第22話 シノブの特別プロジェクト 2018.8
◆帰国前の再会
ニューヨーク。シノブは、研修先の五つ星ホテルをあとにしようとしていた。
国際的な接客術を学び、VIP顧客との対応も数多く経験した彼女は、一流のコンシェルジュになるための道を着実に歩んでいた。
しかし、空港へ向かおうとしていたそのとき。
「シノブさん、ちょっとお時間あるかしら?」
振り返ると、そこにいたのはリリィと『虹色の風』の仲間たちだった。思いがけない再会に、シノブは驚きながらも微笑んだ。
「リリィ様、皆さん。どうしてここに?」
「あなたに、とても重要な話があるの。」
◆特別プロジェクトの提案
近くのホテルラウンジに場所を移し、リリィは飲み物を片手に語り始めた。
「実は今、私たちが進めている新しいプロジェクトがあるの。世界に展開する“ボーソン”という名のコンビニチェーンを立ち上げる予定なの。」
「コンビニですか?」
シノブが目を丸くする。
ジャックが補足するように話を続けた。
「ただのコンビニじゃない。AIゴーレムが店員を務めて、最先端の技術を組み込む予定だ。VRを使った遠隔アルバイトシステムも導入するつもりだよ。」
「ゴーレムが店員。それはすごいですね。でも、接客のクオリティはどうなるのでしょう?」
シノブの問いに、マーガレットが耳をぴこぴこさせながら口をはさむ。
「ニャー、そこが問題ニャ。ゴーレムの接客って、ちょっと味気ないニャ!」
リリィは真剣な眼差しでシノブを見つめた。
「だからこそ、あなたの力が必要なの。」
「私の力?」
「ええ、あなたならこの接客システムを改善できるはず。私たちは、ただの店舗じゃなくて、人々の生活を変える“拠点”を作りたいの。」
◆コンビニ・ボーソン構想
静かにうなずいたシノブは、テーブルに肘をつきながら考え込む。そして、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、ゴーレムによる接客は効率的ですが、そこに“温かみ”がなければ、リピーターは増えませんね。」
「その通りだ。」
ジャックが頷く。
「AIをもっと賢く、もっと柔軟に進化させる必要がある。」
「例えば、」
シノブの目が真剣な光を宿す。
「高級ホテルでは、VIP顧客に合わせて接客スタイルを変えるのが基本です。同じように、ゴーレムにも、来店したお客様に合わせた“パーソナライズ対応”をさせるべきです。」
「具体的には?」リリィが興味深そうに問いかけた。
「まず、“基本の礼儀作法”だけでなく、顧客データを学習するシステムを導入すべきです。常連のお客様が来店されたら、過去に購入したお気に入りの商品をさりげなくおすすめする。そうすれば、お客様は“覚えていてくれた”と感じ、心を開きやすくなります。」
「なるほど、それならお客様にも特別感が生まれますね。」
マモルが素直に感心する。
「それに加えて、VIP専用の“特別ゴーレム”を設けるのもいいと思います。高級ホテルのコンシェルジュのように、高度な対応ができる専門ゴーレムがいれば、一般のお客様とVIPの両方に対応できます。」
リリィは満足そうに頷いた。
「素晴らしいわ。まさに私たちが求めていた発想よ。」
◆シノブの決断 新たな挑戦へ
話し合いを終えたあと、リリィは真剣な表情でシノブに向き直った。
「このプロジェクトに、あなたの経験と知恵を貸してほしいの。コンシェルジュとしてだけじゃなく、“人の心を読む技術”を、未来の社会に生かしてほしい。」
シノブは一瞬だけ驚いたが、すぐに穏やかに微笑み、静かにうなずいた。
「分かりました。私にできることがあるなら、ぜひ挑戦させてください!」
その声には、迷いのない決意が込められていた。
「その意気だ。」
ジャックがにこやかに応じる。
リリィも微笑みながら言った。
「じゃあ、決まりね。シノブさん、特別プロジェクト“コンビニ・ボーソン”の接客システム開発責任者として、私たちと一緒に働いてくれる?」
シノブの瞳がわずかに潤む。
「はい! 全力を尽くします!」
こうして、シノブはコンビニボーソン計画の中核メンバーとして正式にプロジェクトへ加わることになった。
◆コンビニボーソン試験店舗、始動
それから一週間後。東京の郊外にある地区にて、コンビニボーソン試験店舗がオープンした。コンビニボーソン試験店舗の準備は菱紅商社が全面的に行った。そして、シノブは現場監督として指揮を執り、開店準備からオペレーションの最終チェックまでを一手に担っていた。
開店初日。人々が興味津々で入店するなか、問題点もいくつか見えてきた。
シノブは店内を歩きながら、スタッフゴーレムの動きをじっと観察していた。
「うーん、接客の質がまだ完璧じゃないわね。」
近くで様子を見ていたマモルが問いかける。
「ゴーレムが無表情すぎるってことですか?」
シノブは首を横に振りながら答える。
「いいえ、逆なの。不自然に人間に似せている“表情”が、かえって不気味に映ってしまうの。表情はなくてもいいの。代わりに、“動作の柔らかさ”で親しみやすさを表現するべきなのよ。」
◆改善案の提案
その日の業務終了後。シノブはリリィ、ジャック、マモルたちとともに、試験店舗内の会議スペースに集まり、改めて提案を口にした。
「改善案は3つあります。」
① ゴーレムの動作に柔らかさを持たせること。
顔の表情を簡略化し、身体の動きにバリエーションを持たせることで、親しみやすい雰囲気を作ります。表情をリアルにしすぎるのは逆効果です。
② VIP専用ゴーレムの開発。
通常よりも高度な会話と応対が可能な“コンシェルジュ・ゴーレム”を用意し、ホテル並みのサービスを提供できるようにします。
③ 人間の店長による指導体制の導入。
全体の接客品質を監督する人間の店長を常駐させ、顧客第一の理念を守ります。あくまで“ゴーレムに任せすぎない”ことが大切です。
マモルが素直に感心する。
「なるほど、それなら、機械的じゃない温かみもちゃんと残せそうですね。」
「素晴らしいアイデアだわ。」
リリィが静かにうなずきながら、真剣なまなざしでシノブを見つめる。
「シノブさん、今後、正式に“コンビニボーソン”の出店責任者になってもらえないかしら?」
シノブは一瞬だけ驚いたが、すぐに表情を引き締め、力強く頷いた。
「ええ、喜んでお引き受けします!」
こうして、シノブは“コンビニボーソン”の正式な出店責任者に就任した。




