第9話 錬金術師を新メンバーに 2018.4
翌日、リリィたちは勇者ギルドの星にある拠点で待っていた。そこへ、錬金術師の組織から錬金術師の紹介リストが届いた。リストを前に、マーガレットを呼び出して選別を任せることにした。マーガレットは未来からのメッセージを通じて、これから仲間になる者を知ることができるからだ。
だが、マーガレットはリストを見て首を振った。
「この中に仲間になる人はいないニャ」
仕方なく、リリィたちは直接クランに出向くことにした。
リリィ、ジャック、マーガレットの三人は、勇者ギルドの星にある錬金術師の町へ転移した。町の中心には、巨大な塔のような本部がそびえ立っていた。
周囲には煙を上げる工房や、奇妙な装置、色とりどりの植物が育つ庭が並び、町全体がまるで生きた研究所のような雰囲気に包まれていた。
三人は塔の入口に着き、受付の案内係にリストを見せ、仲間となってくれる錬金術師を探していると説明した。
「リーダー、植物や鉱石の匂いがいっぱいニャ」
マーガレットが鼻をひくひくさせながら言った。
「ああ、独特な雰囲気だな。町そのものが錬金術の実験場みたいだ」
ジャックが頷いた。
「私たちが探しているのは、腕が良くて、地球でのクエストを楽しめる人よ」
リリィが補足した。
塔の中に入ると、広いロビーに通された。錬金術師たちが資料やサンプルを手に忙しそうに行き交い、展示ケースには発明品や魔法道具がずらりと並んでいた。
案内係がリリィたちを一室へと案内すると、そこにはクランの代表、ゴースが待っていた。白髪と長いひげ、大きな杖を携えた老人だった。
「ようこそ、冒険者たち。我はクラン長、ゴース。紹介リストの者たちではご不満だったようだな?」
リリィが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
「私たちは異世界・地球で、科学と魔法の融合による新たな技術開発を進めています。その中で、錬金術の力が不可欠となりました」
「ふむ、優秀な者を選んだつもりだったが」
「常識にとらわれず、柔軟な発想のできる錬金術師を探しています」
「なるほど。だが、ここには多くの研究者がおる。どうやって適任者を選ぶつもりじゃ?」
そのとき、部屋の奥からひとりの若い男が飛び込んできた。ぼさぼさの髪に汚れた白衣、手には怪しげな小瓶。まさに研究一筋という風貌だった。
「ゴースさん!これ、見てください!珍しい反応が出ましたよ!」
「今は来客中だと分からんのか、ギルス。下がっておれ」
ゴースはため息まじりに言った。
「いやいや、絶対後悔しますって。これはすごいです!」
「お前は腕は一流だが、空気を読まんのが難点だな」
ギルスと呼ばれた男は肩をすくめ、小瓶を差し出した。
「そんなこと言わずに、これ見てください」
中には何もないように見えた。
「何も入っておらんじゃないか」
「いえいえ、ありますって。この黒い小さな粒。底に見えるでしょ? これは人工魔石です。僕が作りました。たぶん、世界初ですよ」
「人工魔石? そんな小さなもの、売れんだろう」
「大きさは変えられます。重要なのは“人工で作れた”ってことなんです!」
ギルスが熱弁をふるうが、ゴースは呆れて取り合わなかった。
その様子を見ていたマーガレットが、リリィの腕を引っ張って小声で囁いた。
「彼が仲間ニャ。未来の私がよく口喧嘩してるニャ」
「うん、そんな気がしてた。夢見がちなところ、仲間たちに似てるもの」
リリィも笑顔で応じた。
「その小瓶、見せてくれるかしら?」
「え? どうぞどうぞ。壊しても構いません。いくらでも作れますから」
リリィが小瓶の中の人工魔石に魔力を込めると、粒が輝きを放ち、魔素を吸収し始めた。
「吸収力がすごい。普通の魔石より容量が大きいわね」
「おっ、分かりますか! それ、普通の魔石の十倍の容量があります。しかも属性は自由に変えられます!」
「これは革命的ね。錬金術の未来を変えるわ」
「うわー、お姉さん、話が早い。クラン長とは大違いだ」
「私はリリィ。勇者ギルドの“虹色の風”のリーダーよ。よろしくね、ギルスさん」
「はい、よろしくお願いします!」
「この発明の権利、ぜひ買わせてほしい。そして地球で一緒に、新素材を開発してみない? 資金も時間も、好きなだけ使っていいわ」
「えっ!? いきなり売れた!? えーと、地球って、どこの宇宙ですか?」
「ふふっ、魔素のない宇宙にある星よ。だから、人工魔石の需要がとても大きいの」
「なるほど、そりゃ確かに需要ありそうですね。資金も時間も使い放題。ホントですか?」
「本当よ。新素材の開発はあなたに一任するわ。期待してるから」
リリィがゴースの方を向いた。
「クラン長、彼に決めました。よろしいですか?」
「うむ、本人がいいというなら、異議はない」
「ギルス、行くのは構わんが、面倒を起こすなよ」
ゴースはため息まじりに言いながらも、うなずいた。
こうして、ギルスは“虹色の風”の一員となった。
無言で見ていたジャックが手を差し出し、ギルスと握手を交わした。
「俺は参謀役のジャックだ。よろしくな。ところで、ギルス。露天風呂って入ったことあるか?」
「え? 僕、風呂入らないですよ。時間がもったいないし、クリーン魔法でいつも一瞬でキレイになりますから」
「はは、クリーン魔法か。まぁ基本だもんな。でもな、うちの拠点の露天風呂に入ったら、人生が変わるかもな」
「人生が変わる風呂? お湯に何か仕掛けでもあるんですか?」
「ふふ、説明するより、実際に入ってみた方が早いさ」
「では、クラン長。これで失礼します」
リリィが頭を下げて退室した。
「リリィさん、ギルスをよろしく頼むぞ」
こうして錬金術師ギルスが仲間に加わり、リリィたちは地球への帰還準備を整えた。
「さて、ギルス。荷物はマジックバッグに入れたわね。地球に行くわよ。あなたの力を、思う存分発揮してもらうわ」
リリィの言葉に、ギルスの胸は高鳴った。