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第8話 勇者ギルドに報告とクエスト開始 2018.4

ここは、ある宇宙の銀河の中心部にある、勇者ギルドの星。リリィたち“虹色の風”の拠点に、リリィとジャックが帰ってきた。ここにも、コモンの分身が待機していた。


 コモンの分身が笑顔で迎えた。

「リーダーとジャック、お帰りなさい」


「留守番、ありがとうね。変わりはなかった?」


「はい。勇者ギルドからの連絡が数件ありました。いずれも、休暇の終了予定についての確認ですね。無視しておきました。休暇中に休暇の終わりを確認するなんて、休暇になりませんから」


「あはは、そのとおりね。ありがとう。すぐにギルドに行くわ」


 リリィは転移陣を操作し、勇者ギルド事務所へと転移した。到着後、受付嬢にギルド長との面談を申し込むと、受付嬢はリリィたちの休暇が終わったと判断し、クエストの準備を始めようとした。


「休暇は延長します」とリリィが告げると、受付嬢は困った顔で「ええっ……」と声を上げた。やや怒っているようだったが、リリィは気にせず進んだ。


 やがて、面談の許可が下り、リリィとジャックはギルド長室へと向かった。


 ギルド長は笑顔で出迎えたが、どこか皮肉を込めて言った。

「休暇は楽しめたか? けっこう長かったな」


 リリィはにっこりと微笑みながら答えた。

「はい、おかげさまで、とても有意義な時間を過ごせました。ぜひ報告をお聞きください」


 リリィが合図を送ると、ジャックがすぐにプレゼンを始めた。

「虹色の風メンバーのジャックです。今回は重要なご報告があります。休暇先の“地球”という星は、魔素がまったく存在しない宇宙にあります。そのため、地球には魔法という概念が存在しません。彼らは科学の力だけで文明を発展させてきました。主に電力を利用した機械文明です」


 ギルド長は興味なさそうな顔をしていたが、それでも話に耳を傾けていた。

「ふむ、続けてくれ」


「この地球の科学は、魔法と非常に相性が良いと感じました」


 ジャックはそう言いながら、鞄からマネキンゴーレムを取り出した。


 一体は美しい金髪の女性型、もう一体は筋骨隆々のスキンヘッドの男性型。マネキンゴーレムは動き出し、それぞれモデルのようなポーズとマッチョなポーズを決めた。


 ギルド長は一瞬、「仕事中に何をしているんだ」と言いたげな視線を向けたが、ジャックは構わず続けた。


「ギルド長様に挨拶して、地球の良いところを述べてみろ」


 するとマネキンゴーレムたちは突然、陽気に漫才を始めた。ギルド長は、ゴーレムが会話するという点にまず驚き、そしてそのやりとりが意外にも面白く、やがて声を上げて笑い出した。


「あははは、これは愉快だな。確かに面白かったよ」


「ありがとうございます。このマネキンゴーレムは、魔法で定められたセリフを話しているのではありません。“AI”と呼ばれる機械知能が、自分で判断して言葉を紡いでいるのです。これは、地球の機械文明の成果です」


 ギルド長は少し驚いた様子で尋ねた。

「機械文明の成果か。で、それがどう役に立つんだ?」


 ジャックは、次にツァーリ・ボンバの爆発映像をホログラムで投影した。光のバーストが走り、巨大な火の玉、そして雲を突き抜けるようなキノコ雲が映し出された。


「これは“核爆弾”と呼ばれる地球の科学兵器です。惑星を破壊しかねない力を持っています。これが、彼らの科学力の一端です」


「うおっ、惑星を破壊できるほどの力か。それは恐ろしいな」


「ですが同時に、逆の力、惑星の崩壊を防ぐ力として応用できる可能性もあります。科学と魔法を融合すれば、まったく新しい力が生まれるのです」


 ギルド長は真剣な顔になり、やや沈黙した。

「とはいえ、それは希望的観測にすぎない。根拠が乏しいだろう」


「いえ、根拠はあります。地球では“宇宙の起源”や“真理”について、多くの学問的探究が行われています。私たちの世界では、そういった思想そのものが希薄です」


「ふむ、宇宙の真理、ね。だが考えるだけでは意味がないのでは?」


「彼らは、破壊力のある力をすでに持っている。その力に“魔法”を掛け合わせれば、星を救う力となる可能性もある。だからこそ、この融合の研究には価値があります」


 ギルド長は腕を組み、しばらく考え込んだあと、静かに尋ねた。

「それで? 私に何をしてほしいんだ」


 リリィが前に出て言った。

「ギルド長、“星の破局、崩壊を止められるような力の開発”というクエストを与えてください」


「本当にそんなことが可能だと?」


 リリィとジャックは声をそろえて答えた。

「はい」


「期間は?」


「千年です」


 ギルド長は椅子から跳ね上がりそうになり、顔を真っ赤にして叫んだ。

「ばかやろう! そんな長期のクエストがあるか」


「記憶アーカイブで精神的に若返ったせいで夢見がちになっているように見えるぞ。とにかく、現実的なラインで行こう。期間は“五年”だ。中規模クエストの最大期間だ。それで地球の科学力がどれほどのものか、目に見える形で示してみろ。報酬は出来高払いとする」


「五年、了解です。その期間で、成果を見せてみせます。報酬は出来高払い、問題ありません。クエストは黒字で運営します」


 リリィとジャックは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」


 ジャックが続けた。

「つきましては、もう一つお願いがあります」


「まだあるのか? 有能なパーティが五年もいなくなるだけでも、こちらは頭を抱えているというのに」


「“錬金術師”の優秀な者を、我々のパーティに加えたいのです」


「錬金術師か。なるほど、素材開発の面で必要というわけだな。分かった。錬金術師の組織に話を通しておこう」


「ありがとうございます。ご無理を言って申し訳ありません」


 リリィとジャックは再び一礼し、ギルド長室を後にした。


「うまくいきましたね」

小さな声でつぶやいたジャックに、リリィが笑顔を返す。

二人は目を合わせ、静かにハイタッチを交わした。

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