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第15話 福島原発跡地の無毒化プロジェクト始動 2018.5

 福島原発廃炉問題に対するリリィたちの次なる一手は、「核廃棄物の無毒化」だった。新たにパーティに加わった錬金術師ギルスの提案をもとに、錬成魔法を活用して放射性物質そのものを無毒化する計画を官房長官に説明するため、再び首相官邸を訪れた。


首相官邸の応接室。宮下官房長官が重い表情で彼らを迎えた。


「リリィさん、再度お越しいただきありがとうございます。廃炉問題に対する反対運動が激化しています。国際的な関心も高まり、難しい状況ですが。さて、今日はどのようなお話を?」


リリィが頷き、席につくと、錬金術師ギルスが資料を広げながら説明を始めた。

「官房長官、はじめまして。私はリリィさんたちのパーティに新たに加わった錬金術師、ギルスです。今回提案するのは、核廃棄物そのものを錬成魔法で無毒化する方法です。」


「錬成魔法で、無毒化ですか?」宮下官房長官は驚きの表情を見せる。


ギルスが続ける。

「ええ。放射性物質は原子レベルで不安定な構造を持っています。錬成魔法を使えば、この不安定な構造を安定した元素へと変換することが可能です。具体的には、ウランやプルトニウムを無害な元素へと錬成します。」


宮下は興味深そうに資料をめくりながら尋ねる。

「そのようなことが可能だとして、リスクや制約はありませんか?」


ギルスは自信満々に答える。

「実験では成功をしています。ただし、作業には大量の魔力を要します。そのため、現地で錬金術専用の魔法陣を設置する必要があります。」


リリィが補足する。

「私たちは既に準備を整えています。地元住民の懸念や反対運動に対しても、この案が解決策になるはずです。無毒化が実現すれば、危険な廃棄物がなくなるどころか、跡地を再利用することも可能になります。」


宮下官房長官は深く考え込み、質問を投げかけた。

「もしこの方法が成功すれば、確かに地元や国際社会への説明は容易になる。しかし、科学的に説明可能な範囲で行動しないと、さらなる誤解を招きかねない。どのように公に発表する予定ですか?」


ジャックが言葉を引き取る。

「無毒化後、跡地の線量測定結果を公開し、さらに希望者には現地見学ツアーを開催します。これにより透明性を確保し、反対派の懸念を払拭します。また、NHKを通じて私たちの取り組みを放送し、国民に直接説明する場を設けるつもりです。」


宮下官房長官はしばらく考えたあと、うなずいた。

「分かりました。政府としても協力しましょう。廃炉問題に大きな進展が見られれば、他国からの評価も変わるはずです。ただし、慎重に進めてください。地元の理解を得るため、私たちも動きます。」


リリィが微笑み、静かに答えた。

「ありがとうございます。私たちの力を存分に発揮します。」


まずは、錬成魔法による無毒化プロジェクトが正式に動き出すこととなった。


◆福島原発廃炉作業 無毒化・錬成魔法発動◆


 福島第一原発構内の一角。曇り空の下、広大な敷地の中央に、実験用に描かれた巨大な錬金術専用の魔法陣が輝いていた。今回は、核廃棄物の無毒化を一般に公開するための初の実演であり、本格的な廃炉全体の無毒化に先立つ試験的工程だった。


 周囲には、東電の技術者や政府関係者、さらには報道陣が詰めかけ、息を呑みながら様子を見守っていた。


 ギルスが魔法陣の中心に立ち、リリィたちがその周囲で護衛の体制を整える。ギルスが杖を高く掲げると、魔法陣が淡い光を帯び始めた。


「リーダー、やるよ」

 ギルスが振り返る。


「ええ、お願いします」

 リリィが静かに頷く。


 ギルスが錬成の呪文を唱え始めると、魔法陣がさらに鮮やかな光を放ち、実験用に配置された汚染物質サンプルが光に包まれた。やがて光が収まり、見た目には変化が見られなかった。


