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第12話 車いすの天才にプレゼント 2018.5

ここは熱海市、新しい拠点。もとは企業の大型保養所だったらしく、大きなダイニングルームでは、いつものように賑やかな朝が始まっていた。ドタバタと準備が進む中、リリィの声が響く。今日は重要なミッションが控えていた。


「マモル、今日はイギリスに行くんだからね。いつも以上に時間は厳守よ」


「はい、リリィさん。転移陣で一瞬だから、時間ロスはほとんどないですよ」


 イギリスの空間座標は事前にチェック済みで、マモルは初めて訪れる異国の地に胸を弾ませていた。加えて、今回会うのは世界的な科学者ホー博士。『宇宙のはじまり』や『ブラックホール』の理論で知られる天才との対面に、マモルの気持ちは高まっていた。


 今回の訪問メンバーはリリィ、マーガレット、そしてマモルの3人。ホー博士は難病ALSによって筋肉が徐々に動かなくなっているという。今回は“医師団”として訪問するという建前で、リリィの回復魔法を用いる計画だった。


 ジャックはすでに滞在スケジュールと博士との接触手順を整理し、パーティ全員に共有していた。


「今回も商社としてサポートしますよ」

 テレビモニター越しに、三田部長がにこやかに話す。転移陣による日帰り移動のため、航空機や宿泊の手配は不要だったが、BBCの取材が予定されており、官房長官からの全面協力によりイギリス政府との連携も取れていた。


 地下のガレージにある転移陣を起動し、3人は一瞬でロンドンの菱紅商社・現地支社の会議室に到着。すでに現地スタッフが送迎車を手配しており、車窓からは大英博物館やテムズ川が見えた。目指すのはホー博士が入院している医療機関だった。


 マモルが英語で受付に要件を伝えると、一同は広い会議室に通された。そこにはBBCのカメラが設置されており、病院スタッフも数名待機していた。


 カメラが回り、BBCのアナウンサーが番組冒頭のナレーションを始めた。そのとき、電動車いすに乗ったホー博士が現れた。博士は機械音声による合成音で穏やかに話し始める。


「こんにちは。私はホーです。はじめまして」


 抑揚の少ない電子音声。しかし、その眼差しは穏やかで、優しさを宿していた。


 リリィは魔法でウォーターボールと光の玉を浮かべながら、柔らかく語りかける。


「ホー博士、私はリリィと申します。博士の提唱されたマルチバース理論、その異世界から参りました。ぜひ、私に博士のご病気を治療させてください」


 博士は驚いたように沈黙したが、しばらくして機械音声で答えた。


「これは夢でしょう。夢ならば、リリィさんにすべてを託します」


 病院スタッフが駆け寄ろうとしたが、菱紅商社のスタッフが制止した。


「では、始めます。これが細胞活性装置です。博士の細胞を正常化し、長期間維持します」


 リリィは卵形の装置を取り出し、博士の腹部にそっと当てた。装置に魔力を込めると、柔らかな光が溢れ出し、博士の体を包み込む。空気がかすかに震え、5分ほどで光は消え、装置は博士の体内へと吸収された。


「お加減はいかがですか?」


「ああ、体が温かい。気持ちがいい。 おお、声が出る! 自分の声だ!」


 ホー博士の体はすでに健康体となり、ALSの症状は完全に消えていた。


「神経の適応が終わるまではリハビリが必要ですが、数日で普通に歩けるようになります」


 博士は感極まりながら言った。

「これは夢に違いない。リリィさん、ありがとう。私はもっと宇宙の真理を追い求めます」


 リリィは博士の手を両手で包み、優しく笑った。

「この細胞活性装置は、およそ百年の間、博士の健康を維持します。次は1週間後にまたお伺いしますね」


 リリィはBBCのカメラに向き直り、語りかけた。


「この装置はホー博士専用に固定されています。他の方には使用できませんし、現代科学での解析も不可能です。悪用はご遠慮ください」


「ちなみに、私の所有するこの装置はあと三つ。近くネットオークションに出品する予定です。百年の健康寿命が欲しい方はぜひ参加してください。その売上はすべて、世界平和のために使います。チャリティーですから」


 アナウンサーが質問しようとしたが、商社スタッフがリリィたちを別室へと案内し、収録は終了した。なお、リリィの顔には後日モザイクが施される予定で、難病患者や犯罪組織に狙われるリスクを回避するための措置だった。


「商社の皆さん、博士の安全確保のため、SP(警備)を1か月増員してください。費用はこちらで負担します」


「了解しました」


 やがてリリィたちは再び転移陣を用い、熱海の拠点へと帰還した。


 その夜、マモルは温泉風呂に浸かりながら、ホー博士の優しい笑顔を思い出していた。心がじんわりと温かくなる。


 自室でテレビをつけると、速報で「ホー博士、元気に退院」と報じられていた。BBCの特番は3日後に放映予定。博士の完全な回復は、まだ世間には知られていないようだった。


 その夜遅く、ロンドンの下町。


「おい、BBCの仲間から妙な情報が来たぞ。『ホー博士回復。細胞活性装置を日本が開発。異世界人現る』だとよ」


「ホー博士って、あの車いすの天才だろ? 日本がそんなとんでもない装置を?」


「真偽はどうでもいい。そのまま送れ。誤報だったら現場のせいにすりゃいい」


「了解、ボス」


 こうして、その情報はイギリス国内の某国スパイ拠点から暗号化され、やがて東側諸国の情報機関へと拡散されていった。


 静かに、しかし確実に。リリィたちの存在は、世界を揺るがし始めていた。

細胞活性装置:寿命を延ばす装置、ここでは魔道具(神器)として登場しますが、元ネタはペリーローダンシリーズを参考にしました。

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