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第26話  西日本豪雨災害   2018.8

ニュースが告げる悲劇

静まり返ったニューヨーク研究所のリビングに、テレビの音声が静かに響いていた。モニターの中では、日本の気象庁が会見を行っており、厳しい表情の官僚がマイクに向かって語っていた。


「西日本を中心に、記録的な大雨が続いています。前線の停滞と台風第7号の影響により、1府10県に特別警報が発令されました。今後も雨量は増える見込みで、土砂災害、浸水、河川の氾濫に最大限の警戒が必要です。」


その映像を見つめながら、リリィは硬い表情でつぶやいた。

「日本の西の方で、雨がすごいらしいわね。」


マーガレットが静かに答える。

「未来の私からのメッセージニャ。死者や行方不明者が300人近く、住居被害も多数出る見込みニャ。」


ジャックはタブレットを操作しながら、画面を指でなぞった。

「ニュース報道のデータでも一致してる。特に岡山県、広島県、愛媛県が深刻だ。避難指示が追いついていないエリアもある。」


リリィはすぐに決断した。

「行きましょう。日本に。私たちにできる限りのことをするわ。被害を少しでも減らすために。」


◆岡山へ向かう『虹色の風』

転移陣が起動し、リリィ、ジャック、ガルド、マーガレット、コモンの五人が姿を消す。次の瞬間には、岡山県倉敷市郊外の上空に現れていた。


眼下には、茶色く濁った濁流が暴れ川のように渦巻いていた。堤防をかすめながら、今にもあふれそうな水面。雨は絶え間なく降り続き、視界もにじむ。


「河川の水を貯めておける場所が必要ね。」

リリィが即座に判断する。


「富士山の樹海地下には自然洞窟が多い。ダンジョンコアを設置すれば、大規模な貯水ダンジョンが作れるはずだ。」

コモンが真剣な表情で言い、ガルドと共にすぐ転移していった。


「俺たちは、大河川に沿ってコンテナゴーレムを配置する。溢れそうな水をダンジョンに転送できるように魔法陣を展開するぞ。」

ジャックが指示し、リリィが頷く。

「作戦は二段階。洪水を抑えるのが第一。次に、被災者の救出。手分けして行動を開始して!」


ゴーレムたちの無言の働き

コンテナゴーレムたちは、濁流の近くに配置され、入り口に張られた網で水中のゴミをろ過しながら、激しい雨水を吸収していく。内部が満杯になると、魔法陣によってまとめて富士樹海地下のダンジョンへと転送された。


