表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/151

第23話 インドへの旅立ちと大富豪との出会い 2018.8 

◆転移とインド支店への到着

 細胞活性装置の2個目がネットオークションで落札された。落札者は、インドの大富豪ラゥージ・シャルマ。広範囲に事業を展開する彼は、慈善活動にも力を入れており、インド国内では知らぬ者のない著名な人物だった。


「今回は私たち五人で向かうわ。細胞活性装置の付与もあるし、慎重に進めましょう。」


 リリィがそう言うと、メンバーたちは静かに頷いた。向かうのはリリィ、ジャック、ガルド、マーガレット、そしてマモル。彼らはニューヨーク研究所の転移陣を通じて、インド・ムンバイにある菱紅商社の支店へと転移した。


転移光が消えると、一行は会議室に到着していた。木目調の机と壁には、インドらしい装飾が施されており、外の喧騒とは対照的に落ち着いた空間が広がっている。


◆現地スタッフとの応対

出迎えたのは、インド支店の責任者ラドイ。白いスーツ姿の彼は、にこやかな笑顔で迎え入れた。


「リリィさん、ようこそインドへ。支店一同、あなた方の到着を心待ちにしておりました。ラゥージ様も準備万端でお待ちです。」


リリィが丁寧に会釈し、メンバーたちも順に挨拶する。ラドイは手際よく紅茶を振る舞いながら、今日のスケジュールを説明した。


「これから車でラゥージ様の邸宅へ向かいます。移動は約一時間。道中、インドの街並みもぜひお楽しみください。」


◆ムンバイの街を行く

一行は支店の黒塗りのSUV三台に分乗し、ムンバイの街を進む。通りは混沌と活気が入り混じり、屋台や露店が所狭しと並び、人々の声が街全体を包んでいた。


「すごい賑やかだなぁ! 日差しもすごい。」

マモルが窓の外を見つめながら言う。


「露天、面白そうだな。あとで寄りたいぞ。」

ガルドが隣でわくわくした表情を浮かべる。


「まずは仕事を終わらせてからよ。その後で、ね。」

リリィが苦笑しながら答える。


◆ラゥージ・シャルマ邸にて

車が広い敷地へ入ると、そこには宮殿のような邸宅が現れた。白い大理石の外壁には、インド特有の精緻な彫刻が施され、庭には噴水やカラフルな花々が整然と並んでいる。


車を降りると、使用人たちが整列して出迎え、玄関前には執事風の人物が立っていた。


「リリィさん、そして冒険者ギルド会社の皆さん、ようこそ。お越しを心より歓迎いたします。ラゥージ様がお待ちです。どうぞご案内いたします。」


邸宅内の最奥、豪華な応接室の扉が開くと、そこに立っていたのは、白いクルタを身にまとい、豪奢なターバンを巻いた堂々たる男性だった。


年のころは七十代。穏やかで知性を感じさせる瞳の持ち主――それが、ラゥージ・シャルマだった。


「リリィさん、そして冒険者ギルド会社の皆さん、ようこそ。お会いできて光栄です。」


リリィが一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。


「ラゥージ様、私たちもお会いできて嬉しく思います。今日は、細胞活性装置をお届けに参りました。」


「おお、それはありがたい。ご足労、感謝いたします。」


ラゥージは大きく頷き、一行を応接室へと案内した。


◆装置の効果と説明

広々とした応接室の中では、すでに医療スタッフたちが控え、準備が整っていた。家族らしき人物たちも心配そうにラゥージを囲んでいた。


ラゥージはこれまで、糖尿病と心疾患に長年悩まされてきた。彼は静かにソファに腰を下ろし、リリィに頷く。


リリィが優しく語りかける。

「こちらが細胞活性装置です。体内の細胞を活性化させ、健康を取り戻し、寿命を延ばす効果があります。最初に少し光と熱を感じるかもしれませんが、ご心配はいりません。」


リリィは装置を取り出し、彼の腹部にそっと当てた。両手から魔力が注ぎ込まれると、装置が青白く発光し、その光がラゥージの全身を包み込む。やがて、光が収まったとき、彼は深く息を吐き、目を見開いた。


