10.楽しい時間をありがとうございました。
身体が重い。
感覚が徐々になくなっていく。
黒い靄が私の中を侵食していくのがわかる。
はやく、壊れてしまう前に竜たちの病を吸収しないと。
竜の子は子どもの姿のまま核の外へ私を連れ出してくれた。
外に出ると、黒い靄が消えた核は小さくなり、竜の子の胸の中に入っていった。
すると、骸骨は一瞬で消えてしまった。
『ノルン、いこっ!』
「うんっ!」
本体が、人型になったということだろうか?
色々わからないけど、もう時間がない。
竜の子に手を引かれ、苦しむ竜たちの元へと急いだ。
『苦しい……痛い……』
「もう大丈夫ですよ、苦しいのを、取りますからね」
竜の核に手を伸ばす。
今度は、中に吸い込まれることは無く、核の黒い靄だけが私の手の中に吸収された。
すると、骨の外へ弾き出され、青い綺麗な竜が目の前に現れる。
『ああ、苦しくない、痛くない……!身体が……戻ったのか……?人の子よ、感謝する』
「いいえ、よかった……」
『ノルン、次はあっち!』
竜の子に手を引かれ、もう一匹、もう一匹と黒い靄を吸収していった。
あと一匹……。
5匹の中で一番大きな竜の前に行く。
身体が石のように重くなって、限界が近い。
きっと、この竜から病を吸収したら、私は壊れてしまうだろう。
『ノルン……?具合悪いの?』
「ううん、大丈夫」
そっと竜に手を伸ばそうとした時──。
パリンという何かが割れる音がして、ぼやけていた景色が鮮明になった。
「ノルン、イタヨ!」
「やはり竜の結界だったのかっ、ノルン、大丈夫かっ!?」
「ノルンっ!」
「ノルン様っ!!」
ゴンちゃんとエド様、アレクシス殿下とリドディア様が一気になだれ込んだ。
ぜぇぜぇする呼吸を整えて、視線を向ける。
良かった。
最後にみんなに会えて。
「ノルン、クロイモヤ、イッパイ……っ!」
「お前っ、なにやって……」
ゴンちゃんが駆け寄って、私を抱きかかえた。アレクシス殿下が心配そうに私をのぞき込む。
「……竜達が、元に戻っている……?まさか、ノルンがこれをやったのか?」
「私たちは竜が張った結界に阻まれ何も見えなかったんです。ゴンザレス様がこちらにノルン様の気配がすると突っ込まれて……。え、ルーラル様、…………まさか、ノルン様、竜の病を自らに取り込まれたのですかっ!?そんな無茶をっ!!」
リドディア様を通して私を見たらしいルーラル様には気が付かれてしまったようだ。
私はへラっと笑ってみせる。
「あと、一匹です」
「バカ言うなっ!こんな状態でお前……っ」
「私はきっと、このために初代聖女様が作ったんだと思うんです。母が人間にしてくれたから、沢山色々なことを経験できて、楽しい時間を知れた。本来の役目を果たします」
竜たちの病が治れば、もう瘴気に苦しむことはなくなる。
この国も、殿下たちも、幸せに生きていける。
それならば、私は壊れても構わなかった。
「楽しい時間をありがとうございました。私は──」
「ダメ!ノルン、ズット、イッショ!!クロイノ、キエテ!!」
ゴンちゃんが涙を零しながら私に浄化をかけてくれた。温かい光に包まれて、身体が少し楽になっていく。
『ノルン……』
「大丈夫。まだ、いけるよ……」
竜の子の力なのか、四人の動きが止まる。
私は力を振り絞って立ち上がり、大きな竜の前まで歩いた。
竜の核は今まで以上に黒い靄に包まれ、その分苦しんだのだと思う。
「もう大丈夫……」
そっと核に触れる。
黒い靄が手に吸い込まれると同時に胸に激痛が走った。
ガクリと膝から崩れ落ち、そのまま外へと弾き出された。
黄金に輝く竜が視界に映り、そのまま私は目を閉じた。
「ノルンっ!!!!」
誰かに強く呼ばれた気がしたけれども、もう目を開けることもできなかった。




