12.お前は悪くない。
エド様は無事にお母様に会えたのだろうか。
薬は効いたかな……。
コーディネリア公爵家でウロウロする私に、コーディネリア公爵は温かいお茶と、美味しそうなお菓子を差し出した。
「聖女様。エドワルドは大丈夫です。やるときにはやる子なので。信じて待ちましょう」
「は……はい」
「あの子は中々人を信用しない子だけど、聖女様のことは大切に思っているのね」
「え……」
優しい瞳で見つめられ、少しくすぐったい気持ちになる。
そんな私の隣に座ったアレクシス殿下は、勢いよく紅茶をすすり、何となくだけど……拗ねている気がした。
「オカシ、オイシーネ!」
「ふふ。ゴンザレスさんも沢山召し上がってね」
すっかりゴンちゃんはコーディネリア公爵と仲良くなっていた。
恐らくコーディネリア公爵家の聖物も瘴気を発していて、その影響で闇に呑み込まれていた公爵を浄化したら、あの女傑オーラは優しい貴婦人オーラへと変わった。念のため屋敷全体も浄化し、しばらく経つが瘴気は新たに出現していないからもう大丈夫だろうとのこと。ニコニコと微笑む彼女が本来の公爵の姿だったのだろう。
瘴気って……こんなにも人を変えてしまうのか。
マレンディール公爵も、キャスリーン嬢も。
コーディネリア公爵も、ずっと苦しめられていたのだろう。
ゴンちゃんは凄い。
闇を光へ変える力を持っているんだ。
「ノルン?ドーシタノ?」
「ううん、ゴンちゃんが凄いなぁって……!」
「ホメラレタ!ウレシイ!」
いつか、ゴンちゃんが、聖女として表舞台に立って、皆に認められる日が来ればいいのに。
そう思わずにはいられなかった。
◆◆◆
「ノルンっ!ありがとう……っ、母上が目を覚ましたよっ」
息を切らせてコーディネリア公爵家へ知らせに来てくれたエド様に、皆一斉にその場から立ち上がった。
「ああ……っ、アンリエッタ……良かった…っ」
「っ………」
コーディネリア公爵は大粒の涙を流し、その場に崩れ落ち、アレクシス殿下は泣きそうな表情で唇を噛みしめていた。
「エド様っ……良かった……良かったですね!」
「君のお陰だっ。陛下も是非ともお礼をと言っていたよ。貴重な薬を……本当にありがとう」
エド様の目は、少し赤くなっていて、泣いた後なのかも知れない。辛くて寂しい思いをしてきたのだろう。これから、お母さんとの時間を取り戻して欲しい。そう心から思った。
その後、コーディネリア公爵家を後にして、マレンディール公爵達とも別れ、聖女宮へと戻ってきた。
人払いをして、エド様は、アレクシス殿下とゴンちゃん、私へと向き合い話し始めた。
「母上は俺が女装しているのを見てショックで一度気を失ったんだが、また目を覚ましてくれた。宮廷医の診察を受けたら全く問題ないと言われてね。むしろ……母の身体は眠りについた時から全く時を刻んでいなかったんだ」
眠って起きて大きくなった息子が女装に目覚めていたら、ショックは大きいよね。うん。って……、時を刻んでいなかった……?
「その……。これは極秘情報なのだが眠りにつく前に母上が体調を崩していたのは、父上の子を宿していたからなんだ。眠りについてしまい子は流れたと推測されたが、目覚めてから診察を受けたら子の時も動き出したのか、しっかりと鼓動を刻んでいることがわかって……」
「アンリエッタ妃が……ご懐妊……」
「母上が狙われたのは……子を宿していた所為なのかもしれないな」
側妃様のご懐妊は喜ばしい慶事だ。しかし、そのことを良く思わない者が、アレクシス殿下を利用して側妃様の時間を止めてしまったと考えられる。
そうなるとやはり黒幕は──
「母上はアレクにも会いたいと言っていたよ。お前が傷ついていないか、自分を責めていないか、心配していた」
「わ、私はアンリエッタ妃に会う資格はありません……っ。酷い目に遭わせた張本人です。それに、あの花は──」
「アレク。何回も言っただろう。お前は悪くない。母上に会ってやってくれ。今一番お前を心配していて、このままでは父上が嫉妬しそうだからな」
「……はい」
アレクシス殿下は控えめに頷いた。
ずっと、自分の所為でと、苦しんでいたのだと思う。
エド様にも申し訳ない思いでいっぱいだったはず。
アレクシス殿下とエド様も、これをきっかけに、心の壁がなくなるといいな。殿下が……これ以上苦しまないで自分を許せたら……。
「あ、ノルンとゴンザレスくんも一緒に来て欲しい。母上が会いたがっていてね」
「………え?」
何故か私たちも側妃様に会いに行くことになってしまったのだった。