その作業が無人で、黙々と進んでいることに驚く者もいなかった。すべてのゴーレムには認識阻害魔法がかけられており、周囲の人々には見えない存在として処理されていた。


「これなら、あふれる水を少しでも抑えられるニャ!」

マーガレットが微笑む。


新たな危機、土砂災害の発生

だが、次のニュース速報がテレビで流れた。

「豪雨により、広島県内の山間部で土砂崩れが発生。周囲には住宅もあり、複数名の安否が不明とのことです。」


リリィたちは、即座に現地へ転移した。

到着したのは、雨が激しく打ちつける山裾。既に何軒もの家屋が押し流され、泥と土砂が斜面を滑るように流れていた。


「結界と認識阻害を展開。魔法陣を配置するわよ!」

リリィの声に呼応し、ジャックが地面に魔法陣を刻み、マーガレットが結界を強化。土砂に込められた魔力が、ゴーレムに転化されていく。


50cm程度の小さな土ゴーレムが次々と生まれ、土砂崩れ現場から整然と歩き出す。彼らは河川の堤防へと向かい、まるでレンガのように積み重なって防壁を強化していく。


他のゴーレムたちは、倒壊した家の中へ入り込み、生存者を探すように動き回った。発見された人影は、仮設コンテナに転移され、リリィが回復魔法をかけて命をつないだ。


「今のうちに、三田部長を通じて状況を首相官邸に伝えてちょうだい。」

リリィはスマートフォンを取り出し、現場の映像と魔法の説明を共有した。


協力の輪が広がる

数時間後、菱紅商社の岡山支店から支援物資が届いた。物資の到着を見て、リリィは胸をなでおろす。

「助かった……これで被災者にも手が届くわ。」


行政職員やボランティアたちも到着し、物資の配布や被災者の誘導に当たった。

雨はようやく止みはじめ、薄い光が雲の間から差し込む。


「私たちの活動が、誰かの命をつなぐ一助になっている。そう思えば、疲れも気にならないわ。」

リリィは濡れた髪をかき上げながら言った。


首相官邸での報告

その夜、首相官邸では緊急会合が開かれていた。


「今回の被害がこれほど抑えられたのは、リリィさんたちのおかげです。」

首相が感謝の言葉を述べる。


「魔法の力がここまでの奇跡を生むとは、今後も協力を仰げますか?」

官房長官が真剣な表情で問いかけた。


リリィは落ち着いた口調で答えた。

「もちろんです。でも、これは始まりにすぎません。災害は完全には防げませんが、被害を減らすことはできます。」


・・・・・・

熱海の拠点のミーティングルームに、雨上がりの光が差し込んでいた。

リリィがテーブルに資料を並べ、静かに口を開いた。

「さて、今回の西日本豪雨災害の救助活動について、反省会をしましょう」


ジャックが手元のメモを見ながら話し始める。

「コンテナゴーレムは河川の濁流に流されやすくて、川の中には入れなかったな。結果的に、護岸からあふれる水を吸い上げる配置になってしまった」


リリィが頷きながら言う。

「確かに、濁流の中に入れてしまえば、橋桁にぶつかって橋が壊れる可能性もある。今回は無理に川へ入らせなくて正解だったわね」


コモンが椅子にもたれかかりながら言う。

「もっと早い段階で豪雨災害が予測できていれば、川底にコンテナゴーレムを埋めておくとか、事前準備もできたんだけどな。発生してからでは、あれが限界だったかもしれん」


「日本は木造の家が多いから、瓦礫をゴーレム化して撤去するのは難しいニャ。瓦礫のまま残っちゃったニャ。」マーガレットが小さくため息をついた。


「大きな土ゴーレムで木造家屋の瓦礫を動かすのは危険だな。中に生存者がいたら、押しつぶしてしまうかもしれない。」ガルドが神妙な面持ちで言った。


「土砂崩れって、水じゃなくて、泥が流れてくるんですね。……本当に怖かったです」

マモルの声がわずかに震えていた。


ジャックが続ける。

「泥はゴーレム化できないからな。土砂に家が埋まってしまえば、救助作業はかなり難しくなる」


リリィは全員を見渡しながら、問いかけた。

「じゃあ、土砂崩れによる土石流はどうする? 泥をゴーレム化できないなら、別の手段が必要ね。」


そのとき、壁際に立っていたクロシャが低く言った。

「泥といえば、泥を操る魔物がいたはずだ」


「ああ、マッドゴーレムか。湿地帯や泥でできた身体を持つ、土系の魔物だな。アースエレメンタルの変異種だ」ジャックが思い出したように答える。


「使役できないかな?」クロシャが問う。


「テイム系の魔法を使えば、数匹は飼えるかもしれん。ただ、我々の魔力量では数が限られるな。災害対策には、もっと多く必要になる」コモンが真剣な表情で答えた。


「僕、意見いいですか?」マモルが遠慮がちに口を挟む。


「もちろん。気づいたことがあったら言ってちょうだい」

リリィがやさしく微笑んで促した。


「テイム系の魔法って、魔法陣の紙に転写して一般化できたら、もっと使えるんじゃないでしょうか?」


「それは無理かもな。テイム系魔法の魔法陣一般化なんて聞いたこともない」

ガルドが少し首を傾げながら答える。


「でも、それって、誰もやろうとしなかったからじゃないかな? マッドゴーレムを数匹飼って、いろいろ試してみたら何か発見できるかもしれない」

コモンがじっと天井を見つめたまま言う。


「そうね。研究する価値はありそうだわ。新しい手法が見つかるかもしれない」

リリィがうなずく。


「よし。じゃあ、勇者ギルドに依頼を出して、マッドゴーレムを手に入れよう。テイム系の勇者が使役している例もあるし、飼う場所はダンジョンコアで沼地を作れば問題ない」

コモンが段取りをまとめた。


リリィが頷きつつ、話題を切り替える。

「次は、木造家屋の瓦礫の問題ね」


「マジックバッグで、全部まとめて収納するってのはどうだ?」

ガルドが提案する。


「それは危険だな。犠牲者の遺体まで一緒に収納するリスクがあるし、それに膨大な数のマジックバッグを用意するなんて現実的じゃない」コモンが眉をひそめる。


「その場で片付ける程度なら、使えると思うぞ。救助作業の邪魔になる瓦礫だけ、とりあえず収納しておくなら有効だ」ジャックが現実的な案を出した。


「木の精霊を召喚して、木を操作させればどうかニャ?」

マーガレットが顔を上げる。


「木の精霊を召喚する魔法陣は一般化してるけど、召喚できる数が少ないんだよな。災害クラスの対応には向かない」コモンが腕を組みながら答える。


「精霊系の魔法って、一般化されてるのに召喚自体が難しいってことなんですか?」

マモルが尋ねる。


「そうだ。召喚した精霊に協力をお願いするには、魔力と適性の両方が重要だ」

コモンが説明を加える。


「さっきのマッドゴーレムみたいに、精霊の代わりになるような魔物がいればいいんですね」

マモルが頷く。


「木を操る魔物といえば、トレントだな。ただ、あいつらは長寿なだけで活動的じゃない。味方にしている勇者の話も聞いたことがない」ジャックが口を開いた。


「ウッドゴーレムっていうのもいたな。」

ガルドが思い出すように言うが、


ジャックがすぐに否定する。

「あれは呪い系魔法で生成されるゴーレムだ。制御が難しく、暴走する危険性が高い」


「でも、マッドゴーレムはウッドゴーレムと仲がいいって聞いたことあるニャ。協力を引き出す手がかりになるかもしれないニャ」

マーガレットが小さくつぶやく。


「やることが見えてきたわね。」

リリィが立ち上がり、全員を見渡す。

「それぞれ、今回の反省を活かして準備を始めて。次に備えましょう」


ジャックが補足する。

「今回のような豪雨だけじゃない。地震、津波、火災、その他の災害もある」


「蝗害っていうのもあるニャ。バッタの大群で飢饉が起きるニャ」

マーガレットが補足する。


「いろいろな災害に備えて、対策を整えておく必要があるわね」

リリィが真剣な声で締めくくる。


「災害に備えて行動できる体制、まずは各国の救助体制について調べることから始めましょう」

ジャックの言葉に、全員が静かにうなずいた。


こうして、『虹色の風』のメンバーは、世界規模の救助活動のために、新たな準備に取りかかったのだった。

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