「体中が温かい。体が軽くなるのが分かります。胸の痛みも消えていくようだ。体が、若返っていくように感じます。」


そう言いながら、彼は感極まった表情でリリィの手を取った。


「リリィさん、ありがとうございます。これで私は、もっと多くの人々のために働けます。あなた方は本当に素晴らしい。」


リリィは穏やかに微笑んだ。

「この装置で、あなたは健康を百年維持できます。ただし、不死身になったわけではありません。事故に巻き込まれれば命を落とすこともあります。十分ご注意ください。」


リリィは表情を引き締めて続ける。


「細胞活性装置を狙っている勢力がいます。アメリカで装置を受け取った方は、盗賊に襲われないよう、核シェルターで暮らしています。」


ラゥージは驚きの表情を浮かべた。

「私も、核シェルターに籠ったほうがいいでしょうか?」


リリィは彼の手を握り、困ったようにうなずいた。

「脅かすつもりはありませんが、先日、私たちが住んでいる場所に、装置を狙った傭兵が百人以上押し寄せました。ドローン攻撃、毒ガス、火炎放射器まで使われました。」


ラゥージは一瞬沈黙し、やがて口を開いた。

「わかりました。私もシェルターを用意します。それまでは、政府の核シェルターを借りましょう。すぐに大統領に連絡を取ります。」


◆インドの夜と絆


夕食には、ラゥージのもてなしでインドの伝統料理が振る舞われた。香辛料の効いたカレー、焼きたてのナン、スパイスに漬け込まれたタンドリーチキンが食卓に並ぶ。


マーガレットが一口カレーを食べて、耳を伏せた。

「これ、本場のカレー! スパイスの香りがすごいニャ! でも、辛すぎるニャ!」


ガルドは豪快に笑いながらナンを頬張る。

「いや、この辛さがいいんだよ。肉も絶品だ。」


笑い声が響き、ラゥージも満足そうに語る。

「また、いつでもここにいらしてください。皆さんは、もはや私の家族も同然です。」


一行は、ラゥージの了承を得て、邸宅の地下に転移陣を設置。万が一の際にはすぐに救出できるようにした。


「お部屋をご用意しますが、よろしければ泊まっていかれますか?」


ラゥージの申し出に、リリィは微笑みながら頭を下げた。

「ありがとうございます。でも、研究が進んでいますので、私たちは拠点へ戻ります。」


こうして、一行はニューヨークの研究所へと転移して帰還した。


◆三田部長への報告


ニューヨークに戻ったリリィたちは、すぐに三田部長と連絡を取った。

スマートフォンの画面には、疲れの色が見える三田部長の顔が映っている。


「部長、細胞活性装置の二人目への付与が無事に完了しました。インドのラゥージ・シャルマ氏は非常に感謝してくれましたが、装置の存在が広く知られたことで、安全面に懸念を抱いています。」


「やはり、装置を狙う勢力の動きがありますからね。」と三田部長が困った顔で言う。


ジャックが口を挟む。

「ラゥージ氏は、自宅に核シェルターを建設する予定です。それまでは、政府の施設を利用するとのこと。賢明な判断ですが、我々の動きが敵に注目されているのは確かです。」


三田部長は深く頷いた。

「リリィさん、官房長官からも連絡がありました。内閣調査室が、敵勢力に関する新たな情報を入手したとのことです。」


◆官房長官からの情報


三田部長が手元の資料を確認しながら説明する。

「調査室の分析によると、ロシアと中国を中心に、いくつかの国が協力して動いています。彼らの目的は、細胞活性装置の技術を手に入れることです。」


「具体的には、どんな動きが?」

リリィが問いかける。


「ロシアでは、軍直属の特殊部隊があなたたちの行動を監視しています。一方で、中国ではサイバー攻撃部隊が、菱紅商社のサーバーやネットオークションのシステムに侵入を試みています。」


「彼らの技術は確かに高い。でも、こちらも準備を進めています。」


ジャックが冷静に返す。


「官房長官からは、さらに注意を払うよう指示が出ています。」

三田部長の顔には、緊張感がにじんでいた。


◆世界の注目を集める報道


その日の夜。ニューヨーク研究所の応接室にある大型テレビでは、世界各国のニュースが次々と流れていた。


中でも大きな話題になっていたのは、インドの大富豪ラゥージ・シャルマが、細胞活性装置を手に入れたというニュースだった。


画面の中で、ニュースキャスターが興奮気味に語る。


「本日、インドの大富豪ラゥージ氏が、次世代の医療装置と呼ばれる“細胞活性装置”を入手したとの報道が世界を駆け巡っています。この装置は、人の健康寿命を著しく延ばすとされ、価格は約3000億ドルにも達すると言われています。」


テレビには、ラゥージが邸宅で装置のセットを受ける様子が映し出されていた。ただし、リリィたちの姿は巧妙に編集され、映っていなかった。装置の詳細も一切報じられていない。


ニュースを見終えた後、リリィたちは応接室に集まり、静かに意見を交わした。


「装置がこれだけ注目されると、僕たちの行動も、ますます目立ってしまいますね。」

マモルがぽつりとつぶやいた。


「だからこそ、ラゥージ氏のように、安全な場所に避難するのは正しい選択だ。」

ガルドが真剣な口調で言う。


リリィがまっすぐ前を見つめながら語る。

「それでも、私たちはこの装置を通じて資金を集め、国際警察組織を作って、世界に平和を届けるのよ。誰もが平穏に生きられる社会を実現するために。」


「だが、敵は必ず、次の一手を打ってくる。」

ジャックの声は静かだが、重みを持っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