16.人前で私はなんてことをっ
この混沌な状況をどうしたらいいのだろうか。
全く話が進まない。
アレクシス殿下はこんな状況でも眠り続けている。
目覚めるには、王弟殿下の魔力が必要なのだ。
エド様すら、この二人の中には入っていけない様子だ。
ここは、私が勇気を出すしかない。
「あ、あの……」
「んん!?なんだい、黒髪のチンチクリンよ」
「殿下、聖女様ですよっ!」
黒髪のチンチクリン……。
いや、そうだよね、私はチンチクリン。
いや、チンチクリンでも出来ることはあるはず!
「王弟殿下、どうか、アレクシス殿下を助けてはいただけませんかっ。アレクシス殿下は私を助けるために魔力を使い果たして、未だ意識が戻りません。アレクシス殿下に魔力を……っ」
「わたくしからもお願いするわ。殿下っ」
やっと、王弟殿下の視線がゴンちゃんに担がれているアレクシス殿下へと向けられた。
「アレク……ティアにそっくりだねぇ……」
まさかの、デレ顔に一同ポカンとしてしまう。
意識ないのに!魔力使い果たして、ぐったりしている息子を見て、何故そんなデレ顔にっ!?
「大きくなったねぇ、アレク。さすがは僕とティアの愛の結晶!ねぇ、クソ国王吹き飛ばして、ティアとアレクと一緒に暮らそうよ」
「殿下、危険な思想を持たないでくださいっ。それより、アレクシスへ魔力をっ」
「うーん、本気なんだけどなぁ。僕が本気を出せば、王国を乗っ取ることも簡単だ。ティアが望まないから手を下さないだけで。ティアの愛情をもらえるアレクはいいねぇ。なんだか憎らしくなってきたから、魔力はあげないっ」
「で、殿下っ……──」
「ええええええ!?困ります、王弟殿下、考え直してくださいっ。アレクシス殿下を助けてくださいっ、私、アレクシス殿下が一番大切なんですっ、まだ伝えたいことも一つも伝えられていないんですっ……!!!」
ぷいっと拗ねたように顔を背けた王弟殿下に、勢い余って懇願してしまった。美形と目がバッチリあってしまって、ものすごくいたたまれなくなる。
「黒髪のチンチクリン……ああ、君はあの時の人形かぁ!ティアが僕より大切にしていたから魔女にあげたんだ。人形がなくなって泣きじゃくるティアも可愛かったなぁ」
「え……?」
「人形……?まさか、聖女様は我がアルステディール公爵家の聖物の隣にいたお守り様ですか!?そういえば面影が……。ある日突然姿を消してしまい……。聖物まで無くなって失意にくれていたのに。まさか、殿下が関わっていたなんて…… 」
今まで母が聖女の人形を勝手に持ち出していたのかと思っていたが、まさかの、私を母に渡したのは王弟殿下だったらしい。
私はアルステディール公爵家に保管されていたのか。
妙な繋がりに呆然としていると、王妃様の怒りのオーラがとんでもないことになっていた。
「もう、殿下なんて嫌いですっ!!!!」
「なっ……!!!!取り消してくれっ、ティア!!なんでもするからっ」
「じゃあ、早くアレクシスに魔力を注いであげて!話はそれからよ!」
「ま、まかせてくれっ!!!」
そんな感じで、王弟殿下はアレクシス殿下へ魔力を注いでくれた。
温かな魔力がアレクシス殿下を包み込み、血色を失っていた頬に赤みが差す。瞼が動き、緑色の美しい瞳と目が合った。
「アレクシス殿下っ!!!!!」
衝動的に抱きつくと、そのままギュッと背中へ手が回された。
「……ノルン、生きているのか?夢ではなく……?」
「……っはい、アレクシス殿下が私に魔力を分けてくださったから……」
「そうか。よかった……」
目覚めてまで、私の心配しかしないアレクシス殿下に涙が零れ落ちてしまう。
「アレクシス殿下が目覚めたら、伝えたかった。お礼の言葉と、そして……」
ずっと、ずっと、この気持ちを言葉にするのが怖かった。
今でも、怖い。
でも──
「好きです。殿下……」
「ああ。俺も、お前が好きだ。ノルン──」
アレクシス殿下の瞳にも涙の膜が張る。
もう、いいか。
身分とか、不相応だとか、黒髪とか、元人形とか。
考えなきゃいけないことは沢山あるけど。
目の前の殿下が好き。
それでいいじゃないか。
きっと、アレクシス殿下なら、全部吹き飛ばして、偉そうに笑うに決まってる。
そっと唇が重なり合いそうになった時。
「アレクシス、ヨカッタネー!!!ゴンザレスモ、ダイスキヨー!!」
「ゴンザレスくん、喜びを伝えるのは後にした方が……っ」
「ゴンザレス様、エドワルド殿下、あちらへ行きましょう、ねっ」
皆がいたことを思い出し、バッと身を離した。
「ああああああ、人前で私はなんてことをっ……」
「ん?人前って……ここは……?」
「王弟殿下の屋敷ですよ」
「はぁぁぁぁ──!?!?!」
アレクシス殿下の驚きの声が響き渡ったのであった。