 静寂の中、ギルスが一歩前に出て宣言する。

「これで処理は完了です。このサンプルに関しては、放射線の発生は完全に止まりました。無害化は成功です」


 現場で放射線量を測定していた技術者が数値を読み上げる。

「線量はゼロ。実験は成功とみなして良いでしょう!」


 その結果を見た宮下官房長官が安堵の表情で頷く。

「これなら、地元住民や国際社会への説明も進めやすい。だが、これはあくまで“実験”だ。全体の無毒化作業には、今後1年以上かけて計画的に進める必要がある」


 数日後、NHKの特別番組が放送された。

 リリィは冒険者ギルド株式会社の代表として出演し、核廃棄物無毒化の本格展開に向けた開始を正式に宣言した。


「私たちは、核廃棄物の無毒化を通じて、安全で持続可能な未来を目指します。今回の技術は、まず福島での実証を経て、慎重に世界各地の廃炉問題にも対応していく予定です」


 放送後、ネットやニュースでは大きな話題となり、世界中から注目を集めた。


◆福島第一原発構内・見学ツアー当日◆


 灰色の雲が薄くたなびく初夏の空の下、かつて立ち入りが厳しく制限されていた福島第一原発構内に、数台の小型バスが次々と到着した。


 今日は、無毒化処理の一部が成功したサンプルエリアを対象に、初の関係者向け見学ツアーが開催される日である。


 バスから降りてきたのは、四菱重工の技術スタッフや、経産省・環境省をはじめとした政府関係者、東電の現地責任者と技術員。そして、NHKのアナウンサーと撮影クルー、さらに、これまで強く反対運動を続けてきた地元住民代表の姿もあった。


 リリィたちは、結界魔法による安全ゾーンをあらかじめ確保したうえで、ツアー案内の準備を整えていた。


◆結界ゾーン内の説明エリア◆


 ツアー参加者たちは、かつて高線量区域だったエリアのすぐそばに設置されたモニターテントへ案内された。錬成魔法のログ記録、線量推移のグラフなどが大型パネルで掲示されている。


「ようこそ。こちらが、無毒化処理後の施設区域になります」

 リリィが前に出て丁寧に挨拶し、続いてジャックが補足する。


「本日ご覧いただく区域は、かつて核廃棄物が集中保管されていた場所です。現在、放射線量は完全にゼロ。外部装備なしでの見学が可能となっています」


 ジャックはさらに、追加で設けられた別エリアの説明に移った。

「こちらでは、処理前と処理後の比較データをご覧いただきます。対象は、汚染水・汚染土壌・撤去瓦礫です」


 そこには、透明な鉛ガラス越しに保管されたサンプルが並んでいた。処理前は線量計が大きく数値を示し、処理後のサンプルはゼロを示している。


 四菱重工のスタッフが感嘆の声をもらす。

「まったく同じ条件で測定されてる。処理前のデータと整合している。凄い」


 その場で線量計を確認していた地元住民代表が呟く。

「自分の目で見なきゃ信じられないって思ってた。でも、ゼロだな。確かに」


 続いて、見学者たちは屋外の実演エリアへと移動する。


 そこには、まだ処理されていない小山ほどの瓦礫が積まれており、その周囲に数体の人型マネキンゴーレムが立っていた。


「次に、処理中の様子を実演いたします。今回はマネキンゴーレムを使用します」

 リリィが説明を加える。


 合図とともに、マネキンゴーレムたちがゆっくりと魔法陣の上に配置され、同時に両手を掲げて魔力を放出し始めた。淡い光が瓦礫全体を包み、やがてすべての瓦礫が沈静化されたように静かになる。


