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第19話 定例月例会議    2018.7 

熱海拠点の朝。窓から差し込む夏の陽光が、リビングルームを柔らかく照らしていた。


マモルは寝ぼけ眼で階段を降りてきた。

「おはよう、リリィさん。ん? あれ、誰か来てる?」


視線の先にいたのは、黒い外套をまとった男だった。壁際に静かに立ち、まるで空気に溶け込むような気配を放っている。


リリィが穏やかに答えた。


「おはよう、マモル。紹介するわ。この人はクロシャ。『虹色の風』の諜報担当よ。ずっと極秘任務にあたっていたけど、今日初めてここに来てくれたの。」


クロシャは無言で軽くうなずいた。


マモルは思わず姿勢を正し、やや緊張気味に頭を下げる。


「ど、どうも。僕はマモルです。よろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


クロシャの声は低く、静かだった。


「すごい雰囲気だなあ、クロシャさんって、えへへ」


マモルは気圧されつつも、どこか安心するように笑った。


「クロシャはロシアと中国に潜入して、重大な情報を掴んできたの。今日の会議で報告してもらう予定よ。」


「そ、そうなんだ。うん、なんか、気が引き締まるね。」


リリィは軽くうなずくと、声を張った。


「じゃあ、みんなを呼びましょう。定例会議、始めるわよ!」


◆定例会議の開始


やがて、リビングルームにメンバー全員が集まった。ジャック、コモン、ガルド、マーガレット、そしてクロシャ。それぞれがソファや椅子に腰を下ろす。


リリィが全員を見渡し、静かに言った。


「定例会議を開くわ。私たちも会社として活動している以上、会議は大切よね。じゃあ、ジャック、司会をお願い。」


ジャックが資料を広げ、前に出る。

「了解。それじゃ、まずは目的の再確認から始めよう。」


彼は全員をゆっくりと見渡しながら語り出した。


「科学と魔法を融合させることで、星の破局・崩壊を止められる可能性がある。だからこそ、この地球が人災で滅びるのを防ぐ必要があるんだ。そのために、科学力を高めていく方向へ導いていく。」


「その手順としては、まず資金を集める。できるだけ多く。そして、その資金で平和のための組織を作る。たとえば警察のような仕組みをね。戦争や紛争を止めて、人を増やし、教育して、科学者を育てる。研究施設を作って、魔法と科学を融合した技術を発展させていく。そして、星の崩壊を防ぐ方法を探る。」


「今は、その中の資金集めと、平和組織の設立のフェーズにある。次は“人を増やす”段階だな。もちろん、順番は多少前後してもいい。」


「勇者ギルド長から与えられたクエストの期間は、たったの5年。もう、4カ月が過ぎようとしている。」 


◆進捗報告


ここでコモンがメモ帳を取り出し、口を開いた。


「それじゃ、進捗報告をするぜ。意見があれば、適宜挟んでくれ。」


「まず、資金調達のひとつは金塊販売だ。菱紅商社に毎月5億円相当を納めている。これは安定してきた。」


「次に、原子力発電所の廃炉事業だが、プルトニウムを錬成魔法でミスリルに変えるプロセスが定着してきた。これは宝の山発掘ってわけで、有望な収入源だ。」


「そして、細胞活性装置の販売。ネットオークションを通じて、すでに1個が落札されている。価格は2132億ドル。日本円で約31兆円だ。今後、あと2つ販売する予定だ。これだけで、当面の活動資金は潤沢に確保できる。」


