9.私、竜たちのところに行きます
いくらなんでも、五匹の竜の相手は無謀なのでは……っ!?
ちょっと挫けそうになりつつも身構えていると、竜たちは私たちの目の前で力尽きたようにバタバタと倒れていった。
「クロイノ、キエテ!!」
辺り一面に充満した瘴気をゴンちゃんが浄化してくれて、竜と私たちの間には、エド様やアレクシス殿下が護りの結界を張ってくれていた。
苦しそうに息を吐く竜たちは、初代聖女様の癒しを求めているように視線を泳がせ何かを捜している。
「わ、私、行ってきます。竜と話せるかも」
「ノルン、危険だっ、もう少し様子をみてからでも──」
「でも、苦しそうなのに……、このままじゃ……」
竜の元に行こうとした私をアレクシス殿下が引き留める。けれども、私の耳には聞こえてしまうのだ。
『苦しい……、たすけて……』
竜たちの声が──。
ただ、声が聞こえるだけの私に何ができるのかはわからない。
魔法も使えないし、癒やしの力も無い。
無謀で危険なのはわかっているのに。
「ごめんなさい、殿下、私、竜たちのところに行きますっ」
アレクシス殿下の手を振り払って、竜たちのもとへと駆け寄った。
「私はノルンですっ、初代聖女様があなたたちの為に遺した者ですっ」
『聖女……?痛い、苦しい……お願い、眠らせて……』
力なく私を見つめる瞳に、涙が零れ落ちた。
竜は死ねない。
どんなに肉体が腐っても、全身が痛みで苦しんでも。
治らない病を抱えたとき。
不死は永遠の苦しみになってしまう。
「痛いですね……、苦しいですねっ……」
竜の身体を撫でる。
少しでも痛みがよくなるようにと祈って。
骨だらけで空洞になった身体の奥深くに、光る何かが見えた。
あれは……なに……?
目をこらして見ると、大きな丸い宝石のようなものが光り輝いていた。
『ノルン、魔物には核と呼ばれる弱点があるのよ。ここを壊さないと、スライムは延々と増えるわ。仕留めるときには核を狙いなさい』
森でスライムという魔物に出会ったときに、母がそう教えてくれたのを思い出した。人間でいう心臓のようなもので、核にはその魔物の魔力が蓄えられ、大きな魔物だと核が魔石と呼ばれる石になる。
もしかして、竜の核はあの光り輝く宝石のような玉なのだろうか。
弱点になるので、魔物達は見えないところに核を隠す。もしも、この竜が初代聖女様の治療を受けたときに核までみせていないとしたら。
骨だけになって、核に触れられる今。
もしかしたら、竜を治せるかもしれない。
「あのね、あなたの中に入ってもいい?もしかしたら、この痛いのを治してあげられるかもしれないの」
『いいよ、苦しいの……嫌だから』
了承を得て、竜の中に足を踏み入れた。
骨がまるで建物の骨組みのように連なるなか、慎重に歩を進めた。
光り輝く大きな宝石のような玉は、所々が黒い靄で覆われていた。これが、竜たちの病の元かも知れない。
そっと手を伸ばすと、石碑の中に吸い込まれたときのように玉の中に吸い込まれてしまった──。
『聖女……違う、ノルン……?』
暗闇の中に蹲っていたのは、あの時に出会った魔魚の妖精さん……竜の子どもだった。
『ノルンが……聖女の代わりに、楽にしてくれるって……、みんなにいって、会いにきたの』
あの時の代わりっていう言葉は、そういう意味だったのか。
眠っていた竜たちを起こして、会いに来てくれたのと思うと、胸が締め付けられた。
人間の子どものような姿をした竜は、指先から黒い靄に蝕まれている。苦痛に顔を歪める竜の手を思わず握りしめた。
「会いに来てくれて……ありがとう」
『ううん、ずっと、会いたかった。優しい匂い。聖女も、ノルンも、大好き』
苦しいのに、口端を上げ、微笑む。なんでこんなに優しい竜が苦しまなければいけないのだろう。どうにか、どうにか助けてあげたい。
そう祈った瞬間、竜の黒い靄が、私の手に吸い込まれるように移った。
『あれ……?痛いの、良くなった……?』
竜の顔色が良くなっていくと共に、私は身体が一気に重たくなった気がした。
私には、治癒の力も、浄化する力もない。
でも、もしかしたら、この病気の元の黒い靄を自分に吸い込んで移すことはでるきのかもしれない──。
『力を使えば、元々人形のお前は、壊れてしまうかもしれないがな』
ルーラル様の言葉が蘇る。
元々人形だからこそ、使える力なのかも知れない。母の魔力を吸収したように、竜の病も吸収できる……?
たとえそれで壊れてしまったとしても。
私は竜の子へ向き直った。
「他の竜たちも、治せるかも知れないの。竜たちの核に触れさせてもらえるか、一緒にお願いしてくれる?」




