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2.なんでお前が泣く



庭園のガゼボに辿り着き、アレクシス殿下が魔法で灯りをつけた。蛍の光のような綺麗な光景に目を奪われていると、目の前に殿下が座った。



「……色々、混乱させただろう」



静かに話し出した殿下の声に顔を上げると、灯りに照らされた緑色の瞳と目があった。


この綺麗な瞳の奥で、どれだけの葛藤があったのだろうか。


母親には王位を継ぐように強制されて。

父親は自分に興味を示さない。愛情は全て側妃様とエド様に向けられて。その上、実の父親は違うかも知れないと、自分で調べた殿下は、どんな気持ちで真実を知ったのだろう。


側妃様とエド様と過ごす中で、殿下は──。



「……ノルン、なんでお前が泣く……」


「……すみません、色々と勝手に想像したら、つい……」



自分に置き換えて考えたら。胸が痛くなった。

アレクシス殿下は、完璧な第二王子を演じて。いつかはエド様に王位を継いで貰うために、母親や他の脅威の盾になって。


偉そうで、傲慢で、とんでもない王子だと思っていた。


でも、本当は誰よりも優しくて、繊細な人だ。



「……俺は、格好悪かっただろう……」


「え……?ふぐっ──」


ハッと顔を上げると、ハンカチを押しつけられた。変な声を上げてしまって恥ずかしくなる。


「アンリエッタ妃の前でガキのように泣いて、兄上にも……。お前には情けない姿ばかり見せた」


「……いいんじゃないですか、元々アレクシス殿下は可愛げが無いからそれくらいで……」


「は……?」


「い、いえ、なんでも!続けてくださいっ!!」


つい、いらないことを口走ってしまった。

殿下は私を呆れたような目で見て、深いため息を吐いた。



「お前といると……調子が狂うな。いきなり泣き出したり、揚げ足を取られたり……」


「す、すみませんっ!」


「そこが……いいんだろうな……」


「えっ!?」



ポツリと言われた言葉に、涙が引っ込む。

い、いま、なんて……っ!?



「さっき言ったように、俺は国王とは血が繋がっていない。アンリエッタ妃が目覚め、兄上の味方も増えた今、俺は母上と対立し兄上に王太子になってもらうため動くつもりだ」


「は、はい」


何も言わなかったように違う話題に移られ呆気にとられる。

いや、大事な話をしているんだから、雑念は払わないと。

私は真剣に耳を傾けた。



「どうしても、お前とゴンザレス達を巻き込んでしまう。悪いな……」


「い、いえ……」


「瘴気の問題が片付いたら、お前もゴンザレスも『聖女・ポティ』から解放する。好きな道を選べるよう、最善を尽くす。お前が兄上と共に生きる道を選ぶのなら、協力するし、国外に出たいのなら最大の支援をすると約束しよう。だから、もう少しだけ、力を貸してくれないか?」


そこに……アレクシス殿下と共にある選択肢が無いのは、殿下の配慮だろうか。

それが寂しくなる。


『聖女・ポティ』は瘴気をすべて浄化できたら……その役目を終えるんだ。誰を騙すこともなく。自由に──。



「……はい。私たちは『聖女・ポティ』運命共同体ですから、当たり前じゃ無いですか!その後のことなんて、今は……わかりません、今は瘴気を浄化することが、先決です!」



「……そうだな。ありがとう、ノルン」



未来はわからない。

でも、終わりはきっときてしまう。


今までは、エド様の冒険にみんなで一緒について行くのもいいかもしれないと、漠然と思っていた。


エド様は王位を継ぐかもしれない。そうなると冒険者には戻らないだろう。ゴンちゃんだって、聖なる力が認められれば、神殿ですごい地位について豪華な生活が待っているのかも。リドディア様は今回の聖女の活躍を歴史書に纏めるのに全力を注ぎそうだし。


私は、また只のメイドに戻るのかも。


きっと、みんなとはもう近い仲では居られない。


アレクシス殿下に貸して貰ったハンカチを握りしめた。


大丈夫。

だって、森の中ではずっと一人で暮らしていたんだから。

どうにかなる。



私は胸にぽっかりと空いた穴に気づかないように、必死に笑顔を作った──。




◆◆◆



その後、アレクシス殿下はゴンちゃんにも同じ話をした。

ゴンちゃんは──


「ゴンザレスハ、ダイジョーブ!ワルイケムリ、ヤッツケル!!」


と満面の笑顔で返していた。


私たちはリドディア様の帰りを待ち、瘴気を浄化する旅に出る準備をしていたのだけど──



『みなさん、大変なことがわかりましたっ!!直ぐに隠れ里に来てくださいっ!!!』



リドディア様の必死なメッセージが届いたことで、自体は急変したのだった。




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