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10.俺の趣味では断じてないっ!



「エ……エド様……!?」


「くっ……、ノルン、アレク、ゴンザレスくんっ……。心配して来てくれたんだな、すまない……。これは、俺の趣味では断じてないっ!信じてくれっ──」



夕陽色の腰まであるカツラを被り、メイクをして、ドレスを着たエド様はどこからどう見ても……お姫様のようだった。


な、なんでエド様がこんな姿で牢屋に入れられているの!?


これがコーディネリア公爵家の拷問なのか。

ゴクリと喉をならすと、コーディネリア公爵が慌てて牢屋の鍵を開けさせていた。



「エドワルド、ごめんなさい。どうしてもアンリと会いたくなって、あなたにそんな格好をさせてしまったの。女装したままでは逃げる気力も湧かないかと思って……。酷いことをしてしまったわね」


「マーネット……さま?」


「聖物が消失したことも、あなたを疑って酷いことを言ってしまったわ。本当にごめんなさい。清らかな光を浴びたら……胸の中で渦巻いていた黒い気持ちがなくなって……思い返したら酷いことばかり……。なんて謝ればよいのか……っ」



あの鋭い瞳のコーディネリア公爵は何処へ行ってしまったのか。申し訳なさそうに涙ぐみ座り込んでしまった彼女は、とても優しい女性に見えた。



「アレクシス殿下にも酷いことを……。あなたは小さくて利用されただけだと理解していたのに。ああ、どこから謝罪すれば……」


「コーディネリア公爵。貴女も悪い闇に囚われていたようですな。恥ずかしながら、私も娘も聖女様方に助けて頂き、闇から解き放たれました。犯してしまった罪は償うしかありません。さあ、少し落ち着いて話をしませんか」



取り乱すコーディネリア公爵を、今まで空気のようだったマレンディール公爵が一歩前に出て、気遣うように立ち上がらせた。マレンディール公爵は最近まで闇落ちしていたから人ごとではないのだろう。


コーディネリア公爵と、エド様を連れ、私たちは応接間へと戻った。お茶を飲み、少し落ち着いた様子のコーディネリア公爵はポツリと話し始めた。



「アンリエッタは優しい子だった。国外で開かれた舞踏会で気分が悪かった私に気が付き、介抱してくれたことがきっかけで、交流が始まって。親子ほどの離れた年齢だったのだけど、友人と呼べるまで仲良くなった。この国へ側妃として輿入れすると聞いて、コーディネリア公爵家当主としてあの子を支えると誓ったの。あの子は……特別な力を持っている分、繊細で優しすぎる子だから……この国で生き抜くには後ろ盾が必要だと思ったから」



側妃様は小さな国の貴族令嬢だったと聞いたことがある。

特別な力……?

一介のメイドだった私が知っていいのかわからない極秘情報にこのまま聞いていていいのかわからなくなる。


視線を彷徨わせると、エド様と目が合い、大丈夫だよ、と微笑まれる。まだ女装姿のエド様は綺麗すぎてなんだかドキッとしてしまった。



「私が……護ると決めたのに。悪意に晒されたあの子は眠りについてしまった。もう十数年目覚めていない。呪いでも、毒でもない。ただ、アレクシス殿下がお見舞いに贈った花の香りを嗅ぎ、眠りについてしまったの。それが悲しくて。どうにもできなくて……どんどんと心が闇に呑まれてしまったのね」


アレクシス殿下が……贈った花……。

振り返ると、殿下は悲しそうに俯いていた。


十数年前のことならば、幼い頃の出来事だろう。

小さな殿下が悪意を持って、側妃様に花を贈るなど有り得ない。

誰かが……そう仕向けたのに巻き込まれたのでは。


「アレクは悪くない。母上は本当に喜んでいたんだ。アレクを……実の息子のように思っていたから」


「っ……でも──」


「そう。アレクシス殿下は悪くない。それなのに、この悲しみや怒りをぶつける相手がいなくて、随分酷いことを言ってしまったわ。ごめんなさい。どう償えば……」


「い、え……、悪いのは……私です。謝らないでください」



コーディネリア公爵もアレクシス殿下も、側妃様が大好きだったんだろう。だからこそ、悔やんで、すれ違って、傷つけ合った。


エド様も二人の間で、悩んだり、辛い思いをしたのかもしれない。

実の母親がずっと目覚めないのも、心がすり切れるくらい苦しいに違いない。本来なら、アレクシス殿下を憎んだって仕方ないのに、エド様は誰も憎まず、自分で出来ることを探していた。


誘拐事件の時も、母親を亡くしたヨシアさんの思いに寄り添って、彼を正そうと尽力していたのは……自分と重なるところがあったからだろうか。



そう思うと、胸が苦しくなった。



どうにか、側妃様を目覚めさせられないだろうか。

こんなにも、側妃様を思って心を痛めている人がいる。

なにか──。



『ノルン、どんなお寝坊さんでも、吃驚するほど目覚める薬があるのよ』



母親の声が脳裏に蘇った。



「めざめ……ぐすり……」


「ノルン……?」


「めざめ薬は試しましたか!?私の母は森で薬師のような仕事をしていたんです。母の薬は良く効くって評判で。母はどんなに眠っていてもすぐに目覚める薬があると……。待ってください、確か……」



ゴソゴソと収納ポーチの中を漁り、母が作ってくれた薬を大切にしまっておいた箱を取り出した。


箱の中にある、いくつもの薬の中からめざめ薬を取り出した。



「こ、これを試してみてくださいっ!」



必死な思いで、薬をエド様に差し出したのだった。



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