8.なんで海と魔魚が出てきたんだ?
エド様が音信不通のまま一日が経過した。
アルステディール公爵家の聖物が消えてしまった日に、もしもコーディネリア公爵家の聖物も消えてしまって……その時に外部から尋ねてきたのがエド様だけだったのなら……。
エド様、今大ピンチなのではっ!?
マレンディール公爵家の聖物も消えてしまったのではと思い、公爵家へ問い合わせたら、
「我が家の聖物は……消えてしまったと言えば消えてしまったのですが。その、聖物自体は消えていない、埋め込まれていた石だけが消えてしまっています」
憔悴した様子の公爵がそう答えた。聖物である慰霊碑に埋め込まれていた石……あの魔魚の鱗のような石だけ消えてしまったらしい。
聖物が浄化された影響?
吸い込まれた世界で出会った魔魚の妖精さんを思い出す。
『トモダチ。ヤチヨと約束……した。でも、ヤチヨ、来ない。ずっと、ずっと……』
今までずっと初代聖女様を待っていたようなことを言っていた。
妖精さんが慰霊碑の主だとして。
初代聖女様が来ないと思って、もう待たないと決めたのなら。
『ノルン……。代わり、してくれる?』
そうだ、そう言っていた。
初代聖女様の代わりを探そうとしている……?
この地に留まらないと決めて、どこかに行ってしまったとしたら。慰霊碑は主をなくして消滅……する?
「おい、ノルン……?」
「っ……、う、海が怪しい……魔魚のふるさとの海に探しにいった……?」
「何言ってるんだ……。大事な話をしているんだから、しっかり聞けっ」
「え……?」
そ、そうだった。
今は、アレクシス殿下とリドディア様、ゴンちゃんと、消えた聖物について話し合っていたんだった。
エド様も帰ってこないし……。
情報は二家からは全く入ってこず、マレンディール公爵家の情報のみだった。
「ったく、お前は……」
呆れた表情のアレクシス殿下は、あの告白などなかったように普通に接してくれる。
それにホッとしている自分がいた。今は、消えた聖物と、帰ってこないエド様で頭をいっぱいにしたい。じゃないと、混乱してしまって何も手に着かなくなる。
心臓だって、このままじゃ過剰に働き過ぎていつか爆発してしまうに違いない。ちゃんと冷静に考えられるまで。
卑怯かもしれないけど、私は逃げることを選択した。
「で、なんで海と魔魚が出てきたんだ?」
「あ、あの……石碑に吸い込まれた世界で会った、腕や頬に綺麗な鱗が生えていた子ども、恐らく魔魚の妖精さんが聖物の消失に関係しているのではと思ったんです。妖精さんの鱗は、聖物に埋め込まれていた石によく似ていたから」
「魔魚の……妖精……」
消えてしまった石碑の石が、魔魚の鱗だとしたら。
「妖精さんは、初代聖女様と何か約束をしていてずっと待っていたと言っていました。初代聖女様がもう居ないと知り……代わりを探しに故郷の海へ行ってしまったのでは。慰霊碑の主が妖精さんだとしたら、主をなくした石碑は消滅してしまったのかと……」
私の推理に三人は黙り込んでしまった。
まあ、二家の聖物がマレンディール公爵家と同じ石碑である確証もないから……。やはり突拍子のないことを言ってしまったのだろうかと段々恥ずかしくなってきた時──
「腕や頬に……鱗を生やした……人の姿をした者……。いや、まさか……」
リドディア様が何かを思い出したように顔を上げたが、また悩み込み、そして息を吐いた。
「遙か昔に書かれた記録に……そのような記載があったような記憶があります。魔魚だったかは定かではないのですが」
「っ……!!」
「我がムース家の隠れ里まで行かなければ詳細は調べられません。少しお暇を頂いても?」
魔魚の妖精さんについてわかれば、聖物の消失についても光が見えるかも知れない。アレクシス殿下は頷いた。
「いいだろう。では、リドディアには鳥を付ける」
アレクシス殿下が何かを唱えると指先に光りでできた鳥がとまっていた。これは魔法の鳥……!?
王妃様のところでは魔法が封じられていたって言ったけど、使えるようになったらしい。あの魔法封じは王妃宮だけの効果だったのだろうか。いずれにしても魔法が使えるようになってよかった。
「連絡はこいつで寄越せ。小さいが魔除けくらいにはなる」
「わかりました。お預かりいたします」
リドディア様は鳥を肩に乗せそのまま聖女宮を旅立っていった。
リドディア様の情報を待ちながら、エド様も早く帰ってきますようにと祈っていたが、エド様はその日も帰ってこなかった。
「やはり、兄上は何らかのトラブルに巻き込まれているようだな」
アレクシス殿下が決断し、私たちは、コーディネリア公爵家へエド様を救出しに向かうこととなった。