 ジャックが現場で確認された線量を即座に読み上げた。

「処理直後、線量ゼロ。安全基準以下です」


 その光景を見ていたNHKのアナウンサーが、小声でコメントを録音クルーに伝える。

「これは生中継に切り替えた方がいいかもしれませんね。日本が世界をリードする瞬間です」


 地元住民代表も、小さくつぶやいた。

「瓦礫が、あんなに一瞬で」


 四菱重工スタッフは最も科学技術に詳しく、作業を厳しく見張っていた。

「これが、無毒化魔法か。こちらの持ち込んだ機械でも線量がゼロとなっている。間違いない。これは科学では到底説明できない」


 政府スタッフは、静かにメモを取りながら、質疑応答のタイミングを伺っている。

「地元説明用のスライド資料として使えそうだな」

「このままモデル事業として国際提案できるか、検討チームにかけるべきだな」


 東電の技術者たちは、かつての現場を知る者として、沈黙の中にも感慨深い様子だった。

「ここで俺たちは、毎日防護服で汗まみれになりながら、数値を気にしてたんだ」

「本当に魔法ってやつは現実を変えるのか」


 NHKのアナウンサーは、カメラの前で緊張した面持ちでコメントを収録していた。

「現在、私たちは福島第一原発跡地、かつての高放射線区域に立っています。線量計の数値はゼロ。この地に再び人が立つことを可能にしたのは、魔法技術でした」


 地元反対派の住民代表は、最も警戒心を露わにしていたが、現地で配布された最新の線量データと魔法技術の説明資料を何度も読み返していた。

「本当に、もう安全なのか?」

「実際に立って、匂いもない。体も変調ない。でも、信じていいのか、まだ分からない」

 ただ、その目にはかすかな希望の色が混じっていた。


◆リリィの締めの言葉◆


「本日の公開は、まだ始まりに過ぎません。福島のすべての汚染物質の無毒化には、今後1年以上をかけて段階的に進める予定です。私たちは、福島だけでなく、世界中で人類が抱える“同様な放射能問題”に取り組みたいと思っています」


 参加者の多くが無言でうなずき、やがて拍手が起こった。


 こうして、福島で行われた無毒化実証は、“実際に目で見て体感できる安全”として、多くの関係者の記憶に刻まれていった。


・・・・・・


 番組は、午後7時のゴールデンタイムに全国放送された。タイトルはシンプルにして衝撃的 「福島原発、放射能ゼロへ」。


 冒頭、NHKのアナウンサーが、かつて立ち入りが制限されていた福島第一原発の跡地に立ち、「現在、線量は完全にゼロです」と語る映像が流れた。


 その後、リリィやギルス、ジャックたちが登場し、錬成魔法の仕組みや実施過程、さらには線量測定の公開データ、地元の見学ツアーの様子などが紹介された。


 視聴者の反応は、放送中から急激に高まった。


SNSとネット上の反響


 番組放送と同時に、Twitterでは「#放射能ゼロ」「#冒険者ギルド」がトレンド上位に入り、関連動画は次々と拡散されていった。


「信じられないけど、現地の数値ゼロってほんと?」

「魔法すげぇ。科学越えちゃったのか」

「地元にいた親戚から“本当に安全になった”って連絡来た。泣きそう」


 一方で、科学的根拠や透明性を求める声も多く、


「“魔法”だけでは説明不足。詳しい技術公開を希望」

「これは人類にとって革命だが、慎重であるべきだ」

 といった理性的な議論も広がっていた。


・・・・・・

某国・諜報部隊本部 

 金属製の扉が密かに閉じられ、遮音の部屋には重苦しい空気が流れていた。


 壁に並んだ監視映像、報道キャプチャ、線量グラフ。どれもが“日本での核汚染物質無毒化”の成功を示すものばかりだった。


「任務失敗、ということか」

大佐が机を拳で叩いた。その震動で端末が跳ねる。


「福島の廃炉問題は、“日本のアキレス腱”だったはずだ。放射能の負の遺産、長期の封鎖、国際的な批判。それが“ゼロ線量”だと? 信じられん。


「すでにアジア数カ国が視察の意向を示しています。“冒険者ギルド株式会社”と提携したいという国も」


「ふざけるな! あの女・リリィ、そしてあの錬金術師ギルス、」

 某国諜報部局長の顔に怒気が走る。


「どうなさいますか? 次の手を」


「表立って動くな。だが、世界があの魔法技術を信じ始めている。情報戦をしかけろ。信用を削れ」


「かしこまりました。“線量偽装”を疑う情報工作を進行中です」


「よし。奴らの“成果”が定着する前に、火種をまけ。連中の国際展開を阻止しろ」


「あのような魔法が政治を変えるなど、冗談ではない!」


 怒号が部屋全体に響いたが、その響きの向こうで、スクリーンに映るリリィの穏やかな微笑が、誰よりも静かに“勝利”を告げていた。

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