第27話 マーガレットの予知能力 2018.8
熱海の拠点のリビング。マモルはノートとペンを片手に、ソファでうつむき加減に考えていた。やがて意を決したように顔を上げ、部屋の端でストレッチしていたマーガレットに声をかけた。
「マーガレットさん、ちょっと聞いていいですか?」
「何ニャ?」マーガレットは猫耳をぴこっと動かしながら振り向いた。
「マーガレットさんの予知って、未来の自分からのメッセージが伝わってくるんですか?」
「そうニャ。未来の私から、勝手に映像が届く仕組みニャ」
「こちらから何か質問を送ったりはできるんですか?」
「それは無理ニャ。こちらの質問は、未来の自分には伝えられないニャ。こっちが何を考えていたかは、未来の私が自分で思い出すしかないニャ」
「なるほど、じゃあ、未来の自分は、どんなことを伝えてくるんですか?」
「過去の私にとって“大事だ”と思ったことを選んで伝えてくるニャ。タイミングはまちまちニャけど、急ぐ内容なら強く伝わってくるニャ」
マモルは腕を組んでしばし考え込み、思いついたように言った。
「じゃあ、例えば、『明日起こる災害を必ず伝えて欲しい』ってときは、どうしますか?」
「明日の今ごろに、メモを見るって決めて、そのメモに『災害が起こっていたら、過去の自分に伝えて』って書いておくニャ。」
「それで伝わるんですね?」
「未来の私が忘れてなければ、ちゃんと届くニャ」
「なるほど。例えば、スマホの予定表に『今日の災害情報を明日に送る』って登録しておいて、それに必ず従うようにすれば、未来から受け取れる確率が上がりそうですね」
「やったことないけど、多分、それで大丈夫ニャ。仕組みとしては合ってるニャ」
「じゃあ、試しに、今日から世界中で発生する災害を、前日の自分に送ってもらえますか?」
マモルがまっすぐに尋ねると、
マーガレットは少し目を細め、うーんと唸った。
「分かったニャ。でも、未来予知の魔法は結構疲れるニャ。魔力が足りなくなったらごめんニャ」
「それなら、できるだけ疲れないように工夫してみてください。映像ではなく、短いワードで伝えるとか、要点だけ絞るとか」
「ふニャ~、リーダー、マモルが変なことを言い出したニャ~」
その声を聞いたリリィが微笑みながら言った。
「マーガレット、お願い。私からも頼むわ」
「リーダーはマモルの味方ニャ~。分かったニャ」
しぶしぶながらも、マーガレットはスマホを取り出し、予定表の明日の朝9時の個所に『世界の災害を確認する』と入力していく。試しに、今日すでに発生している世界各地の災害をインターネットで調べ、それもあわせて記録して練習した。
そして、1時間ほど後のこと。
「マモル、未来の私からメッセージが届いたニャ。」
マーガレットはスマホを見つめながら続けた。
「明日は、大きな災害はないニャ。安心していいニャ。」
「ありがとうございます、マーガレットさん!」
マモルはほっとしたように微笑んだ。
だが、マーガレットはふいに真顔になり、目を細める。
「でも、2カ月先の未来の私から、別のメッセージが届いたニャ。」
リリィを含む全員が動きを止め、マーガレットの言葉に耳を傾ける。
「インドネシアのスラウェシ島で、マグニチュード7.5の大地震が起きるニャ。地震によって津波が発生して、液状化現象による大規模な泥流が起きるニャ。被害は、5000人が死亡または行方不明、家屋被害は1万棟、避難民は約20万人に達する見込みニャ」
「なんですって!」
リリィの声が鋭く空気を切った。
部屋が一瞬で緊張に包まれる。
ジャックが資料に記録をつけながら静かに言う。
「マーガレットの未来予知。ついに2カ月先の災害をそんなに正確に捉えられるようになったか。これは、大きな進展だな」
「これから、毎日2カ月間、世界中の災害確認作業を続けた成果かもしれないニャ。それから映像ではなく文字で伝えるように工夫したのが良かったと思うニャ。それから私の補助脳も役立っているニャ」
マーガレットが小さく笑いながら言った。
「そして、重大な内容は、1日前よりもっともっと前に伝えたいという気持ちが、私の中で強く働いたんだと思うニャ」
リリィは深く頷いた。
「ありがとう、マーガレット。あなたのおかげで、私たちは前もって対策を練る時間ができるわ」
マモルも真剣な顔で言った。
「この情報、必ず役立てましょう。命を救えるなら、どんな手段でも使いたいです」
拠点の空気が少しずつ落ち着きを取り戻しながらも、その場にいた全員は、マーガレットの予知が新たな段階へと進化したことを確かに実感していた。
そして、リリィたち『虹色の風』は、未来からの声を頼りに、次の災害に備えて動き出すのであった。




