第97話 WHOからの緊急要請 2020.1
ニューヨークの拠点で休息を取っていたリリィ一行だったが、早々に次なる動きを開始することになった。世界保健機関(WHO)から、ワクチン開発のための緊急会議の要請が入ったのだ。
リリィ
「WHOも動き始めたわね。」
ジャック
「これで、ワクチン製造の正式な国際協力体制が整うだろう。」
マモル
「よし、行こう!」
一行は、WHO本部のあるジュネーブへ転移した。
WHO会議各製薬会社への要請
WHOの会議室では、各国の代表と主要製薬会社の幹部が集まっていた。会議の司会を務めるのはWHO事務局長であり、国連事務総長のアンサも同席していた。
アンサ
「皆様、今日の会議は新型ウイルスに対するワクチン開発の促進についてです。中国から提供されたウイルスの血液サンプルとワクチンサンプルが届いております。これを各製薬会社に配布し、早急な研究を開始してください。」
WHO幹部
「現在、mRNA技術やウイルスベクター技術がすでに確立されており、これらを活用すれば開発期間を短縮できるはずです。」
リリィ
「ワクチン開発は時間との戦いです。そこで、研究と臨床試験を並行して進めるよう提案します。」
各国の代表者たちはざわめいた。
代表者A
「それは通常のプロセスでは危険ではないか?」
ジャック
「緊急事態には異例の対応が求められます。臨床試験のフェーズ1・2・3を同時進行で進めることで、通常よりも数倍早くワクチンを完成させることが可能です。」
臨床試験
フェーズ1(数十人): 健康な成人で安全性を確認。
フェーズ2(数百人): 適切な用量と免疫応答を調査。
フェーズ3(数千~数万人): 大規模試験で有効性と副作用を確認。
アンサ
「緊急使用許可(EUA)を活用し、長期試験の完了を待たずに承認する枠組みも検討されています。」
製薬会社の幹部B
「しかし、それには膨大な資金が必要です。」
リリィ
「それについては、我々が支援できます。核融合炉の収益の一部を、このプロジェクトに回しましょう。」
代表者C
「なるほど、事前生産も開始すべきかもしれませんね。」
アンサ
「各国政府の資金援助により、リスクを回避しつつ承認前から大量生産を行いましょう。」
リリィ
「さらに、グローバルな協力体制を強化するため、COVAXを通じた各国とのワクチン共有体制を確立するべきです。」
COVAXとは、世界中のすべての国が公平にワクチンを入手できることを目的とした国際的な枠組み。COVAXの目的は、低所得国へのワクチン供給
代表者D
「それは素晴らしい提案だ。我が国も協力しよう。」
AIとデジタル技術の活用
ジャック
「ワクチン開発の迅速化には、AIの力も活用できます。リアルタイムで治験データを収集・分析し、問題があれば即座にフィードバックできるようにしましょう。」
WHO科学顧問
「なるほど、それならばAIによる治験管理を導入し、開発スピードを加速できるはずです。」
製薬会社へのワクチンサンプル配布
その後、リリィたちは各製薬会社へウイルスの血液サンプルとワクチンサンプルを配布し、研究の指針を示した。
リリィ
「この試作ワクチンを基に、各社で改良を加えてください。目的は、より効果的かつ迅速に製造可能なワクチンを生み出すことです。」
製薬会社A
「わかりました。我々のmRNA技術を活かして、できるだけ早く開発に着手します。」
製薬会社B
「当社ではウイルスベクター技術を用いたワクチン開発に取り組みます。」
ジャック
「各社が独自の技術を駆使し、競争しつつも協力する体制を作りましょう。」
アンサ
「このワクチンは、単なる国ごとの利益ではなく、人類全体の未来を守るためのものです。皆様の協力をお願いします。」
交渉の終結と新たな試練
会議は成功裏に終わり、各国・各企業が協力体制を築くことになった。リリィたちはジュネーブの外に出て、空を見上げた。