コモンは資料をめくりながら続ける。


「その資金を使って、国連のもとで国際警察官の創設プロジェクトが始まった。戦争や紛争で人が死なないように、守るための仕組みを構築しいく。」


「さらに、アーロンとの提携で、AIゴーレムの製造もスタートした。今後の社会構造にも大きく影響するはずだ。」


◆未来への課題


ジャックが腕を組んで頷き、全員に問いかける。


「ということで、今回はここまでが報告だ。次回の定例会議までに、“戦争や紛争をなくすための具体策”について、それぞれ案を持ち寄ってほしい。」


リリィが立ち上がり、明るく声を上げる。


「まずは、お金を稼がないと何もできないわね。引き続き頑張りましょう!」


・・・・・・・・・・・・

◆クロシャの報告


 定例会議が終わり、熱海拠点のリビングルームに一瞬、静寂が流れた。メンバーそれぞれが報告を終え、次なる課題へと意識を向け始めていた。


ソファに腰かけたジャックが、壁にもたれた黒い影へと目を向ける。


「さて、クロシャ。お前の報告をもう少し詳しく聞かせてくれ。」


黒ずくめの外套をまとったクロシャが静かにうなずいた。そして壁に貼られた簡易地図を指さしながら、低く落ち着いた声で語り始めた。 


「報告は二点ある。まず一つ目だが、某国の特殊部隊が、我々の熱海拠点を襲撃しようとしている。狙いは、“細胞活性装置”の強奪だ。」


「この前、オークションでひとつ売ったばかりだが、それを見て動いたか。」コモンが眉をひそめる。


「おそらくな。あの国は“欲しいものは力で奪う”方針を徹底している。だから実物を手に入れるために、直接攻めてくる。侵入経路はまだ掴めていない。」


「対処できるかしら?」リリィが静かに問いかける。


「すでに拠点周辺に数種類の罠を仕掛けてある。ただし、それだけでは不十分だ。さらなる迎撃手段を用意しておく必要がある。」


「俺が転移陣を準備しよう。緊急時には拠点外へ逃げるルートも確保しておく。」とガルドが頼もしく言う。


「お願い、ガルド。」リリィは頷いた。


ジャックが指を組みながら尋ねる。


「で、二つ目の報告は?」


その瞬間、クロシャの眼差しが鋭さを増す。


「この襲撃計画の背後に、“闇一族”が関与している可能性がある。」


「闇一族?」マモルが思わず聞き返した。


リリィは彼の隣に腰を下ろし、ゆっくりと語り出した。


「闇一族は、異世界に存在する勢力よ。死を撒き散らし、“魂”集めるために生きている。表立って動くことはないけど、裏から戦争や事故を操って、人間の死を増やそうとしているの。」


マモルは息をのんだ。


「まるで、悪魔みたいだ。怖いな。」


「今回の襲撃部隊の中に、妙な魔力の痕跡を持つ者がいた。人間とは違う。おそらく“闇一族”の手先か、あるいは本体だ。油断すれば、こちらが狩られる。」


クロシャの声は冷静だが、明確な危機感が込められていた。


「魔法に対する耐性を持っている可能性もあるわ。結界魔法が効かない場合を想定して、対策しておきましょう。」


リリィの声に、全員が黙ってうなずいた。


その夜、リリィたちはそれぞれの役割に取りかかった。


ジャックとコモンは、リビングの床下に防御用の魔法陣を彫り込んだ。複数の発動条件と結界強化の仕掛けを重ね、侵入者に備える。


ガルドは海沿いの岩場や山頂に出向き、転移用の緊急ゲートを設置していた。


リリィは、庭に出て両手をかざし、拠点全体を包むように結界を強化していた。淡く光る膜が空間を覆い、外敵の気配を感じ取る仕組みに変化していく。


・・・・・・・・・・・・


◆熱海拠点・地下工房


朝日がまだ昇りきらぬ頃、熱海拠点の地下工房には、ランプの明かりがぼんやりと灯っていた。その薄明かりの中、一人の青年が真剣な表情で作業台に向かっていた。


「よし、これで、完成!」


静かな工房に、ギルスの声が響いた。


彼の手元のテーブルには、水晶と金属の回路基板、そして魔力を帯びた金属パーツが繊細に組み合わされていた。中央の水晶は青白い光を放ち、小さな魔法陣が内部でゆっくりと回転している。


そのとき、部屋の扉が勢いよく開いた。


「おい、ギルス、まだ起きて、おお、ついにできたのか?」


声の主はコモンだった。


ギルスは振り返りながら、小さくガッツポーズを決めた。


「うん、これが、魔導式座標検索装置マフィカ!」


ちょうどそこへジャックも顔を出す。


「また変な名前つけたな。」


ギルスがむっとしたように答える。


「変じゃないよ! ちゃんと意味があるんだ。“Map(地図)”と“Magica(魔法)”を合わせて『マフィカ』っていうんだ!」


「へぇ、なるほどな。」ジャックが苦笑する。


続いてガルドが腕を組んで装置をのぞき込む。


「で、そいつは何ができるんだ?」


ギルスは胸を張って答えた。


「この装置は、地球上の現在地をGPSと衛星画像から魔法的に取得できるんだ! 科学の位置情報と、魔法の転移座標を同期させることができるようになった!」


「つまり、それを使えば、転移魔法の精度が劇的に上がるということ?」とリリィが現れ、興味深そうに尋ねる。


ギルスは嬉しそうに頷いた。


「そう! いままでは転移魔法って、“行ったことのある場所”にしか飛べなかったでしょ? でもこれなら、衛星画像と連動して、“知らない場所”でも、座標さえわかれば魔法で飛べるんだよ!」


「それって、めちゃくちゃ便利じゃないか! すげぇな。」ガルドが感心する。


ジャックも目を細めて言った。


「というか、それ、戦略的にかなり重要なツールになるぞ。移動の自由度が段違いになる。」


リリィは、ゆっくりとギルスに歩み寄り、真剣な眼差しで微笑んだ。


「すごいわ、ギルス。これこそ、科学と魔法の融合の成果ね。あなたの融合発明、第一号ね。」


ギルスは照れくさそうに頬をかきながら答えた。


「えへへ、ありがとう。でも、まだ試作段階だから、データの取り込みにちょっと時間がかかるんだ。」


「とはいえ、戦略級の魔法具になる可能性はある。」ジャックが腕を組みながらうなずいた。


「まあ、俺の転移魔法の補助には十分ってとこだな。」ガルドも頼もしげに言う。


リリィは頷いた。


「近いうちに実戦テストをしてみましょう。次の作戦に組み込めるかもしれないわ。」


「うん、ぜひ使ってほしい!」ギルスは目を輝かせて言った。


こうして、ギルスの手によって生まれた科学と魔法の融合魔道具マフィカは、『虹色の風』の新たな戦力となった。

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