、三田部長が尋ねた。


「差し支えなければ、どうやって手に入れたのか教えていただけますか?」


「ある国の王族からの褒美よ。金山をもらって、鉱石を魔法で精錬したの」


「“ある国”とは?」


「異世界。信じられないと思うけれど、私たちは“異世界人”なの」


 そう言ってリリィがガルドに合図を送ると、ガルドはバッグから1メートル四方の岩を取り出し、両手をかざして魔法陣を展開。岩が溶けるように変化し、まばゆい金塊が現れた。


「これは」


「こういう魔法が使えるの。これも買い取ってちょうだい」


 リリィはにっこり微笑んで金塊を指した。


「今後も定期的に金塊をお持ちするから、日本のお金と交換してほしいの」


 異世界人というのはにわかに信じがたいが、三田部長は「マジシャン」として処理し、すぐに口座、キャッシュカード、スマホの手配を開始。


「生活に不自由がないよう、銀行口座や端末をご用意しました。税制上も有利なので、法人化をおすすめします」


「税率はどのくらいなの?」


「個人事業では45%、法人化すれば23.2%です」


「45%!? よくこの国の人間は我慢してるわね……革命ものよ。できるだけ税金が安くなるようお願いするわ」


「会計担当を召喚しないとね……」


 こうして日本の大企業との取引がスタートした。利益とリスクを見極めた三田部長は、最大限の支援を決定。


「それから、この地の“領主”、都知事に挨拶したいのだけど」


「はい、弊社からルートを探ってみます」


 法人設立に関する聞き取りが終わると、提携ホテルのスイートルームが用意された。


「お金も入ったし、美味しいものを取り寄せましょう」


 ホテルのコンシェルジュがコース料理の説明をするが、リリィは笑顔で言った。

「全部おまかせで、お願いね」


 マモルが帰ろうとすると、リリィが呼び止めた。


「待って、マモルさん。いつも助かってるわ。感謝のしるしに、これからも手伝ってほしいの。日給3万円でどう?」


「3万円!? すごい! 僕でよければ、ぜひ!」


 こうしてマモルは正式に“異世界人サポート”の仕事を得ることになった。


 その夜、一人暮らしのアパートに戻ったマモルは、SNSや動画サイトで「公園で歌う美女」「車を投げる大男」の映像が再生数10万超えで話題になっているのを見ていた。


 リリィの穏やかな歌声。優しげな笑顔。


(日当3万円、話がうますぎるよな。でも )


「まあ、明日も頑張るしかないか。日当3万円だし」


 マモルはそう呟いて、布団に潜り込んだ。


・・・


 その夜、菱紅商社では・・・


 三田部長が社長室で6つの金塊を前に、額に汗をかきながら熱弁していた。


「間違いなく金です! 相手がマジシャンでも、莫大な利益が見込めます! ホテルには系列を手配済みで、今後も監視体制を整えます!」


「本当に大丈夫か? 急にこんな量の金塊……マスコミ対応はごめんだぞ」


「全責任は私が取ります」


 三田部長は“リスクのないところに商機はない”を信条に、異世界の商談を前向きに進める覚悟を決めていた。


「あはははは!」


 金塊を乗せたワゴンを押しながら、警備員を従えて社長室を出る三田部長は、満面の笑みを浮かべていた。


「早く金庫にしまわなきゃ」


 その姿は、まるで“金運の神様”にでも会ったかのようだった。



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